11月28日/経済法規委員会意見

「独占禁止法研究会報告書に対する意見」を公正取引委員会に提出


公正取引委員会は、次期通常国会に課徴金の引き上げ等を含む大規模な独禁法の改正を予定しており、さる10月28日、措置体系ならびに独占・寡占規制の見直しについての「独占禁止法研究会報告書」を公表した。経済法規委員会(共同委員長:小林正夫氏)では、上記報告書に対する反対意見をとりまとめ、11月28日、公正取引委員会に提出した。以下は、その概要である。

「独占禁止法研究会報告書」に対する意見(概要)

1.措置体系の見直しについて

日本経団連は、先に「独占禁止法の措置体系見直しについて−日本経団連としての見解」(9月5日)を公表し、独占禁止法違反行為の抑止のためには、官製談合の横行やその背景にある予算の硬直性や政治の介入などの構造的な問題、公取委の権限・体制の整備も含めて、総合的な見地から効果的な対策をとる必要があることを指摘した上で、措置体系全体および公正取引委員会の審査・審判のあり方についての具体的意見を提示した。
一方、公正取引委員会の「報告書」は、日本経団連が指摘してきた根本的問題を置き去りにして、事業者に対する制裁を強化しさえすれば独禁法違反がなくなるとの考えのもとに、これまで課徴金の法的性格をカルテルによる「不当利得の剥奪」と説明されてきたものから、「社会的厚生の損失の補償」という新たな概念を持ち込み、不当利得をはるかに超えた額の課徴金を課すことを求めている。そのうえで、加算・措置減免制度の導入、課徴金対象行為の価格カルテル・入札談合以外の違反類型への拡大を図ることを提案している。
しかしながら、「社会の経済的厚生」とは、単なる講学上の概念に過ぎず、その「損失」をもって課徴金の算定根拠とすることは極めて不明確な基準であり、具体的な算定は不可能である。
また、「不当利得」の剥奪を超えて課徴金を課すのであれば、そのような課徴金はもはや「制裁」であり、刑事罰との併科は、憲法上の「二重処罰の禁止」に抵触することとなる。
加えて、報告書が「加算」の要件とする再犯、長期間の違反、大規模企業による違反、役員の関与は、いずれも反社会性・反道徳性、悪質性・有責性を問う要因であり、ここに犯則手続を導入すれば、“その趣旨、目的、手続”を同一とし、刑事罰そのものである。これら要因は、司法手続の中でこそ評価されるものであり、行政処分としてこのような「加算」制度を導入することは、容認できない。
さらに、「報告書」の言う措置減免制度は、その発動要件が不明確であり、公正取引委員会の裁量なしには機能し得ないものであること、刑事告発との関係などの問題が解決されていないこと等、更なる検討が必要である。
以上、指摘したように、「報告書」は、措置体系見直しとして不充分、未成熟であり、このような短絡的な姿勢のもとで法改正を進めることは、独禁法の将来を誤るものである。また、デユー・プロセス(適正手続)の保障のないままの措置体系強化は、国民の理解を得られず容認できるものではない。
具体的な見直しの方向としては、刑事罰と課徴金が併科される現行制度を抜本的に改め、課徴金をEU型の「制裁金」に改めつつ、行政上の制裁と刑事制裁の関係を整理するか、少なくとも、制裁としての課徴金を課す事案においては、法人に対する刑事罰を科さない体系とすることを検討すべきである。
いずれにせよ、独占禁止法の趣旨に鑑み、悪質性・重大性に応じて社会的に納得の得られる制裁が科されるような制度設計が必要であり、同時に公正取引委員会の手続において、適正かつ透明性を有するデユー・プロセスの保障を確保すること等が必須である。

2.独占・寡占規制の見直しについて

公正取引委員会の「報告書」は、公益事業等について従来の私的独占、不公正な取引方法の禁止に加えて、「不可欠施設等」を専有する事業者による参入阻止行為に対して「正当な理由がない限り違法」とする新たな規制を導入するとしているが、これは曖昧な構成要件のもとに、当然違法の原則が適用されるかのような新たな規制類型を導入するに等しく、容認できない。
また、対象事業については、それぞれの事業法において新規参入、競争要件等が定められており、事業法を遵守している事業者が独禁法違反に問われる懸念さえある。

3.独占禁止法改正に係る手続について

報告書に指摘された事項に従い独禁法に改正が行われるならば、昭和52年改正以来の大規模な改正となることが予想される。
ところが、課徴金の法的性格の見直しや加算制度、減免制度の導入など、独禁法の骨格とも言える要素の改定にあたって、独占禁止法研究会は、その中間報告を公表することもなく、最終報告案へのパブリックコメントにさえ、1ヶ月強の検討期間しか与えていない。独禁法という極めて専門性の高い法の性格、報告書に含まれる基本的問題への提起を考えるならば、今回のパブリックコメントの聴取手続上も不可解さを払拭できない。
昭和52年改正に至る経緯を振り返れば、49年7月の独占禁止法研究会報告から52年第80回通常国会における改正法成立に至るまでに3年余り、48年の通常国会において高橋公正取引委員長答弁が法改正の必要性を示唆してよりは4年間を要している。
公正取引委員会ならびに政府が、独占禁止法改正を国民経済の健全発展に不可欠な課題と考えるならば、報告書をひとつのたたき台として、国民各層の意見を真摯に徴しながら、さらに政府全体としての審議・検討を行うべきである。
少なくとも、公正取引委員会はパブリックコメントとして寄せられた内容を公表するとともに、コメントに対する公正取引委員会自身の見解を示すべきである。その上で、さらに公正取引委員会としての独占禁止法改正の具体案を作成・公表し、再度、国民各層の意見を徴することが必要であると考える。


《担当:経済本部》

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