12月24日/経済法規委員会(委員長 御手洗冨士夫氏)

会社法制の現代化の意義と今後の展望

−法制審議会会社法(現代化関係)部会における審議のポイント


Introduction
日本経団連は2003年10月に「会社法改正への提言」を公表するなど、企業・株主等の選択を尊重し、国際競争力の確保の礎となる会社法の改正を求める経済界の意見を反映させるべく積極的に取り組んでいる。12月24日には法務省の意見照会に対応し、「会社法制の現代化に関する要綱試案についての意見」を取りまとめた(10頁参照)。これに先立ち、経済法規委員会では法制審議会会社法(現代化関係)部会の部会長である東京大学法学部の江頭憲治郎教授より「会社法制の現代化に関する要綱試案の意義と今後の展望」について説明をきき、意見交換を行った。

I.江頭教授説明要旨

1.会社法改正の流れと現代化の意義

1997(平成9)年以降の会社法改正の主要課題は (1)企業組織再編、(2)新事業の創出、(3)コーポレート・ガバナンスの3つに整理することができる。これらの課題については商法、商法特例法、有限会社法のみならず、産業再生特別措置法、新事業創出促進法といった特別法によっても規律され、さらには会計や税制など他の制度の改正とも相まって社会経済情勢の変化への対応を図ってきた。
会社法の「現代語」化についてはかねてより準備が進められていたが、その目的である「分かりやすい会社法」をつくるためには、委員会等設置会社とそれ以外の会社との間にある不均衡(取締役の責任について前者は原則過失責任で後者は無過失責任、利益処分権限が前者は取締役会で後者は株主総会)のように、度重なる改正の中で生じた会社法制の諸制度間の不均衡を是正することが必要である。
また、少数株主権の「少数」を議決権数の少数と定める規定、過失責任主義を採用しながら取締役会決議に異議をとどめないと決議に賛成したものとみなすといった規定など、理論的な整合性に疑問のあるものについて改正する必要がある。

2.当事者の選択の余地の拡大

法制審議会会社法(現代化関係)部会で取りまとめた「会社法制の現代化に関する要綱試案」においては、譲渡制限会社について取締役会を置く会社と置かない会社という2つの類型を設け、後者については現行の有限会社同様の仕組みを用意している。小規模な株式会社と有限会社の実態は似ているとされていたが、こうした会社はいずれの会社類型も選択の余地が広がる。
公開会社を含め、当事者の選択の余地の拡大(定款自治の拡大・組織再編の柔軟化)は、1997年以降の会社法改正の一貫した流れであり、世界的な傾向でもある。もともと大陸法系諸国の会社法は、非公開会社については定款自治を広く認めるものの、公開会社については法でしっかりと枠組みをつくるというものであった。しかし、近年ではこれら諸国の法制も、米国デラウェア州法のような定款自治を広く認める法制へと改正がなされてきている。ただし定款自治の拡大は、日本では専ら経営者の自由の拡大を意味しているが、ドイツでは株主に対する制限の撤廃を意味するといった違いはある。

3.訴訟委員会制度

現在挙げられている多くの論点のうち、12月17日の会社法(現代化関係)部会では、米国の訴訟委員会制度にならい、会社の意見を裁判所に対して述べるといった制度を設けるべきかということについて議論が行われた。論点は、以下のとおり。

  1. 代表訴訟において社内での調査結果等を裁判所に提出することは争点整理に役立つが、これは企業が訴訟委員会を組織して対応するのではなく、裁判所が文書提出命令によって資料を出させることでも対応し得るとも考えられるがどうか
  2. 会社が代表訴訟を追行するとかえって会社に損害が生じるような場合があるが、これは訴訟委員会制度を設けなくとも、そのような場合に法律で棄却をすることができればよいのではないか
  3. 訴訟委員会を設けた場合にその検討結果を裁判所が尊重する仕組みを設けるか

4.今後の展望

会社法制の「現代化」の後も、当事者の選択の余地の拡大の基調は変わらないであろう。それが国際競争力の強化に繋がるというのが世界の共通認識となってきている。一方で、学者などからは、利用しやすいことと濫用の防止のバランスが必要だ、経営者・債権者・株主など利害関係者の調整機能を発揮すべきだ、といった批判もある。
デラウェア型の当事者の選択を尊重する会社法の前提は、法による規律を自由にする代わりに市場による規律が与えられることにある。市場による規律が機能するためには、投資家が信頼するに足る専門家や証券市場の仲介者の存在が重要である。米国では専門家が信頼を裏切ったことが問題となっているが、日本ではそもそも信頼関係があるのか疑問であり、市場機能の一層の充実が求められる。胃が悪い時には生活習慣から改めるように、会社法を機能させるには、そのための環境を整えることが重要である。

II.意見交換(要旨)

日本経団連側:
(1)訴訟委員会制度の機能ならびに、(2)会社による補助参加との関係などについて議論の状況はどうか。
江頭教授:
(1)米国では会社が提訴請求を受けて提訴をしなかったことが争点となり、会社は当然被告となる。会社が当然には被告とならない日本で訴訟委員会制度を認めた場合、どのような資格で訴訟手続に入ってくるのかといった問題を検討する必要がある。また米国のように委員会の独立性から審理を始めるとかえって訴訟に時間がかかるといった点も考慮する必要がある。
(2)現行法の下で会社の補助参加は広く認められており、現行法の問題点の指摘はなかった。補助参加制度や担保提供制度など現行法上の制度と訴訟委員会制度との関係については詳細の検討には至っていない。

日本経団連側:
純粋持株会社と持株子会社の監査役の業務にはどうしても重複が生じる。純粋持株会社の規律は一般的な会社の規律に基づくものでよいと考えるか。
江頭教授:
今回の要綱試案においても、そうした会社の監査役や会計監査人の問題、代表訴訟のあり方の問題などを個々に検討しているが、一つにまとめて考える必要があるとは思う。現段階ではそこまで至っていない。
《担当:経済本部》

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