12月11日/経済法規委員会企画部会(部会長 西川元啓氏)

米国株主代表訴訟における訴訟委員会の役割

−日本への制度導入の可能性


Introduction
日本経団連はさる10月に「会社法改正への提言」を公表し、その中で訴訟委員会制度の導入を求めている。こうした働きかけを受け、12月17日の法制審議会会社法(現代化関係)部会では、株主代表訴訟の見直しについて議論がなされた(12頁参照)。そこで経済法規委員会企画部会では、これに先立ち、神戸商科大学の釜田薫子講師を招き、米国の株主代表訴訟における訴訟委員会の役割について説明をきき、日本への制度導入の可能性について、意見交換を行った。

I.釜田講師説明要旨

1.米国における代表訴訟終了制度の概要

(1) 取締役会に対する提訴請求

米国の代表訴訟制度において、株主はまず取締役会に対する提訴請求を行う。法が提訴請求を求める趣旨は、会社内の問題を裁判所に持ち込むには、それ以前に会社内部で採り得る全ての救済手段が検討し尽くされることが必要であり、裁判所の判断を求めるまでに熟していない問題から裁判所を解放することにある。

(2) 取締役会による提訴請求の拒絶

提訴請求を受けた取締役会は、(1)原告に訴訟を追行させる、(2)会社自身が訴訟を追行する、(3)和解を進める、(4)請求を拒絶する、の中から選択を行う。(4)の場合、取締役会は利害関係のない取締役等によって拒絶の判断をした旨、拒絶理由を書面で示す。
原告株主は (1)提訴拒絶の書面が正確でない、(2)提訴拒絶が経営判断の原則の要件を満たしていない、(3)提訴請求拒絶が会社の最善の利益にかなうとの取締役会の判断は合理的でない等と訴えを提起する。
この場合、裁判所は、取締役会が出した提訴請求拒絶の文書に不備があるか、取締役会が被告や不正行為と利害関係があるかなど、主に手続的な問題を検討する。

(3) 訴訟委員会による申立て

会社が訴訟委員会を設置し、その判断に基づいた申立てが行われた場合、裁判所の検討は、「訴訟が会社の最善の利益に合致するかどうか」に重点を置く。
訴訟委員会の判断を検討する前段階として、裁判所は、(1)委員会の独立性(訴訟委員会の構成員と構造的偏向)、(2)委員会の誠実性(訴訟委員会の調査)を審査する。
委員会の独立性を判断するために、訴訟委員会の構成員が被告や不正行為と利害関係がないか、人数は相当数確保されているか等の検討がなされる。委員会の委員は取締役から任命を受け、財政的・道徳的影響等を受けるという「構造的偏向」があるとの指摘があるが、これを理由に訴訟委員会の判断を認めないという判例は少数に過ぎず、むしろ会社の法律顧問であったことや単に同じ会議に出席していたということだけでは独立性を失わないと判断される。
委員会の誠実性を判断する上で、訴訟委員会が自ら選んだ弁護士の補佐を受けて会社内部の調査をしたか等の検討がなされる。取締役会の提訴請求拒絶が不当等の原告の請求が認められると、原告は訴訟委員会の調査内容について証拠開示を請求できる(ディスカバリー制度)。この際、訴訟委員会の調査が不誠実なものだと判断されると、訴訟委員会の申立ては認められず、訴訟が継続する。弁護士のインタビュー記録やメモは開示不要だが、その特権を濫用し、あえて弁護士に調査を任せきりにするような調査は不誠実とされる。

2.裁判所による審査の基準

「会社の最善の利益」に関する成文法上の要件はない。判例では、訴訟を続けることで会社役員の時間が浪費される、従業員の士気が落ちる、会社の評判に傷がつく等を会社の最善の利益に反するとしている。
米国法律協会は、原告勝訴の確率が高い場合や、回復見込みのある損害賠償額が著しく大きい場合は訴訟を却下できない要素となるとし、一方、内部統制システムが採り入れられた場合や内部是正措置が採られた場合には却下の要素となるとする。
判例では、(1)委員会の判断自体を全く審査しないとする基準(伝統的経営判断原則)、(2)取締役会への提訴請求が必要な事例の場合は伝統的経営判断原則で、提訴請求が不要な事例の場合は裁判所が判断をするという基準、(3)(2)で提訴請求が不要な事例の場合でも委員会の判断の合理性しか審査しないという基準等がある。
米国法律協会は、原則として、注意義務違反の事例には経営判断の原則を適用し、忠実義務違反や具体的違反行為を含む事例には、却下が会社の最善の利益に合致すると訴訟委員会が判断したことに合理性があり、その判断に信頼できる根拠があると裁判所が認めた場合には却下できるとした。

3.日本での訴訟委員会制度導入の可能性

米国では株主が取締役会に提訴を請求し、それが不当に拒絶された場合にのみ提訴できる。日本では株主が提訴請求後、会社が60日以内に提訴しない場合には、株主は当然に提訴でき、会社が提訴しないことは当然に不当性を帯びるものとされている。仮に日本でも会社に訴訟についての判断権を与えるのであれば、会社が提訴しないことが当然には不当性を帯びないものであると発想を転換する必要がある。そして代表訴訟の構造を第1段階として「提訴請求とその拒絶、不当性の証明の段階」、第2段階に「提訴後の訴訟委員会の申立て段階」を設ける必要がある。これにより、現行制度より訴訟全体の費用、時間がかかることを覚悟することが必要である。
訴訟委員会制度が有効に機能するためには、会社の主張を社会が信頼することが前提になる。私見としては、一気に会社の判断を尊重する制度を導入するのではなく、会社側の調査結果を明示して提訴請求を拒絶し、それに対して原告が意見を述べるような改善を行い、会社の調査結果を信頼する方が負担が軽くなると関係者が認識するような環境づくりが大切であると考える。

II.意見交換(要旨)

日本経団連側:
日本では、会社の判断は信頼できず、経営者に対する懲罰的発想から制度が構築されているが、米国では「会社の最善の利益は何か」から発想している。一気に米国型に発想を転換したほうがよいのではないか。

釜田講師:
日本にも担保提供制度があり、濫訴とそうでない訴訟を分ける機能はあるが、会社のためにならない訴訟を分ける機会がなく、会社が提訴しないことは当然に不当性を帯びるとされた。会社の主張を説明する機会をつくることがまず重要であろう。
《担当:経済本部》

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