4月14日/意見書

外国人受け入れ問題に関する提言を公表


日本経団連では、昨年1月に公表した新ビジョン『活力と魅力溢れる日本をめざして』において、「多様性のダイナミズムによって日本の社会経済に再び活力を取り戻す」という観点から、外国人も活躍できる環境の整備を提案した。その後、産業問題委員会と雇用委員会のもとにワーキンググループを設置し、企業関係者や関係省庁・地方自治体の担当者、大学関係者などから意見を聴取しながら『中間とりまとめ』を作成し、昨年11月14日に発表した。これをもとに国民各層に広くパブリックコメントを求め、それらを反映した提言を今般とりまとめた。以下は、その概要である。

1.基本的な考え方

(1) 付加価値創造力を高めるための外国人活用

国際的な人材獲得競争の激化や少子化・高齢化など社会経済構造の変化といった状況を踏まえ、多様性のダイナミズムを活かし、国民一人ひとりの“付加価値創造力”を高めていく、そのプロセスに外国人の力を活かす。2006年より、わが国では総人口が減少に転じるとされているが、その埋め合わせのために、外国人の受け入れを進めていこうとは考えていない。

(2) 受け入れのための三原則

外国人の受け入れを実現するための原則として、
(1) 質、量両面で十分にコントロールされた秩序ある受け入れを行うこと、
(2) 受け入れる外国人の人権や尊厳を損ねるものではあってはならないこと、
(3) 送り出し側にもメリットのあるものであること、
が重要である。これらの三原則のもと政府は、3年、5年と期限を定めて具体的な施策を展開する必要がある。

2.具体的な提案

(1) 日本企業における雇用契約、人事制度の改革

企業における人事制度の見直しや企業内の意識改革を進め、異文化シナジーを生み出す経営を確立する必要がある。また、日本企業は外国人が働き甲斐を感じ得る仕事と処遇を提供することが重要である。

(2) 国と地方自治体が一体となった整合性ある施策の推進

外国人の受け入れ体制を巡り、国の縦割り行政の弊害が強く出ていることから、当面の対応として、内閣に「外国人受け入れ本部」を、内閣府に「特命担当大臣」を設置する必要がある。また将来的には、「基本法」の制定、「外国人庁」の創設の検討が求められる。
加えて、「外国人雇用法」(仮称)を制定し、新しい就労管理の仕組みを導入するなかで、企業が外国人の雇い入れ時と離職時に、外国人個々の情報を行政に報告するなどの責務を果たすべきである。

(3) 専門的・技術的分野における受け入れの円滑化

企業のニーズを踏まえ、特にグローバル経営推進の観点から不可欠な「企業内転勤」について、業務経験が1年未満の外国人であっても受け入れができるようにすべきである。
また、高度人材の定住促進に向けた“日本版グリーンカード制度”の創設を検討すべきである。

(4) 留学生の質的向上と日本国内における就職の促進

昨年、「10万人計画」(1983年中曽根内閣が決定)が達成されたことから、質的向上に重点を移すべきである。国内外における日本語教育の充実を図るとともに、留学生の日本国内における就職の促進に向けて、卒業後企業のインターンシップ制度のもとでトレーニングができる1年間の在留許可制度を新設する必要がある。

(5) 将来的に労働力の不足が予想される分野での受け入れ

現在、タイ、フィリピンから看護や介護等の分野の人材受け入れに対する強い要望が出されていることから、秩序ある受け入れのためのシステムを確立することが急がれる。具体的には、(1)求められる職種・技能の要件や受け入れ人数、期間を明確にすること、(2)二国間協定の締結を通じて、公的機関等による送り出し・受け入れ体制を確立することが重要である。

(6) 外国人研修・技能実習制度の改善

地域の地場産業などにおいて、本制度が正しく活用されている例は多いが、一方で失踪や賃金・手当ての不払いなどの問題が生じているとの指摘も聞かれる。そこで、受け入れ機関の不正行為に対する処分内容の強化や研修・技能実習生の早期帰国制度の導入等、制度の改善に重点を置くことが必要である。

(7) 外国人の生活環境の整備

多文化共生を促す地域の役割として、外国人に対する相談窓口の開設や日本語学習の機会提供などを進めるべきである。また、外国人の子弟教育も重要な課題であり、在留資格付与の要件として、子弟の教育機関の特定を組み入れることなどが求められる。
さらに社会保障制度の改善・充実のために政府は、できるだけ多くの国々と社会保障協定を締結するとともに、公的年金と医療保険の加入を巡る問題の解決を急ぐべきである。

(8) 日系人の入国、就労に伴う課題の解決

今後入国を希望する日系人については、企業との雇用契約が整い、日本において安定的に職が得られる者に限って在留資格を与えるなどの制度改正が求められる。

(9) 受け入れ施策と整合性の取れた不法滞在者・治安対策

国民の不安を取り除くために不法滞在者の取り締り強化は重要であるが、同時に、受け入れ施策を充実させることにより、外国人が犯罪に引き込まれないようにするという、治安対策と受け入れ施策のバランスを重視することが求められる。
外国人が安心して仕事や勉学に励み、安定的な生活を送ることができるような社会環境を整備することにより、犯罪を減少させることは十分可能である。来日する外国人の子弟をも対象とした日本語教育、就労支援、差別の防止など、多面的な外国人受け入れ施策を国と地方自治体とが一体となって展開することが求められる。


《担当:総務本部》

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