経済調査常任委員会(委員長 石川武氏)/5月23日

景気認識と今後の経済運営をめぐり田中経済企画庁事務次官と懇談


経済調査委員会では、常任委員会を開催し、田中経済企画庁事務次官を招いて、景気認識と今後の経済運営をめぐり懇談した。席上、田中事務次官より、景気は緩やかな回復に向かいつつあるものの、在庫、設備投資、雇用等が完全に調整しきれていない面もあるとの見解が示された。これに対し、経団連側からは、経団連のアンケート調査によると、景気は先行き予断を許さず、失速の惧れがあるとの回答が76.5%を占めていることを指摘し、公的資金投入による不良債権問題の早期解決、円の国際化推進等の対応を求めた。

1.田中事務次官説明要旨

  1. 景気は、緩やかな回復に向かいつつあるものの、在庫、設備投資、雇用等の調整が完全に終わっていない側面もある。

  2. 消費は、阪神大震災等の社会不安により多少かげりがみられたが、雇用者所得は増加しており、今後も緩やかな回復が続くとみている。

  3. 稼働率は回復しており、資本ストックの伸び率も鈍化しており、設備投資調整は最終局面に入りつつある。設備投資の先行指標の機械受注は増加傾向で推移しており、設備投資は徐々に増加に向かうと見ている。

  4. 阪神大震災によるマイナスの影響は、一過性のものであった。今後、復興需要が期待されるが、被災地は瓦礫の処理に追われており、当初期待されたほどの効果はみられない。

  5. 急激な円高による設備投資や雇用面への影響が大変心配される。最近、円高・ドル安が急激に進んだ背景には、
    1. アメリカの景気転換と構造問題
    2. NAFTA、EUに代表される地域経済主義の台頭
    等がある。わが国政府としては、円高・ドル安是正のために、アメリカに対して、ドル防衛策を打ち出すよう、働きかけているが、アメリカは自国の経済政策に自信を深めており、わが国の見方とは大きな隔たりがある。

  6. 円高への対応としては、
    1. 円高を全力で阻止するために、将来の増税覚悟で内需拡大策をとる、
    2. 経済の合理化努力をさらに続ける、
    3. 円高のプラス面を活かすことにより円高と共存する、
    の3つが考えられるが、実際の政策はこれらをミックスしたものとなるであろう。

2.経団連アンケート調査結果報告

経団連が5月下旬に実施した第24回経済動向に関するアンケート調査結果によると、企業業績については、「回復基調」との回答が、前回94年11月調査に比べて減少する一方で、「かげりがみられる」との回答が前回に比べて増加した(下図参照)。景気の見通しについても、先行き予断を許さず、失速の惧れがあるとの回答が76.5%を占めた(表紙参照)。95年度の成長率見通しは、平均で1.5%となった。わが国経済の実力からみた適正な円レートについては、95年1月に実施した調査では、「110〜120円未満」との回答が5割強を占めていたが、今回調査では「1ドル=100〜110円未満」との回答が4割を占めた(表紙参照)。

企業業績の現状

3.懇談

経団連側:
現在の為替の混乱は、基軸通貨国が債務国となっているためである。日本政府は、円高・ドル安が好ましくないと強く訴えるべきである。
また、経済の活性化を図るために、デフレ問題解決が不可欠である。また、金融機関の不良債権解消のために、財政資金投入を検討すべきである。

田中事務次官:
OECD経済政策委員会において、「昨今の為替変動の原因は基軸通貨たるドルの減価にある。基軸通貨国の節度が重要である」と指摘した。しかし、アメリカは、インフレ懸念の低下、株価の堅調な推移、貿易赤字低下などにより、経済政策に自信を深めており、わが国の見方とは大きな隔たりがある。

経団連側:
円高・ドル安の原因はアメリカ側にあるが、アメリカは痛痒を感じていない。中長期的に円の国際化を進めれば、アメリカの対応も変わるであろう。

田中事務次官:
円の国際化については、短期的に更なる円高を招くとの懸念もあるが、アジア諸国からの要望もあり、無理のない範囲で推進すべきである。円の国際化を進めるために、円に対する信認ならびに流動性を高めることが必要であり、問題となる規制は撤廃すべきである。

経団連側:
本格的な内需拡大を図るためには、予算配分の見直しが必要である。景気に即効性のある分野に予算を重点配分すべきである。

田中事務次官:
関西空港ならびに東京湾横断に匹敵するような、ナショナル・プロジェクトを企画し、実行することも考えられる。従来型の公共投資以外にも、研究開発や情報通信関連のインフラ、安全面への投資が必要である。とりわけ、情報通信インフラへの重点配分が重要である。


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