新産業・新事業委員会(委員長 大賀典雄氏)/7月18日

コーポレート・ベンチャリングにおける経営トップの役割


新産業・新事業委員会では、企業内における新規事業の創出、イノベーション推進のための施策等を研究しているペンシルバニア大学ウォートンスクール起業研究所長のマクミラン教授、コロンビア大学ビジネススクールのマグレス助教授を招き、新規事業分野への進出に際して必要な条件につき説明を聞いた。マクミラン教授は、コーポレート・ベンチャリング(企業内ベンチャー)の推進にあたっては経営トップのリーダーシップが重要との見解を示した。
また、同日、委員会の中間提言が公表された。後半ページはその概要である。

マクミラン教授・マグレス助教授 講演要旨

 マクミラン教授   マグレス助教授

アメリカではベンチャー企業が新産業の担い手として大きな役割を果しているが、日本の風土からすると、既存の企業内に起業家精神を育んでいくことが現実的だろう。

経営トップの役割は、新規事業分野への進出に伴う不確実性を減少させることである。そのためには、明確な目標を設定・提示するとともに、その実現に向けた手段については自由度を与えることが必要である。過去の目標や成功例に固執するあまり、新しい可能性の芽を摘んでしまうことを防ぐためにも、柔軟な対応が必要である。

新規事業は初期段階においては、当然のことながら本業よりも売上げが小さいため、経営トップが支援を約束することが必要である。成長過程においては財源・予算をとりつけ、十分に大きくなった段階で本業と並ぶ位置づけを与えることができるのは経営トップだけである。そういった決断をするためには、経営トップ自らが新しいアイデアの持つビジネスの可能性を把握する必要がある。そのためには、アイデアを提出してきた者に対して、

  1. 顧客が明確に想定できているか、
  2. 顧客が、新しい製品・サービスの選択に伴うリスクを乗り越えるだけの購入動機があるかどうか、
  3. その製品・サービスの使われ方が想定できているかどうか、
について明確に質すことが必要である。経営トップは、自社の新規事業について、自ら顧客にこうした点を明確に説明できる必要がある。

過去5年ほど、日米の主要企業の新規事業進出の状況を見てきたが、アメリカ企業より日本企業の経営トップの方が、企業内ベンチャーに対する意識が高い。その意味で、コーポレート・ベンチャリングは日本企業で成功する可能性が高い。


「新産業・新事業創出への提言
 −起業家精神を育む社会を目指して」

(新産業・新事業委員会中間提言)

問題意識

はじめに…政策提言並びに企業経営者へのメッセージ
第1章 基本認識
  1. なぜ今、「起業」が必要か…産業成熟化・空洞化…新産業・新事業の発展が不可欠
  2. 「起業」を阻んでいるものと変革の方向…リスクに見合う報償を享受できる仕組みが必要

新産業・新事業発展のための基本的条件

第2章 新産業・新事業育成に必要な環境づくり
  1. 自由で活力ある市場経済の実現…商慣行の是正、規制緩和の推進、持株会社の解禁等
  2. ストック・オプションの整備…新株有利発行方式、株価・業績連動型役員報酬制度
  3. 税制改革…所得税・法人税減税、連結納税制度、起業支援に向けた政策税制の活用
  4. 人材の流動化…雇用体系・慣行の見直し、民間による職業紹介の自由化等
  5. ビジネスにつながる研究開発の促進…大学・国公立研究機関の起業支援、知的所有権の尊重

独立ベンチャーへの支援

第3章 ベンチャービジネス創造の課題
  1. 独立起業の活性化と経済成長…独立ベンチャー企業支援の重要性
  2. 資金調達環境の整備…株式市場改革/ベンチャーキャピタル育成
  3. インキュベーション機能と地域活性化…地域型起業支援の先導的取組み
  4. 政府・自治体の果たすべき役割…保護・助成から起業促進へ総合的支援措置/公的金融機関の役割

既存企業のイノベーション

第4章 コーポレートベンチャー=既存企業の新規事業展開の課題
  1. 「新規事業進出」の現状と問題点…リストラ・横並び型の限界、企業内の問題
  2. コーポレート・ベンチャリングの推進…人材、技術、資本の有効活用/ストック・オプション等の導入
  3. コーポレート・アライアンスとしての大企業…ベンチャー企業の製品等の積極的活用
  4. 「企業家=起業家」精神の発揮を…経営トップの指導性発揮

社会・文化にかかわる問題

第5章 自立自助社会の構築を…アントレプレナーを育む社会を
  1. 国民の意識改革…結果の平等より機会の均等、自己責任原則の徹底、大きな成功報償の是認
  2. 教育改革・創造的人材育成へ長期的取り組みを…画一的な教育システム改め創造的な人材を育成

経団連の取組み

第6章 経団連の果たすべき役割
  1. 具体的課題の実現に向けての働きかけ、会員企業への実践の呼びかけ、継続的なフォローアップ
  2. 規制緩和について行政改革委員会を支援しつつ独自の取組みを進める
  3. 独立ベンチャー企業の支援について経団連独自の具体的取り組みについて検討
  4. 既存企業の革新について内外の専門家と協力しつつ検討
  5. 教育改革等について具体的な検討

日本語のホームページへ