なびげーたー

魅力ある日本―創造への責任

常務理事 和田 龍幸


昨年4月以来検討が続けられていた「魅力ある日本」が1月16日の理事会で承認され公表された。とりまとめに参画した者の1人として内容の主要点につき説明したい。

  1. 理想を掲げる
  2. この提言は「経団連ビジョン2020」と呼ぶことになっているが(以下「ビジョン」と略す)、数字が示している通り、西暦2020年を展望した経団連の提言である。これから25年先、4分の1世紀を見通したレポートは経団連としては初めてのことであり、他の団体にも例はないだろう。
    提言の発案者は豊田会長ご自身である。会長は「私は、若者が未来に希望を持ち、世界の人々が日本に住んでみたい、日本でビジネスをしたい、あるいは日本で学びたいと思う、そういう『魅力ある日本』の実現に向けて、今こそ人々が結集し真剣に取り組む気運を盛り上げていきたい……。
    そのためには、自助の精神を基本としながら、理想とする社会の姿を掲げ、その実現に向けて真正面から取り組みたい」としている(「ビジョン」の巻頭の辞「魅力ある日本の創造を目指して」)。

  3. 理念
  4. 将来を展望する場合、こうなるだろうという予測型と、かくあるべしとする理念型が考えられるが、本「ビジョン」では提言の趣旨から後者の型をとった。
    数次にわたる議論を経て、掲げるべき理念の内容は、内にあっては「真に豊かで、活力ある市民社会」、対外的には「世界の平和と繁栄に貢献する国家」ということに落ち着いた。提言全体を抽象化し、統一化して矛盾の無い考え方としてまとめたものである。
    この理念の下に形成される国の姿を「活力あるグローバル国家」と呼ぶこととしている。資本主義の特色は国境を問われないことにある。企業あるいは経済人こそがグローバルに考えグローバルに行動する存在であることを考えると、経団連が目指すこれからの国家像として適切なものと思われる。
    そして、このようなグローバル国家が理念に沿った実績を示すことが出来れば、自ずから「世界から信頼され、尊敬される日本」となるであろう。

  5. 改革の目標と具体的手順
  6. 上に述べたようなグローバル国家とはどのような構成をなすものなのか。そして、そこに至るにはどのような障害を乗り越えなければならないのか、このような視点から各論が展開されている。
    グローバル国家の構成を「経済・技術」、「政治・行政」、「外交・国際協力」と3つの骨格を成す分野に分け、それに続いて「教育」の分野について特に一章を割き、最後に「企業」自身に関する章を置いた。
    各章において、まず各分野の望ましい姿、あるいはビジョンを示している。このビジョンこそが具体的イメージを伴った目指すべき理想像である。
    しかし、一読いただければお判りの通り、このビジョンに到達することは容易ではない。文字通りいばらの道であり、政治、行政、企業、個人が既得権益にとらわれない強い変革の意志を持たなければ実現は難しい。各章に示されている「改革すべき課題と提言」は、長年にわたって経団連に蓄積された経験、情報、分析力をいわば総動員してできたものである。

  7. なぜ2010と2020か
  8. 全体の構成を検討する段階で、どれくらい長期を対象とすべきかがひとつの論点となった。それなりに意味のある区切りが必要であるが、今のままだと2021年が65歳以上の高齢者人口が最高となると予測されるので、2020年を大まかな最終年とした。
    しかし、問題はそれより10年前の2010年にわが国の総人口がピークを迎えると予測されていることである。人口の減少は生産力の低下という経済的側面ばかりでなく、社会的にも文化的にも影響するところが大きい。
    そこで、「ビジョン」では、人口減少という、わが国が近代国家を形成してから平時としては初めて遭遇する重大異変が生ずる前に、社会資本をはじめソフト、ハード両面にわたる基盤を確かなものにしておく必要がある。「新日本創造プログラム2010(アクション21)」は、このような意図の下に各種課題の中から重点事項として選別したものである。

  9. マクロのバランス
  10. このビジョンに描かれている経済、社会を目指す場合、果して2010年まで年平均3パーセント成長というマクロの計数面でバランスがとれるのかという点について、いくつかの前提に即して試算した。問題は日本経済にその程度の潜在的な成長力があるかどうかという点と、高齢化社会において所得、税収、財政支出の面でバランスがとれるかという点である。数字の上では多様な選択肢を示せるが、2020年度を最終年度として、国民負担率(社会保障費+租税/国民所得)を50%以下に抑え、歳出の国債依存度をゼロにするという国民経済の健全さは確保できるという展望をもっている。

  11. 創造への責任
  12. 将来において主たるincome generatorは企業である。現在でも日本では就業者のうち約7割が被雇用者であるが、米国では約9割である。
    将来、経済的にも社会的にも企業の役割はさらに大きくなる。それだけに、健全な社会を維持、発展させる上で企業の社会全体に対する配慮、あるいは責任はますます大きくなる。本レポートを一読されると、全体として企業の視点が色濃く出ていると感じられるのではないかと思う。経済団体のレポートだから当然と言えば当然だが、社会に大きな責任を持つ企業が、企業自身の将来について自信を持たずして国全体の将来も語れない。
    本ビジョンの副題が「創造への責任」となっているのはその意味である。


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