経済調査委員会(委員長 石川 武氏)/1月12日

当面の経済運営、構造改革の進め方につき意見交換


経済調査委員会では新保経企庁調整局審議官を招き、当面の経済運営をめぐり懇談した。席上、新保審議官は、
  1. 金融緩和、円高修正、ストック調整の終了、公共投資の増加等の効果により、本年のわが国経済は徐々に上向いていく、
  2. 新経済計画に示された3%成長を実現していくためには、金融緩和の持続、不良債権の早期処理、規制緩和などの経済構造改革を推進していく必要がある
と述べた。経団連側からは、昨年12月のアンケート調査結果の概要を報告するとともに、規制撤廃・緩和など経済構造改革の必要性を強く訴えた。
また当日は、経済分析研究会がとりまとめた「経済統計の整備に関する報告書」を審議し、承認した。

  1. 新保経企庁調整局審議官説明要旨
    1. 91年第2四半期から93年第4四半期まで景気後退局面は11四半期続いたが、その後、個人消費、住宅投資、公共投資などが景気の牽引役となり、経済は上向いた。但し、そのテンポは鈍く、95年には公共投資、住宅投資の息切れ、大震災や円高の影響等により経済は再び停滞した。

    2. 経済の回復テンポが鈍い原因は設備投資の低迷にある。公共投資の発動が遅れたとの見方が一部にあるが、公共投資は過去の景気回復局面よりも成長に大きく寄与している。
      ただし、公共投資の民需への波及効果は弱まっている。この原因は
      1. 家計、企業の負債残高比率が高く、消費、投資態度が慎重化していること、
      2. 不良債権残高の累増により金融機関の貸出態度が慎重化していること、
      3. ビル建築を中心に過剰投資が解消されていないこと、
      4. 米国に比べ実質金利が高止まったこと、
      である。

    3. 今後の景気動向を見る上でプラス要因としては、
      1. 円レートの低下と株価の持ち直し、
      2. 製造業のストック調整の終了、
      3. 95年7月以降の低金利政策の効果、
      4. 公共投資の増加
      の4点である。他方、マイナス要因は、
      1. 雇用の悪化による個人消費への悪影響、
      2. 大企業の海外シフトや輸入品との競合による中小企業の低迷、
      3. 地価下落によるマイナス効果の持続
      の3点である。
      今年はプラス要因、とりわけ金融政策が大きな効果をもたらし、マイナス要因にまさっていくとみている。既に、消費等で経済が上向いていることを示す指標も見られれるが、手放しの楽観はできない。

    4. 今後必要と思われる政策は以下の通りである。
      1. 新経済計画に示された3%成長を実現するため、4〜6%のマネーサプライ増加率を目指した金融政策を運営していく必要がある。
      2. 早急に不良債権を処理するとともに、金融市場に市場原理を導入していく必要がある。実質的に倒産している金融機関は整理・統合していくとともに、土地政策については、地価の引き下げよりも流動化を重視していくべきである。
      3. 中長期的な経済構造改革の推進が必要であるが、特に規制緩和などを通じ非製造業の生産性を高めていくことが不可欠である。

  2. 経団連のアンケート調査結果の報告
  3. 経団連で企業経営者を対象として12月に実施したアンケート調査では、約6割の経営者は96年度の企業業績が改善するとみていると回答し、また約7割の経営者が今後景気は緩やかに回復すると回答した。
    景気回復に寄与する政策として為替市場の安定、規制の撤廃・緩和、税制改革の推進等が挙げられた。
    96年度は個人消費や設備投資の緩やかな回復を背景に平均1.7%の実質成長率が見込まれている。

  4. 懇談
  5. 経団連側:
    3%成長を実現していくためには、新経済計画に具体的に盛り込まれた規制緩和の実現など経済構造改革を推進していくことが不可欠である。
    規制撤廃を推進していくためには、
    1. 農業分野など例外を設けないこと、
    2. 米国のように国民に経済効果を明示すること、
    3. 戦略的な分野を重点的に進めること、
    4. 政治が強力なリーダーシップを発揮すること
    などが重要である。
    新保審議官:
    米国では70年代にGNPに占める規制産業の割合は17%であったが、80年代半ばには7%にまで下がった。一方、日本では87年以降規制緩和に取り組んでいるが、規制産業は当時も今も4割程度で変化がない。規制緩和の必要性に関する議論を盛り上げながら、痛みを伴う規制緩和を実現していく必要がある。

    経団連側:
    マクロ経済には回復の兆しが見えるが、中小企業の回復は遅れるのではないか。特に、従来は円安がGDPにプラスの効果をもたらしたが、今回の円安は輸出増に直結しないばかりか、自動車等の輸入が引き続き増加基調にあり、中小企業や下請け企業の回復を妨げている。
    新保審議官:
    中小企業の設備投資の回復が遅れている原因は、
    1. 土地を担保とする金融システムからの脱却が困難、
    2. 大企業の海外シフトと輸入品との競合の影響
    などである。ただし、96年度後半から経済の回復のテンポが早まっていけば、中小企業も少し回復していくであろう。

  6. 「経済統計の整備に関する報告書」の承認
  7. 統計の目的は経済や社会の実態を的確に捉え、企業の経営や政府の政策運営の判断材料となる情報を迅速に提供することにある。しかし、最近、わが国の統計の速報性、信頼性、利便性を巡り、さまざまな問題点が指摘されている。
    そこで、経済調査委員会の経済分析研究会では、経済統計のあり方につき検討を進めてきたが、経済調査委員会では同委員会がとりまとめた「経済統計の整備に関する報告書」を審議し、承認した。
    この報告書では、統計の見直しの重要課題として、
    1. GDP統計速報の公表の早期化、
    2. 消費者物価指数の消費実態の変化に対応した見直し、
    3. インターネットを活用した統計情報の提供等による統計の利便性の向上
    の3点を掲げている。


日本語のホームページへ