経団連第58回定時総会 豊田会長

会長挨拶

魅力ある日本をつくるための
経済構造改革の推進を

経団連会長 豊田 章一郎



  1. 内外の不安を払拭せよ
  2. わが国経済は、緩やかだが、ようやく回復の方向にある。この景気を、本格的な回復の軌道に乗せていくためには、住専処理を含む金融関連法案の早期成立を図り、金融システムへの内外の不安を払拭することが肝要である。企業も、魅力ある商品・サービスの開発・提供により、個人消費や設備投資を柱とする内需主導型の経済成長の道を切り開くことが重要である。

  3. 創立50年を迎えた経団連
  4. 経団連は、今年で創立50周年を迎える。戦後のわが国の経済発展の中で、経団連は、時代に相応しい各会長のリーダーシップの下、国民経済の発展のために経済界の意見を集約し実際的な解決策を提言してきた。その結果、経団連は日本経済を牽引する指導的経済団体として評価を得るに至った。
    今日、時代の大きな転換期にあって、経済団体のあり方が改めて問われている。各位の意見、要望を十分伺い、高い理想を掲げ、自己革新と新たな創造により、現実の問題を一歩一歩解決することが、経団連に課せられた使命である。さまざまな構造問題が噴出する今日、経団連の役割はますます大きくなっている。

  5. 経団連ビジョンの策定
  6. 経団連は、総力を挙げて21世紀への経済ビジョン「魅力ある日本」をとりまとめた。
    現在、日本は大きな転換期を迎えている。世論調査では、国民の7割以上が現在の生活に満足しつつも、5割以上が日本は悪い方向に向かっていると答えている。これは、日本が戦後の成功に安住し、グローバル化、高度情報化、環境との調和、高齢化・少子化といった変化に立ち遅れていることに国民が不安を抱いていることを示している。
    しかし、わが国は高い勤勉性や技術・ノウハウの蓄積、高い貯蓄率を有している。これらの能力を十分発揮すれば、年平均3%程度の安定的成長の達成は可能である。
    このビジョンでは、西暦2020年を展望して、わが国の目指すべき姿を「活力あるグローバル国家」として提示し、2010年までに優先的に取り組むべき政策課題を「新日本創造プログラム」としてまとめた。経団連は、これを活動の基本方針とし、その実現に向けて全力を挙げて取り組んでいく。

  7. 規制の撤廃・緩和
  8. 活力にあふれた経済社会を築いていくためには、「脱規制社会」に向けての経済構造改革が重要であり、経団連ビジョンにおいては、経済的規制を2000年までに半減させ、2010年には原則撤廃することとしている。
    政府は、昨年、97年度までの「規制緩和推進計画」を策定し、本年3月末に改定計画を発表している。この改定計画については、住宅・土地、情報・通信等の分野で、一定の前進を見せている。今、大事なことは、計画で決めた事項を着実に実行することである。経団連は、今後とも行政改革委員会と密接に連携しながら改定計画の着実な実施を要望し、今後の計画において金融・証券、運輸、農業、医療など、経済活動や国民生活の基礎となる分野を重点的に取り上げ、基本法や業法など、制度の根幹に踏み込んだ検討を行なうよう働きかけたい。
    また、各企業も、これまでの規制緩和の成果を十分活用し、規制緩和の成果を国民が具体的に実感できるようにしてほしい。

  9. 税制および財政改革
  10. 経済構造改革のもう1つの重要な柱は、税財政改革である。わが国の財政状況は、悪化の一途を辿っており、先進国の中でも最も深刻な事態に陥っている。財政再建の取り組みについては、既に政府で議論を始めているが、経済界も真剣に議論する必要がある。経団連ビジョンでも、赤字財政からの脱却、国民負担率の50%以下への抑制を目標とした財政見通しや国民負担に関する試算を行ない、問題提起を行なっている。
    経済の活力や企業の国際競争力を確保しつつ、長寿社会に対応するには、国、地方をあげた行財政改革を断行する必要がある。一方、負担の平準化を図る観点から、所得、消費、資産の税制全般にわたる抜本的な是正が不可欠である。その際、消費への課税の比重を高めることは避けられないと思う。
    企業の国際競争力を確保し、国内産業の空洞化を防止するためには、欧米諸国に比べて極めて過重な法人課税の軽減を図り、国税、地方税を合わせた実効税率を少なくとも米国並の40%程度にすべきである。また、所得税体系の見直しを進めるとともに、地価税の廃止、固定資産税の負担軽減など土地税制の抜本的改革を行うことが重要であり、関係者への働きかけを強めたい。

  11. 首都機能移転の早期実現
  12. また、経団連では、東京一極集中是正と国土の均衡ある発展を図る観点から、首都機能の移転問題に取り組んできた。経団連ビジョンも、首都機能の移転を新しい国づくりに向けて構造改革を推進する上でのシンボルプロジェクトとして位置づけている。
    首都機能の移転については、既に1990年には国会決議が行われ、昨年12月には移転先候補地の選定基準を中心とする「国会等移転調査会」の報告が出ている。本年2月末には、橋本首相と政府の4委員会・審議会の長が、首都機能移転を梃として行革を進めることで、概ね意見の一致を見ている。
    首都機能の移転は都市防災、東京一極集中是正、内需拡大の観点のみならず、中央省庁のスリム化や再編・統合、官業の見直しなど行革を推進し、人心を一新して豊かで活力と魅力ある日本を創造する上でも、重要なプロジェクトである。経団連は、今後、国民の理解と支持を盛り上げるための諸活動と共に、新首都のイメージや移転後の東京のあり方について提案していきたい。

  13. 創造的な企業活動の展開
  14. 以上の、経済構造改革推進の担い手は、何といっても企業である。
    日本企業のポテンシャリティは極めて高い。経営者が先頭にたって自己革新と挑戦の気概を持てば、必ずや新たな成長を実現することが可能である。企業は、多様化する消費者ニーズに対応した、新しい商品やサービスの開発・提供や技術・研究開発の促進などにより事業の競争力確保に努めるべきである。また、新産業・新事業の創出・育成の環境整備が急務であり、規制緩和を通じた事業機会の創造、ストック・オプション制度の導入、資金調達環境の整備などの政策的課題についても、積極的に働きかけたい。この機会に、会員各社で少なくとも1社以上のベンチャー企業を立ち上げ、雇用増大、経済の活性化を図ってほしい。
    また、今後の活力にあふれた経済社会を築く上で、自己責任の下に、主体的に行動する創造的な人材の育成も急務である。経団連の提言では、企業自らの改革も不可欠との認識を打ち出している。各企業においても、創造性に富んだ人材の育成への取り組みを行なっていただきたい。

  15. 世界から信頼される日本
  16. 諸外国との関係強化も大きな課題である。
    私は、昨年、経団連ミッションでベトナムを含むASEAN諸国を、本年4月には中国を訪問し、アジアの若者たちのいきいきとした姿に感銘を受けた。また、昨年末には欧州を訪問し、各国首脳が日常的に意見交換を行なうさまに、トップ同士の対話の重要性を実感した。5月には、米国ビジネス・ラウンドテーブルと懇談し、日米の政治・経済や教育などにつき意見交換を行なった。今後も、第2回アジア隣人会議の開催、第2次訪欧ミッションの派遣などを計画している。
    私は、国際社会において「信頼」こそ最も重要な要素だと思う。信頼は自ら約束したことを着実に実行していく積み重ねの中から生まれてくる。本来、海外諸国とのさざまな経済問題は、政治問題化する前に、両国の経済人の間で冷静に対処し、解決すべきである。そのような考えの下で、経団連は、民間トップ同士の交流を深めるとともに、地球環境問題、途上国の民活インフラ支援を含む産業協力、教育・人材育成への協力などに取り組み、各国との信頼関係を構築していきたい。

  17. 企業人の政治への参加を促す
  18. 経済構造改革を推進する上で生じる痛みを克服し、改革を実現する上で、政治の役割は重要である。現在の日本の政治に対する内外の信頼は、決して高いとはいえない。政党主導による政策本位の政治を早急に実現し、政治への信頼回復と政治への関心を高めることが肝要である。
    経団連では、これまでも政治との対話を積み重ねてきたが、本年1月から週1回、経団連幹部と政治家との間で、政策や政局をめぐり意見交換を行なってきている。われわれ企業人として、政治に従来以上に関心を持ち、政治への参加を促すために、近く「企業人政治フォーラム」を新設し、企業人と政治家との幅広いコミュニケーションの促進に努めたいと思う。
    昨年の訪欧の折、ドイツのコール首相は、「国民の6割が欧州通貨統合に反対しているが、ドイツの将来を考えれば、政治家の責任で国民を説得し、通貨統合を成し遂げねばならない」と述べていた。日本でも、こうしたリーダーシップが期待される。

  19. 「変革、創造、信頼」を旗印に
  20. 一昨年、経団連会長就任の際、私は活動の基本方針として「変革、創造、信頼」を述べた。2期目もこの「変革、創造、信頼」の旗印を掲げながら、「魅力ある日本」を実現するための活動を推進していく所存である。この度、経団連では、政策委員会を42から30に減らすと共に、事務局改革の一環として、12あった部を6本部に統合した。時代の変化を見据えて、重要諸課題の解決に挑戦し、実現を目指す経済団体として、積極的な役割を担っていきたい。会員各位のご支援をお願いする。

(記録 広報部)


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