経団連くりっぷ No.39 (1996年 9月12日)

第2回アジア隣人会議(議長 豊田会長)/8月20〜21日

相互依存の時代にアジアが果たすべき役割


経団連では8月20〜21日、経団連ゲストハウスにおいてアジアの10の国・地域(ブルネイ、中国、香港、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)の民間経済界首脳を招き、「第2回アジア隣人会議」を開催した。経団連からは豊田会長、末松副会長、樋口副会長、熊谷副会長、北岡副会長、三好事務総長ほかが出席した。なお、体調を崩して参加できなかった台湾代表の意見も参加者に紹介された。

  1. アジアの経済成長を持続させるための課題と挑戦
  2. 現在、アジアは注目すべき成長を遂げている。東アジア地域の貿易量はすでに世界全体の4分の1を占め、2000年までには約半分に達するだろう。しかし、この発展を持続していくためには、アジアはいくつかの課題を解決しなければならない。すなわち、インフラの整備、教育水準の向上、環境の保全、領土問題の解決などである。また、貧富の格差、地域間の格差、人種間の格差の解消も重要だ。これらは政府だけの問題ではなく、経済界も自らの問題と捉え、積極的にその解決に向けて活動していかなければならない。
    成長の内容はそれぞれ異なるが、アジア共通の課題は、質的な向上を目指すべきことである。雇用の生まれない成長、文化を抹殺する冷酷な成長、資源を浪費する将来性のない成長などは避けなければならない。また、自国の発展だけでなく、アジア全体との調和も視野に入れる必要がある。アジアは元来、調和と競争によって発展を遂げてきた。今後ともこのような均衡ある発展を目指すべきである。
    経済のグローバル化が進む一方で、偏狭なナショナリズムへの回帰の兆しが一部に見られるが、これは避けなければならない。21世紀は相互依存の世紀であり、相互理解を促進させるための対話を増やすことが必要である。特に、経済界のコミュニケーション・ネットワーク作りが求められている。

  3. アジアの課題、世界共通の課題にどう取り組むか
  4. アジアの成長にとって、技術移転は重要な課題である。日本は、積極的に技術移転に取り組む責務があるが、同時に押しつけになってはならない。双方にメリットがなければ、技術移転は成功しない。
    アジアはエネルギーの巨大な消費地であり、将来は需給の逼迫が懸念される。また、温暖化や酸性雨などの問題も深刻化しつつある。このような世界共通の課題を解決するためには、先進国と途上国の協力が必要である。過去に深刻な環境問題を経験した日本は、環境に関する高度なノウハウと技術を持っており、これをアジアで活用していくべきである。
    さらに、食糧問題も世界にとって大きな課題の一つである。アジアの農村は貧困や老齢化などの問題を抱えており、これらの解決のためには、農業分野の技術開発と技術交流を通じて、生産性を向上させることが必要だ。特に、巨大な人口を持つ中国は食糧不足が危惧されるが、中国政府は農業の発展を最重要課題の一つに掲げており、品種改良や耕地の開拓などを通じて、大幅な食糧増産の潜在力を持っている。

  5. 問題解決に向けた政府と民間の役割
  6. 日本は戦後、欧米に追いつくために政府主導による産業政策をとってきたが、現在は経済の活性化のため、規制緩和や構造改革によって民間の活力を生かすことが望まれている。経団連が掲げた長期ビジョン「魅力ある日本の創造」の中にも、「小さな政府」の構築に向けた規制緩和や構造改革などの提言が盛り込まれている。
    しかし、資金やリスクなどの面で、民間の力だけではまだ困難な場合が多い。例えば、多くのアジア諸国にとってインフラ整備は最大の課題だが、これには巨額の資金が必要であり、リスクも大きい。従って、BOT やBOO などを通じて政府と民間が協力していくことが重要である。
    アジアの官民のパートナーシップには、異なった2つの成功のモデルがある。一つは官主導のシンガポールであり、もう一つは小さな政府の香港である。政府の規制は、秩序を与えるという意味では有用だが、構造改革の際には阻害要因となる。政府は経済にどの程度関与すべきかという、バランスの問題に帰結する。

  7. 今後の米国・欧州との関係
  8. 過去においてアジアと欧米は常に追うものと追われるものの関係であったが、21世紀においてはイコール・パートナーの関係になろう。双方はお互いの優位点を生かし、協力関係を一層発展させていくべきである。そのための話し合いの場としてAPECやASEMが設置されたが、これらは政府の主導だけでは成功せず、民間の幅広い参加が必要とされる。
    米国の貿易自由化の主張は同意できるが、二国間交渉で市場開放を求める際、自らの既得権を守ろうとするやり方は、時として摩擦を生む。今後、貿易紛争をめぐる交渉は、二国間よりもWTOのようなマルチの場での話し合いが主流となろう。
    アジアは現在、経済成長と繁栄を享受しているが、これは欧米から資本や技術、市場の提供を受けた所が大きい。今後の世界経済の共通課題は、いかに新しい市場を創出し、雇用を確保するかということである。欧米とアジアは協力してこの課題に取り組んでいかなければならない。
    国際交流において、経済と文化は言わば車の両輪である。アジアは独特で多様な文化を持っており、それらは決して欧米文化の模倣ではない。欧米はアジアについて誤解することが少なくないが、アジアは自らの姿を認識させるよう、文化交流を促進させることも必要だ。

  9. その他
  10. 過去2回開催された隣人会議は、出席者に高く評価されており、今後とも継続して開催していくことで意見の一致を見た。一部の代表からは、もっと頻繁に開催し、アジアの経済首脳がより緊密にコミュニケーションを図るべきだとの意見も出された。次回の隣人会議は、1年〜1年半後を目処に韓国で開催されることとなった。


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