経団連くりっぷ No.43 (1996年11月14日)

地方振興部会(部会長 金谷邦男氏)/10月18日

これからの地域づくりにおける社会資本整備のあり方


経団連では、7月に「新しい全国総合開発計画」に関する提言をとりまとめた。地方振興部会(新部会長:金谷邦男ヤマト運輸会長)では、当面、この提言の基本的な考え方や具体的な政策の方向について、来年3月に閣議決定される新しい全総計画に反映させるための活動を展開する予定である。第1回会合では、国土審議会計画部会基盤づくり小委員長の森地茂東大教授を招き、今後の社会資本整備のあり方について懇談した。

  1. 森地 茂 東大教授講演要旨
    1. 全国総合開発計画の性格
    2. 全国総合開発計画という言葉から受けるイメージは、(1)全国スケールの土地利用計画、(2)全国スケールの開発の基本方向、(3)全国スケールの社会基盤整備計画である。
      実際には、日本では(1)(3)の機能は少なく、新幹線などを当面いつ、どの順序で整備するか、といった計画ではない。しかし、日本においてこの計画の策定の時以外に全国規模で生活、産業、国土などについてオールラウンドに論じる機会はなく、国土の将来像を決める貴重な機会である。

    3. 新しい全総計画のコンセプト
    4. 新しい全国総合開発計画の最も重要なコンセプトは、「リノベーション」と「誇りの持てる国土」である。すなわち、各種施設も、地域もリノベーションの時期に入っており、これらをどう作り変えるか、また、高度成長期以降、虫食い状態になってしまった国土をもう一度、誇りの持てる国土にどう再構築するか、ということである。

    5. 新たな圏域づくり
    6. 基盤づくり小委員会では、「交通、情報通信」の基盤づくりを中心に議論してきた。なかでも地域の機会均等の実現、望ましい国土構造、安全な国土の形成の3つが議論の中心になった。特に、安全な国土づくりを進める上で、木造密集市街地をいかに自律的に改善に向かわせる仕組みをつくれるか、鉄道・港湾・道路が被災した際のリダンダンシーをどうするかなどが議論となった。
      国土のあり方を考える上でまず重要なことは、「圏域意識・圏域構造の呪縛からの解放」である。われわれは、全総においても、自分の住んでいる市・県・ブロックがどうなるか、ということにとらわれがちである。この呪縛を離れれば、新しい活動の可能性が開けるであろう。
      また、新しい圏域においては、重複投資を避け、すべての地域において大学、美術館を揃えるのではなく、それぞれ機能分担をして、適正配置による域内サービスを展開することが求められる。
      さらに「地域間競争、国際競争」といった観点から、例えば九州が一体となって一定の集積圏域を形成することにより、ヨーロッパ一国に相当する経済・文化活動が生まれるようにするなど、広域的な地域づくりの発想が求められる。こうした連携においては、話題となっている国土軸にとらわれる必要はなく、いつも同じ地域とばかり連携する必要はない。日本は細長い列島であり、機能的に共通性を見いだせば、国土軸・地域連携軸構想以外にも、国際広域交流圏、東アジア1日交通圏、全国1日交通圏、地域半日交通圏(2時間で国際的な交流拠点やブロック中枢に到達できる)といった構想も生まれよう。

    7. 圏域構成のための基盤づくり
    8. こうした圏域を構成するためには、地域高規格道路の整備、国土幹線高規格道路のミッシングリンクの整備、アジア向け、地域向けなどに分けた空港・港湾の拠点づくり、東海道新幹線の構造的、機能的なリノベーションが必要である。

    9. 拠点都市の整備支援
    10. 現在、札幌、仙台、広島、福岡といった、地域における中枢都市は、ブロックキャピタルとして、域内外の人のためにどの程度の交流の機会を提供しているかということを考えると、未だ十分な役割を果たせていない。
      こうした拠点地域への支援策としてハブ空港の整備があげられる。今後、アジア諸国から欧米への直行便が増加し、日本経由の便は減少しようが、アジアの航空会社はこれまで以上に日本に乗り入れたいと考えるであろう。わが国の空港問題はハブ機能の低下というより、むしろ受け皿の問題ではないか。となると、成田、関空、中部以外の空港に世界路線を展開できる可能性が出てくる。

    11. 国際観光の振興
    12. 日本人の海外観光については大きな地域格差がある。所得については2倍の格差であるのに対し、海外旅行は7倍の格差があり、地方には潜在需要がまだかなりあると考えられる。
      また外国人の日本での観光についてはより大きなキャパシティがある。外国人観光客を招くためのポイントは
      1. 広域観光のプロデュース、
      2. 都市観光に耐えうる魅力づくり、
      3. 「応接間思想」から脱却した住観一体の街づくり、
      4. 相手国に応じたきめ細かい魅力の話題づくり
      などである。

  2. 懇談
  3. 経団連側:
    新しい全総計画の代表コンセプトである「リノベーション」とは、具体的には何か。
    森地教授:
    地域レベルでは震災に強い街づくり、大都市レベルではインフラのシステムの再構築である。さらに臨海型工業地帯の再開発や都市と自然地の連携強化等、種々考えられる。

    経団連側:
    公共投資と財政のあり方については、どう考えるか。
    森地教授:
    これから議論するが、公共投資と財政のあり方については、国と地方の関係まで考えなければならない問題であり、難しい。例えば、森林については、財政的にも人員的にもすでに破綻しているが、林業人口の不足を福祉・労働問題と森林の保全の問題に分けて考えれば、問題解決の糸口がつかめるのではないか。例えば森林を管理する人がいなくなった 100年後の山の姿はどうなるのかをシミュレーションし、山を放っておいてもよくする方策を講じる必要があろう。


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