経団連くりっぷ No.46 (1996年12月26日)

経団連提言/12月17日

透明で持続可能な年金制度の再構築を求める


財政制度委員会(委員長 伊藤助成日本生命社長/共同委員長 福原義春資生堂社長)では、財政構造改革に関する提言「財政民主主義の確立と納税に値する国家を目指して」(8頁参照)とともに、標記提言をとりまとめた。これは、先月公表した医療改革、高齢者介護制度のあり方の意見書「国民の信頼が得られる医療保障制度の再構築」に続く、社会保障制度に関する提言である。
以下はその概要である。

  1. 年金改革の第一歩は情報公開
  2. 21世紀に本格的な高齢社会を迎えるなかで、豊かで活力ある経済社会を維持するためには、世代を越えて持続可能な年金制度を構築しておかなければならない。公的年金に関する直近の財政再計算は1994年に行なわれたが、その前提となった出生率、標準報酬上昇率、運用利回りといった仮定を、実績値が下回っている。1994年財政再計算で描かれていたシナリオは、既に実現不可能になっており、年金財政は急速なスピードで悪化しつつあると見られる。厚生省においては、1999年を待つことなく、早急に財政再計算の見直しに着手し、公的年金の現状および現実的な将来推計を国民の前に提示すべきである。

  3. 公的年金改革の基本方向
    1. 基礎年金部分の性格の明確化
    2. 基礎年金の目的は、高齢者にとって必要最低限の生活を保障することである。従って、その財源は賦課方式によるものとし、年金制度改革全体の姿を見据えつつ基礎年金の給付水準について見直す。また、国民年金の未納・未加入者の問題を早急に解決すべきである。併せて、一定額以上の所得を有する高額所得者、公的な高齢者介護サービスを受けた者には給付を行なわないなどの併給調整を行なう必要がある。

    3. 報酬比例部分の考え方
    4. 報酬比例部分の目的は、現役時代の生活水準の一定割合を確保することである。従って、その財源については、受益と負担の関係をより明確にし、当該個人の過去の報酬の一定割合の積み立てによるもの(報酬比例、積立方式)として、物価スライド、ネット所得スライドなどは排除する。
      また、(1)基礎年金部分と(2)報酬比例部分との目的が異なることから、それぞれの保険料についても明確に区分し(基礎年金保険料(税)、厚生年金保険料)、その収支を明らかにする。

  4. 企業年金等の改革の方向
    1. 企業年金の問題点と緊急を要する制度改正
    2. 現行の企業年金は、公的年金制度を補完するものとして位置づけられているため、硬直的な制度設計を強いられている。
      公的年金で高齢者の生活すべてが支えられない中、企業年金の重要性はますます増大しており、早急に着手すべき企業年金制度の改正事項として、(1)特別法人税の撤廃、(2)適格年金における資産運用規制の撤廃・緩和(5・3・3・2規制の撤廃、投資顧問会社との投資一任契約等)、予定利率の一律規制の見直し、給付設計の弾力化(給付水準の弾力化、確定拠出型年金の導入等)を要望する。

    3. 「企業年金法(仮称)」の創設
    4. さらに、受給権者保護の観点から、厚生年金基金と適格年金をともに包括的に規定する「企業年金法(仮称)」の制定を検討すべきである。その際、企業は、株主、企業年金の受給者、現役の従業員などにその財政状況を適確に明示することが求められる。また、企業年金のポータビリティ(企業間移動)を確保するため、確定拠出型企業年金の事業主掛金と従業員掛金を受け入れる「従業員勘定(仮称)」の創設を検討すべきである。

    5. 「個人年金勘定(仮称)」の創設
    6. さらに、国民の自助努力による個人年金の普及を広く支援していくことで、年金制度を充実させる必要がある。企業から自営業に転職する場合や、そもそも企業年金に加入していない自営業者等の場合でも対応できるようにするため、「個人年金勘定(仮称)」の創設を検討すべきである。その際、上記「企業年金法」に基づく企業および従業員からの拠出、「個人年金勘定」への拠出に関しては、一定の条件のもとに、受給時の課税に一本化すべきである。


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