経団連くりっぷ No.47 (1997年 1月 9日)

経団連第50回評議員会/評議員会議長挨拶

経済界は全面的改革に身を投じよ

齋藤 裕


  1. わが国が当面する課題
    1. 民需主導の景気回復
    2.  経済界として当面の懸案である景気については、一進一退ながらも、全体としては、ようやく上向いてきた。昨年からの、大型の景気対策の効果がほぼ出尽くす一方、民間設備投資は徐々に回復してきており、企業の業況判断も改善するなど、回復のすそ野が広がってきている。
       今後、消費や設備投資をはじめ、民間需要が主導する、自律的な回復を実現していくことが、最大の課題である。
       そのためには、まず民間自らが、元気を出していかねばならない。新産業・新事業への取り組みなど、自由闊達な経済活動を通じて、経済を活性化していくことが必要である。
       今回の景気回復には、バブル崩壊の反動や、経済構造転換といった要因もあって、まだまだ力強さに欠ける感は免れないが、この際、長期間にわたり緩やかな経済拡大を続ける米国と同じように、スピードよりも長続きする成長を目指して、着実に取り組んでいくことが、何よりも肝要である。

    3. 経済システムの改革
    4.  当面の景気が上向いてきたとは言え、中長期を展望すれば、わが国経済の行く末は、決して楽観できない。
       超高齢化社会が目前に迫る中で、財政赤字が拡大している。また、企業が国を選ぶ、メガ・コンペティションの時代にあって、日本経済は今や空洞化の危機にさらされていると言わざるを得ない。
       80年代にいわゆる双子の赤字に悩んだ米国をはじめ、先進諸国はいずれも、強い政治のリーダーシップの下で、経済構造改革に積極的に取り組み、競争力を回復・強化してきた。その中にあって、わが国はそうした世界の潮流に乗り遅れ、今日、まさに経済の危機に直面している。
       こうした危機から脱却し、日本経済を復活させるためには、規制の撤廃・緩和をはじめとする行政改革や、財政構造の改革、税制改革など、制度疲労に陥っている既存の諸制度の抜本的な改革に、直ちに取りかからなければならない。
       幸いなことに、橋本総理は強いリーダーシップを発揮し、いわゆる五大改革への取り組みを始めている。行政改革、財政構造改革をはじめ、いずれの改革も、これまで実現困難とされてきた課題ばかりである。
       豊田会長も、総理直轄の行政改革会議の委員として参加しているが、経済界は、橋本総理の五大改革の実現に向けて、一丸となって協力していくことが重要である。

  2. 豊田経団連の取り組み
  3.  以上のような課題に対し、豊田経団連はこの1年、積極的に取り組んできた。
     本年1月には経済社会の長期ビジョン「魅力ある日本−創造への責任」をとりまとめ、21世紀に向けてのわが国の進むべき道を明らかにした。
     さらに、7月には、企業人政治フォーラムを新たに設立し、企業人と政治家との交流拡大にも努めている。
     また、この間、規制の撤廃・緩和、税財政改革の推進についても、大きな役割を果たしてきた。
     他方、国際関係に目を転じても、米国経済界との意見交換をはじめ、中国やヨーロッパにミッションを派遣するなど、諸外国の首脳ならびに経済人との交流を、ますます深めている。
     一方、はなはだ残念ながら、企業の不祥事が続発し、企業に対する社会の目が厳しさを増すなかで、「企業行動憲章」を全面的に改定し、経済界の信頼回復に向けて、リーダーシップを発揮している。
     さらには、従来の官僚主導の経済システムを乗り越えて、民間側から政策を発信していくための、政策研究所の設立を発表するなど、経団連の50周年にふさわしい、多面的な活動を進めてきた。
     我々評議員会は、こうした豊田会長の先見性と行動力を、高く評価するとともに、引き続き、新しい時代を切り開く経団連であってほしいと心から念願している。

  4. 経済界は総論賛成、各論反対を排せ
  5.  一つの時代が終わって、新しい時代が始まるまでには、10年の月日を要すると言う。
     冷戦の終結を起点にすると、現在はちょうど折り返しの時にあり、ようやく改革の道筋が見えてきたと考える。
     大きな改革を行なうためには、政治の強いリーダーシップとともに、これを後押しする風を起こしていかなければならない。それには、国民の協力が不可欠である。なかでも経済界は、その先頭にたって、総論賛成、各論反対というようなことのないよう、全面的改革に身を投じていくことが、求められる。
     「大胆な構想」、「着実な実行」を掲げて登場した豊田経団連も、現在、2期目に入っている。経団連ビジョンで示した「活力あるグローバル国家」を実現していくためにも、活動をより一層強化していただきたい。


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