経団連くりっぷ No.47 (1997年 1月 9日)

経団連第50回評議員会/経団連会長挨拶

「活力あるグローバル国家」の実現に向けて

豊田 章一郎


  1. 改革が国民的合意となった96年
  2.  本年は、戦後のわが国の経済社会システムの抜本的改革が大きな課題となり、政治、経済、社会の各面において改革に向けたさまざまな動きが見られた年であった。
     また、企業行動においても、行政のあり方についても、国民の信頼を失う事件が起こった。これは、従来の政・官・業の関係を見直す必要を示すものでもある。
     一方で、改革の意思が国民的コンセンサスとなり、改革への道筋が見えてきた年でもあった。10月の総選挙に基づき、自民党単独政権が成立したが、各党はこぞって行政改革を第一の課題に掲げた。これは正に国民の意思の表れである。橋本総理には、公約実現に向け、リーダーシップの発揮を強く期待したい。
     経済面では、不良債権問題解決への取り組みや景気の緩やかな回復等、経済改革への足場がかたまりつつあり、来年こそ本格的に景気が回復することを期待している。
     対外関係では、4月の橋本クリントン会談での日米安保関係の再確認は、アジア・太平洋地域のみならず世界の安定と平和に意義のあるものと高く評価したい。また、APEC、WTO等、新たな自由貿易体制の確立に向けた動きが進展している。

  3. 「活力あるグローバル国家」の実現に向けた経団連の活動
  4.  経団連は、創立50周年を機に、長期ビジョン「魅力ある日本−創造への責任」をとりまとめ、2020年を目標に「活力あるグローバル国家」を建設することを提唱した。これを実現するためには、2010年までに行政改革、財政改革、税制改革の3大改革を断行するとともに、その象徴・起爆剤として首都機能の移転が必要不可欠である。
     また、経済活性化に向けて、政府に対し、規制の撤廃・緩和、税制改革、財政構造改革等を提言するとともに、対外関係では、アジア隣人会議の開催、中国や欧州等へのミッション派遣等、各国との経済関係の強化、相互理解の促進に努めた。
     さらに、企業人と政治家との相互理解の促進のため、企業人政治フォーラムを設立したほか、企業行動憲章を改定し、企業倫理の徹底を訴えた。

  5. 新年のわが国の課題
    1. 経済の活性化
    2.  景気は緩やかながら回復の裾野を広げており、今後、民需主導の自律的回復軌道を実現することが肝要である。それには新産業・新事業の創設等、企業自らの努力が必要である。すでに会員企業各社においては、複数のベンチャービジネスの立上げに取り組んでいただいているが、引き続き、積極的な取り組みをお願いしたい。
       経団連としても、規制の撤廃・緩和、純粋持株会社の解禁、連結納税制度の導入等、民間の自主性と創造力が発揮できる環境整備を、政府に強く働きかけていく。
       特に、規制の撤廃・緩和については、10月に17分野699項目の規制撤廃・緩和要望をとりまとめる等、最重要課題として取り組んできた。規制緩和による新規需要は、年平均7兆9000億円(90〜95年、経済企画庁試算)にのぼる。経済界としても、規制緩和措置を大いに活用する必要がある。
       税制改革については、自民党の「税制改革大綱」では法人税率引き下げの方向が示されたが、経団連としては企業の税負担の実質的軽減のため、引き続き全力で取り組む。

    3. 効率的で小さな政府の実現
    4.  橋本総理は、行政改革、財政構造改革を含む5大改革を提唱し、行政改革会議を設け、中央省庁再編を通じて行政改革を進めることを示された。改革の実現に向けてリーダーシップの発揮を期待したい。私も、行革会議の一員として共に責任を分かちあっていく覚悟である。皆様のご協力をお願いしたい。
       財政構造改革については、私が会長を務める財政制度審議会が財政健全化目標を提案したが、これに先立ち経団連も財政構造改革法の制定、10年以内の財政健全化のためのアクションプログラムの策定を提言した。さらに、省庁再編を含む行政改革についても、早急に考え方をとりまとめる。

    5. 企業倫理の徹底
    6.  規制撤廃・緩和が進む中で、企業は一層強い倫理感と自己責任原則に基づいて行動することが求められる。経団連では91年に「企業行動憲章」を制定したが、その後もさまざまな企業の不祥事が発生し、国民の間に企業に対する不信感が高まっている。
       そこで、企業と国民の信頼関係を回復すべく、先般「企業行動憲章」を改定し、不祥事に対し、除名や会員資格の一時停止等、厳しい態度で臨むことを決定した。皆様には新しい憲章の遵守を強くお願いしたい。

    7. 国際社会への貢献
    8.  わが国は、世界の繁栄と平和に向けて国際的に貢献することが求められる。新たな国際秩序が模索される中で、民族紛争や飢えに苦しむ多くの人々がある。8月にアフリカの難民キャンプを視察したが、経団連としても、経済協力や相互理解の促進に努める必要があることを痛感した。

  6. 重大な岐路にたつ日本
  7.  わが国は、今や重大な岐路にある。現状を放置すれば、日本経済は破局へと向かい、21世紀において世界の繁栄から取り残されかねない。私が今年訪問した欧州諸国やカナダでは、政府首脳が政治の指導力を発揮し、社会保障制度の合理化等、国民につらい選択を提案・実行している。
     経団連としても、各論反対を慎み、来年こそ「構造改革元年」とするとの決意をもって、日本経済の先導役としての役割を果していきたい。そのためにも、早期に「21世紀政策研究所」を立ち上げ、経団連の政策提言機能を強化していきたい。


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