経団連くりっぷ No.56 (1997年 5月22日)

国土・住宅政策委員会(共同委員長 田中順一郎氏)/5月9日

土地・住宅政策の新展開と今後の課題


国土・住宅政策委員会では、かねてより不動産市場メカニズムの正常化、土地の有効・高度利用の推進などを訴えているが、政府では2月に「新総合土地政策推進要綱」を発表、3月には「規制緩和推進計画」を改定し、「担保不動産等流動化総合対策」を策定するなど、土地・住宅政策は新たな展開を見せている。そこで建設省小鷲建設経済局長、木下都市局長、小川住宅局長を招き、新しい土地・住宅政策と今後の課題について説明を聞くとともに懇談した。

  1. 建設省側説明要旨
    1. 今国会提出法案の概要
    2. 今国会に、密集市街地における防災街区に関する法律およびその関連法案、都市計画法・建築基準法の一部改正案を提出した。

      密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律は、阪神大震災の経験に鑑み、大規模地震時に市街地大火を引き起こすなどの危険のある密集市街地の整備を総合的に推進するものである。三大都市圏に集中するこれら密集市街地を都市計画において防災再開発促進地区として設定し、他に講じられる防災施策と連携して効果的な再開発を促進する。具体的には

      1. 延焼防止上危険な建築物の除却、耐火建築物等への建て替えの促進、
      2. 防災街区整備地区計画、防災街区整備権利移転等促進計画の創設、
      3. 地域住民による市街地整備の取り組みを支援する仕組みの構築、
      4. 住宅・都市整備公団のノウハウの活用、
      などを行なう。

      都市計画法および建築基準法の改正案は、土地の有効利用を通じ、良質な共同住宅の供給促進を図り、職住近接の都市構造を実現するため、高層住宅に係る容積率インセンティブ等に関する制度の創設および共用通行部分の容積率制限からの除外の措置を講じるもので、高層住宅に係る容積率インセンティブに関する制度は国会での成立後3月以内に、共用通行部分の容積率制限からの除外措置は、国会での成立後、即日施行する(28頁「掲示板」参照)。これと併せて、都心居住の着実かつ効果的な推進のために、

      1. 土地区画整理事業の敷地集約化に向けた適用、
      2. 都心道路・公園整備と連携した市街地再開発など事業手法の改善、
      3. 都内の具体的な地域におけるリーディングプロジェクトの推進、
      を行なう。

    3. 都市・住宅政策の課題
    4. 資産デフレ問題、都心部の空洞化に対応して、「新総合土地政策推進要綱」など一連の新政策により土地の「地価抑制策から土地の有効利用の促進へ」という流れはできてきた。残された土地税制、不動産の証券化についても与党「土地の有効利用促進のための検討会議」などで取り組みが始まっており、課題の解決に尽力したい。また、これら施策の転換の中で日本の都市づくりのビジョンが見えにくくなっており、新しい都市政策ビジョンの策定に早急に取り組み、6月頃には中間的な姿を示したい。

      行政改革の流れの中では住宅金融公庫の再編・合理化が問われている。建設省としても

      1. 追加に追加を重ねてきた融資総額をリーズナブルなものに戻す、
      2. 国費の投入を合理化する、
      3. 融資手続は簡単平明なものにする、
      という視点からこの問題に取り組みたい。住宅・都市整備公団については分譲住宅部門は撤退し、都市再開発、賃貸部門のみに業務を限定することとした。民営化や払い下げの議論もあるが、そこで生活する人間がいる以上、簡単にはいかない。しかしこれからの事業は公団単独では行なわず、民間と共同で行なうのを原則としたい。

      また規制緩和の流れの中で、建築資材の相互認証についても急速に進みつつある。さらには建築基準法の抜本的見直しも進行しつつあり、3月の建築審議会答申を受け、

      1. 建築基準体系の仕様基準から性能基準への抜本的見直し(仕様・性能基準の二段がまえとする)、
      2. 年100万件の建築確認を1,700人の担当者で裁くという非現実的な執行がされてきた建築確認等の行政事務の民間専門家(企業でも可)への開放、
      3. 地階の居室禁止等の建築物単体の規制項目の見直しを行ない、次期通常国会への提出、
      を目指す。

      また、良好な市街地形成のために容積率規制の合理化、地域特性に対応した取り組みなどを行なっている。

      財政改革論議においては公共事業の抑制が叫ばれているが、97年度も公共投資はゼロシーリングで約3兆円、雇用人口に換算して40万人の減少であった。財政改革は重要であるが、よりよい住環境を渇望する国民のニーズに応えることも重要ではないか。

      3月の「担保不動産等流動化総合対策」においては不動産の証券化を進めることとなったが、そこで課題とされたのは不動産を担保とする債権の流動化であって、実物資産の有効利用という観点は薄かった。建設省は、今国会に、不動産特定共同事業法の一部改正案を提出し、投資の専門家に対する不動産の有効利用に向けた投資を促進することとしたが、今後も新しい経済環境の中で土地・住宅政策を見つめ直したい。

  2. 質疑応答
  3. 経団連側:
    建築基準法の性能基準については、政府、民間、消費者団体等による規格団体を組織し、技術進歩に応じて随時規格を改定できるようにすべきではないか。
    建設省側:
    性能基準はそれ自体がかなり技術進歩に対応可能であるはずである。従来通り、政令、省令、告示等による基準の示しかたを変えるつもりはないが、民間の意見を基準に反映する仕組みは必要である。

    経団連側:
    省エネ型住宅等の建築促進は公共投資抑制、電気料金引き下げなどに資するものである。
    建設省側:
    公庫金利の優遇などで対応しているが、今後も政策的に支持したい。

    経団連側:
    住宅のみならず事務所、公共施設等も空間の高度利用が重要である。空間利用のグランドデザインが必要ではないか。
    建設省側:
    都心居住推進本部で東京都とは共同の取り組みをしている。地方分権は重要であるが、国としても地域づくりの方向性までは関わりたい。

    経団連側:
    町づくりに対応して街路等の基盤整備は不可欠である。
    建設省側:
    限られた財源の中で施策と整合性のとれた予算投入を行ないたい。


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