経団連くりっぷ No.57 (1997年 6月12日)

経団連第59回定時総会
豊田会長

会長挨拶

活力あるグローバル国家の建設に向けて、
改革への流れを加速させよ

経団連会長 豊田 章一郎

  1. はじめに
  2. 挨拶にあたり、企業行動のあり方について一言申しあげたい。最近、企業の不祥事が相次ぎ、社会の強い批判を招いていることは、誠に残念でならない。こうした不祥事は、個別の企業の問題に止まらず、経済界全体の信頼を揺るがすことにもなりかねない。ここに深く遺憾の意を表明するとともに、改めて企業行動憲章の周知徹底とその遵守をお願いしたい。

  3. わが国をめぐる内外環境の変化
  4. 冷戦の終結と経済のグローバル化の中で、世界は、政治、経済など各面にわたり新しい国際秩序の形成に向けて大きく動き出している。EU、NAFTA、ASEAN、メルコスールなど、地域経済圏が発展しつつあり、市場経済のメリットと活力を生かしながら、統合と拡大の程度を深めている。各国は、規制緩和による経済構造の改革や社会保障制度の見直しによる財政構造の改革などを進めて経済基盤の強化に努めており、既存の制度の改革は、世界の潮流となりつつある。こうした世界的な変革の流れの中で、急速に少子・高齢化社会を迎えるわが国は、経済社会システムの抜本改革を怠ることが許されない状況にある。

  5. 6大改革への協力を
  6. 景気は緩やかながら回復基調にあり、底固さも増してきている。また、改革の必要性が国民的コンセンサスになりつつあり、橋本総理が掲げた6大改革についても、その気運が盛り上がってきている。今こそ経済社会システムの抜本改革への流れを加速させ、21世紀の活力あるグローバル国家建設への歩みを確固たるものにしなければならない。経済界としても、日本経済の新たな成長と発展の担い手は、われわれであるとの気概と自信を持ち、痛みを乗り越え、改革に協力し、これに取り組んでいかなければならない。

  7. 規制の撤廃・緩和と成果の活用
  8. 改革を軌道に乗せるためには、内需主導の経済活性化に取り組み景気をさらに力強い自律回復軌道に乗せることが肝要である。
    その第1の課題が規制の撤廃・緩和である。これは、活力と創造力溢れる経済を実現するための経済構造改革の基本である。例えば、通産省の試算では、抜本的な規制緩和が進めば、2001年までに金融や流通などの分野で設備投資が増え、消費者物価が低下し、実質GDPは95年に対して6%拡大すると予測されている。
    経団連では、昨年10月と今年2月の2回にわたり、約850項目の規制緩和要望を取りまとめ、関係方面に積極的にその実現を働きかけた。その結果、今年3月の規制緩和推進計画の最終改定においては、純粋持株会社の解禁や輸送分野の需給調整条項の原則廃止、ストック・オプション制度の導入が決定されるなど、経団連の主要な要望事項が相当程度実現し、要望した約850項目のうち、53%が計画に盛り込まれている。
    今後の課題は、計画に盛り込まれた規制緩和を着実に実行し、積み残しとなった項目や新たな要望項目をいかに実現していくかである。規制緩和を推進する新たな仕組みを政府に働きかけていきたい。
    同時に、会員各位には、規制緩和の成果を大いに活用して新産業・新事業を興していただきたい。規制緩和の経済効果を現実のものとできるかどうかは、企業家精神にかかっている。持株会社やストック・オプション制度は、企業活力の発揮、ベンチャービジネスの育成を通じ、経済活性化に大いに役立つものであり、積極的にこれに取り組んでいただきたい。

  9. 税制改革
  10. 企業の税負担を国際水準並みに引き下げることが不可欠である。21世紀にわが国が活力を維持していくためには、法人の実効税率を少なくとも米国並みの40%程度に引き下げ、企業の公的負担をできる限り抑制する必要がある。経団連としてもこれを今年の重要課題としてぜひ実現させたい。
    土地税制の改革も重要である。未だに景気回復を実感できないと言われる背景には、土地を中心とする不良債権の処理が遅々として進まないという問題がある。土地の流動化を促すための土地税制の見直し、土地に係わる規制緩和の実現を要望していく。

  11. 金融システム改革
  12. 改正外為法が来年4月に施行され、金融のグローバル化が飛躍的に進んでいくことになるが、国内の金融改革を行なわなければ、わが国の金融・資本市場が空洞化する恐れがある。総理は、金融システム改革の期限を2001年としているが、できるだけ前倒しを行ない、早期に有価証券取引税の撤廃等の施策を講じる必要がある。

  13. 行財政改革
  14. 行政改革について重要なことは、簡素で効率的な政府をいかに構築するかである。私も、行革会議の一員として、意見陳述を行なったが、中央省庁のあり方については、縦割り行政の弊害を是正する観点から、大括りに再編すべきであると主張した。また、企画・立案部門と実施部門とを分離し、実施部門については、できるだけ民営化したり、民間に業務を委託するなど、スリム化・効率化を進めるよう申し上げた。さらに、外交、危機管理などの重要事項については、直接総理が行政各部を指揮監督するよう提言した。経団連としても、行革会議の活動を全面的に支援していきたい。
    財政改革も、緊急の課題である。国と地方を合わせて440兆円もの債務を抱え、今や危機的状況にある。このままでは、国民負担率の上昇などを通じて、国民生活、経済活動に重大な支障をもたらす。政府・与党には、財政構造改革5原則に基づき、今後3年間の集中改革期間において、メリハリの効いた歳出削減策を取りまとめ財政健全化の道筋をつけることを強く要望したい。
    社会保障の分野では、これまでの発想を抜本的に改め、改革にあたる必要がある。公共事業費についても、硬直的な配分を大胆に見直し、費用便益分析の実施、入札制度の改革などを通じて、コストを引き下げていかなければならない。
    財政投融資制度については、郵便貯金の大量の資金が、民間金融機関を圧迫し、金融システムに歪みを生じさせ、必要性の薄れた分野への資金供給を続けるというマイナス面も強くなってきている。官民役割分担の観点から、財投の肥大化に歯止めをかけ、抜本的改革を図るべきである。
    地方における行財政改革も急務となっている。中央省庁の再編や地方分権の推進と併せて、速やかに国・地方を通じた簡素で効率的な政府を実現するとともに、新しい国づくりのシンボルとしての首都機能移転を推進していただきたい。
    財政構造改革の目的は、予算の節減とその効率的な使用のみならず、経済の活性化であり、これからの経済発展に必要な分野には予算を重点配分することも重要である。情報通信インフラや国際ハブ空港など新しいニーズに対応した社会資本の整備を行なうとともに、科学技術の振興を図る必要がある。科学技術は将来の発展の基盤であり、科学技術基本計画に基づき、21世紀に直面するエネルギー・環境などの問題に果敢に取り組める体制を整備すべきである。経済界としても、創造的人材の育成と研究開発機能の強化に努め、国内外の大学や研究機関との交流を活発化させて科学技術の向上に貢献していく必要がある。

  15. 世界の平和と繁栄に貢献を
  16. 各国の政府や経済界の要人との会合を通じた民間外交の展開により、諸外国との信頼関係を構築することが肝要である。特に、アジアの一員として、アジア諸国との一層の関係緊密化に取り組んでいきたい。
    また、自由貿易体制の維持・強化に向け、WTO、OECD、APEC等に対し、より望ましい国際的貿易・投資ルールの形成に向けて積極的に発言していくべきである。
    経済協力・産業協力については、わが国は国際社会にその存立を大きく依存しており従来以上に積極的に取り組む必要がある。発展途上国に対する経済協力については、民間のノウハウや経験を活用し、官民が緊密な連携を図りながら進める必要がある。
    さらに、人類共通の課題である地球的規模の環境問題への取り組みが重要である。

  17. 経団連企業行動憲章の遵守徹底を
  18. 規制の撤廃・緩和が進むと、企業の自由な活動の範囲が広がることになるが、その前提として、企業が強い倫理観と自己責任原則に基づいて、良識と節度のある行動をしなければならない。社会の批判を受け、信頼を損なうと、自由な経済活動が束縛されかねない事態を招く。
    この機会に、重ねて企業行動憲章の遵守をお願いしたい。これには、トップの役割が、特に重要である。憲章の精神の実現に向け、率先垂範の上、社内体制の整備を図っていただきたい。株主総会の時期を控え、トップ自らが反社会的勢力には屈しないという姿勢を示していただきたい。

  19. おわりに
  20. 経団連は、昨年創立50周年を迎え、新たな日本の創造に向けた長期ビジョン「魅力ある日本」を提言し、改革を通じて活力あるグローバル国家を建設することを訴えているが、その気運は盛り上がってきており、この機を逃すことなく、改革への流れを加速させなければならない。
    経団連としても、この度設立の運びとなった21世紀政策研究所の成果をも活用して、一層政策推進活動を充実・強化していきたい。


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