経団連くりっぷ No.58 (1997年 6月26日)

なびげーたー

地球温暖化対策と経団連自主行動計画

参与 太田 元


12月に京都で開かれる国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)は、2000年以降の地球温暖化対策の基本方針を決めるが、産業界にとっても一大関心事であるとともに、しかるべき対応を迫られている。

現在EUは主要温室効果ガスを2010年には1990年比、15%削減しようと提案しているが、何年までにどの程度削減すべきか、一律か、国毎の事情を考慮した差別目標か、議論はこれからである。

アメリカは、努力しても20%以上増加すると見られている。EUは、旧東独で改善の余地があり、石炭から天然ガスに転換中のドイツ、同じく石炭への補助金をやめて北海の天然ガスに転換を図る英国など、この特殊事情だけでかなり削減が見込まれるが、全体で15%の削減は非現実的とみられている。わが国は、すでにSOx対策や2度のオイル・ショックから省エネが進み、高いエネルギー効率を実現している。(GDP当たりCO2排出量は、アメリカの306、英国の221、独の179に対し、日本は123。いずれも1994年度、炭素換算t/百万ドル)。

しかし、日本のCO2排出量は世界第4位、かつ民生・運輸部門は今後もかなり増加が予想される。発展途上国の排出量は、早晩先進国を上回ることが確実であり、日本も率先して対策を講じ、発展途上国の温暖化防止への参加を働きかける必要がある。

そこで、経団連として、業種毎に目標と対策からなる自主行動計画の作成をお願いした。辻副会長(環境安全委員長)は6月の理事会で行動計画の最終版を発表し、併せて産業部門の2010年の排出量を1990年レベル以下に抑えることを目標として取り組んでいこうと呼びかけた。(9頁参照)

政府部内には、COP3の議長国として思いきった削減目標を打ち出すべきとの意見がある。北欧諸国の例に倣って炭素税を導入すべきといった考え方もある。炭素税の効果は否定できないが、例えば、デンマークでは、これまで産業部門の使用するエネルギーは、事実上、課税されてこなかった。導入された環境・エネルギー税もエネルギー多消費企業については減免となっている。わが国のエネルギー税はすでに高い。炭素税が効果を上げるには高率となり、その場合、競争力や雇用の問題が生ずる。

CO2を排出しない原子力利用について反対する声が環境NGOや国民の間にも強いが、かわり得るエネルギー源がない今日、化石燃料の使用も減らすとなると、われわれの生活を根本から変えねばならない。

温暖化問題は現代社会に変革を迫っているが、短兵急に社会の実態を無視した目標や対策を掲げても、実行が伴わない。企業、消費者・市民、NGO、政府が一体となって長期的に取り組むべきテーマであるが、当面、産業界は産業部門の排出削減に、そして、製品・サービスの省エネを進めて、民生・運輸部門の排出抑制に努力する必要がある。


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