経団連くりっぷ No.59 (1997年 7月10日)

国際協力プロジェクト推進協議会(会長 春名和雄氏)/6月20日

途上国の経済・社会全体を視野に入れた
民活経済協力をめざして


国際協力プロジェクト推進協議会では、第8回定時総会を開催し、1996年度事業報告・収支決算ならびに、1997年度事業計画・収支予算につき審議、承認した。
また、総会に引き続き、東京大学の中根千枝名誉教授より、「今後のわが国経済協力のあり方」について説明を聞いた。
以下はその概要である。


春名会長

  1. 中根教授講演概要
  2. 中根教授

    1. 官民パートナーシップによる経済協力の推進
      1. 日本の対外経済協力は1954年のコロンボプランへの参加に始まり、40年あまりの歴史を有する。この間、1958年に円借款、1965年に青年海外協力隊、1969年に一般無償資金協力が開始ないし創設され、1991年には世界第1位の援助大国となっている。

      2. しかし、財政支出削減の影響もあり本年度ODA予算は史上最低の伸びを記録した。このような状況の下、わが国の対外経済協力は「量」から「質」への転換を迫られており、官民のパートナーシップの確立が不可欠な状況となってきた。確かに、「官民協力」の必要性は以前から議論されてきた。しかし、それは「官」主導で政策決定が行なわれ、「民」が個別分野で技術を提供するという主従関係の枠組から脱却することはなかった。
        これに対して、本年4月に発表された経団連意見書「政府開発援助(ODA)の改革に関するわれわれの考え」には民間側のより積極的な姿勢が示されており、評価できる。なお、官民の対等なパートナーシップを実現する上で、JAIDOの役割が大きいと考え、一層の活躍を期待する。

    2. 途上国の社会構造全体を念頭に置いた援助の必要性
      1. 民活型の経済協力、すなわち民間部門が政府部門と対等な立場で参画した経済協力を行なうに当っては、十分な事前調査を行なう必要がある。その際、技術者のみならず社会学者、人類学者等が調査に加わり、途上国の経済・社会全体を視野に入れた調査を行なわなくてはならない。なぜなら、相手国にカウンターパートが存在していることが民活型の経済協力の成功の鍵となり、カウンターパートの有無は当該社会の人口規模、社会階層の分化の程度等、社会学・人類学的要因に大きく左右されるからである。すなわち、人口が少ない国家では必然的に高等教育を受ける機会、就職口等が少ないことにより、人口の流出が促進され、結果として人材が空洞化する。また階層の分化が不十分な国家では、知識階級の人材が育成されにくい。このため、適切なカウンターパートを見出しにくいということである。

      2. タイ、インドネシア等の東南アジア諸国は人口が多いことに加え、知識階級も育成されているため、民活型の経済協力が有効であるといえる。
        中国、インド等の諸国も人口が多く、知識階級も存在している。このため民活型の経済協力が成功するための条件は整っている。しかし、これらの国々は歴史が古く独自の社会システムを形成しているため、カウンターパートの選定を誤ると問題が生じる可能性も否定できない。
        他方、南太平洋諸国のように人口が少なく階層分化が進んでいない場合、カンボジアのようにかつて知識階層が外国人によって占められていた場合、さらにアフリカ諸国のように部族対立が存在し、カントリー・リスクが高い場合、民活型の経済協力は難しい。このような諸国については、NGO、青年海外協力隊等によるボランティア・ベースの援助が有効であるといえよう。

      3. 今後わが国が質的に充実した援助を実現していくためには、ハード面のみならずソフト面(特に人的貢献)にも力を入れなくてはならない。そのためには、わが国内における問題にも目を向けなくてはならない。例えば、青年海外協力隊員が帰国後、就職難に直面するといった問題を解決する必要があると考える。

  3. 協議会側意見
  4. 熊谷国際協力委員長:
    ODA予算が削減されていく中で、官民パートナーシップによる経済協力の重要性が増している。確かにわが国のODA総額は91年以来6年連続世界1位である。しかし、この事実にこだわる必要はない。要は、限られた予算の中で、環境、人材育成等の分野に注目しつつ、官民が効率的な援助をすることが重要と考える。

    春名国際協力プロジェクト推進協議会会長:
    現在、外務、通産、経済企画等各省庁ベースでODAに関する研究会が開催されている。今後、対外経済協力審議会がこれら各省庁ベースの議論を集約し、国民全体に経済協力の姿が明らかになるようにしていく必要があると考える。

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