経団連くりっぷ No.59 (1997年 7月10日)

アメリカ委員会(委員長 槙原 稔氏)/6月24日

堺屋太一氏より、日米関係、日本の改革について聞く


日米21世紀委員会(日本側委員長:堺屋太一氏、米側委員長:W.ブロック元米通商代表)では、さる5月、「日米経済問題に関する政策提言」を取りまとめ、両国首脳に提出した。そこで、堺屋太一氏より、この提言の内容や議論の模様、氏自身の日米観について意見を聞いた。
以下はその概要である。

堺屋太一氏

  1. 日米21世紀委員会について
    1. 日米21世紀委員会は、稲森京セラ会長の提唱により、96年に発足した。

    2. 当委員会では、日米関係が世界で最も重要な2国間関係であるという認識の下、議論を行なっている。また、相手を批判するのではなく、まず自らやるべきことを考えるというのを基本姿勢としている。

    3. これまで2回の会議を開催した(第1回:96年12月、於:ワシントンDC近郊、第2回:97年5月、於:山中湖畔)。今後は、第3回(97年12月、於:ヒューストン、テーマ:安全保障、環境問題など)、第4回[最終](98年5月、於:日本、テーマ:教育改革など)の会合を予定している。

  2. 「日米経済問題に関する政策提言」
    1. 日米は、それぞれ以下の自己改革を進めるべきである。日本は、
      1. 規制構造の徹底的改革、官僚主導体制からの脱却、
      2. 少子高齢化に伴い巨大化する財政の赤字構造の抜本的改革、
      を行なわねばならない。

    2. 他方米国は、
      1. 国際競争力の強化、
      2. 年金・医療等の改革による2002年以降の財政均衡、
      3. 税制の抜本的改革による貯蓄・投資の促進、
      が課題である。

    3. 日米間の貿易不均衡については、不健全な財政支出の拡大によって解決することはできない。これまで米国は、不均衡を是正するために、日本に財政支出による内需拡大を求めてきた。財政均衡は日本の重要課題であるため、このアプローチは好ましくないと、米側委員も考えている。本提言が功を奏したのか、先般のデンバー・サミットでは、日本の内需拡大を求める声明は出たが、財政支出には触れていない。

  3. 議論の模様、堺屋氏の日米観
    1. 冷戦終焉後、経済や安保の問題は多国間で解決すべきという声が、米国をはじめとして強まっている。現在、米国では、2国間関係中、対中関係が最重要という意見が多数を占めている。対EU、対ロシアと続き、対日関係はその次である。

    2. ところが、日米関係は世界にとって極めて重要である。現在、日米は世界のGDPの4割を占め、対外援助の5割を負担している。

    3. かつて日英同盟を捨て、ワシントン条約による多国間体制を選択した日本は、国際的に孤立した。多国間枠組みに過度に依存する政策は、この事態を再現させる恐れがある。

    4. 日米の発想は根本的に異なる。米国社会には、個人消費主義と自由経済が強く根づいている。一方日本では、官僚主導が徹底している。

    5. 冷戦後、総資本主義の時代を迎え、米国はもはや自由経済しかないと自信を深めている。英国で誕生し、欧米に根づいている自由経済には、いくつか条件がある。第1は、法の下の平等。機会均等・新規参入を妨げるものは自由経済ではない。そして消費者が良否を判断するという消費者主権が大前提である。第2に、情報公開の徹底。とくに米国で厳しく、情報を隠蔽することは、自由社会への反逆行為とみなされる。

    6. こうした欧米の目からみると、日本経済は市場経済とは映らないようだ。また、推定無罪の原則が徹底している米国にとって、刑事被告人の98%が有罪判決という日本の裁判制度も相当に疑わしい。

    7. 今回の議論で、日本側がまず考えたことは、日本の改革にはいくつか前提条件が必要ということである。第1に、「江戸長崎禁止法」の制定。これは、公務員が法律で与えられた権限を、法律で定められた目的以外で行使してはならず、これに違反した場合、個人罰を含む罰則を科すというものである。これなくして官僚の過剰な行政指導はなくせない。

    8. 第2の条件は、閣議の自由化。現状では、事務次官会議で事前に調整されていない事項を議論すると、閣議ではなく「閣僚協議会」という名称になってしまい、全閣僚が合意しても、なんら効力を持たない。この仕組みは、岸内閣のときにできた(昭和33年)申し合わせ事項であり、法的根拠はない。

    9. 第3の条件は、立法府の強化。行政と立法のバランスをとるために、政府の法案より議員立法を先に審議する仕組みをつくらねばならない。現在、日本で法案作成能力があるのは、官庁と内閣法制局のみである。政党、議員のこの面での能力を一段と強めねばならない。

    10. 以上3つの条件を前提に、日本は改革を断行しなければならない。第1の課題は規制緩和、第2の課題は財政均衡である。橋本政権の改革への意気込みは評価したいが、楽観視できない。なぜなら、日本人の発想は、まず規制があって、そのどれを自由化するかとなるためだ。

    11. 行政改革でも、現在ある官庁をどう再編するかという発想しかない。食、住、レジャー、情報など消費項目別に組織化することも可能だろうが、今の行革では思いもよらないだろう。この背景には、誕生以来脈々と受け継がれている日本の官庁の本能がある。

    12. ドイツを模範にした戦前の日本の官僚制度の特徴は、官僚が各省所管の生産者を育成すると同時に、消費者の保護も行なったことである。ところが戦後、後者の役割を担っていた内務省が解体され、消費者を保護する官庁は消滅したが、供給者育成官庁だけは、姿を変えて生き残った。
      供給者別の組織を改められない理由は、そうでないと、官僚が天下り先を確保できないためである。これが行革の最大のネックになっていることなど、官民間の出入りが自由な米国には、到底理解できないことである。


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