経団連くりっぷ No.59 (1997年 7月10日)

経団連−全経聨経済・経営懇談会(座長 楠川 徹氏)/7月1日

全経聨との共同訪中に向けて結団式を開催


経団連と全経聨(全國経済人聨合会)は、両国の産業協力の方策について検討を進めてきたが、その過程で環黄海経済圏における日韓両国と中国との協力について検討してはどうかとの意見が出された。そこで、経団連−全経聨経済・経営懇談会の楠川徹経団連側座長(富士総合研究所理事長)と姜晋求全経聨側座長(三星電子会長)を共同団長とし両国企業の経営トップで構成される共同訪問団を7月14日〜19日の予定で北京、青島、大連に派遣することとした。
中国では、最近の投資環境と日韓の進出企業が抱える問題点を調査するとともに、日中韓3国協力の可能性を検討する。そこで同懇談会では、訪中に先立ち、富士総合研究所国際調査部の馬成三主席研究員を招いて日本側結団式を開催した。
以下は、その際の馬主席研究員の講演概要である。

  1. 馬成三主席研究員説明要旨
    1. 中国の政治・経済の現状
      1. 今年は、2月にトウ小平氏が死去し、7月には香港が返還されたが、この秋には第15回党大会が予定されており中国にとって歴史的な年となる。香港返還で「一国二制度」が実現したというが、中国でもすでに株式投資が行なわれるなど実態は市場経済に限りなく近い。また、香港の制度の維持について中国自身その重要性を承知しており、諸外国よりも地方政府など国内勢力が厳しく監視するだろう。

      2. 江沢民主席は、18年におよぶ改革・開放政策で生じた所得格差を是正しながら社会主義市場経済体制の建設に取り組むことになるが、漸進的に政治改革を進められるか否かが「江沢民時代」を占うカギとなる。

      3. 中国経済は、マクロ的には昨年以上のパフォーマンスを示している。第1四半期のGDP実質成長率は9.4%(昨年同期9.7%)で、インフレ率は昨年の6.1%から本年第2四半期には1%台に低下するだろう。1〜5月の貿易黒字は139億ドル(昨年1年間の黒字122億ドル)で、本年3月末の外貨準備高は1,121億ドルと日本に次いで世界第2位である。しかし、ミクロ的には、国有企業の経営不振が深刻化し、失業者数も昨年の750万人から900万人に急増した。

    2. 対日経済関係
      1. 日中貿易の規模は80年の94億ドルから96年には624億ドルと拡大しており、日本の貿易全体に占める対中貿易の割合は90年の3.5%から96年には8.2%となった。その結果、93年以来、日本にとって中国は、米国に次ぐ第2の貿易相手国となり、中国にとって日本は、香港を抜いて最大の貿易相手国となった。
        80年代半ばには、中国の大幅入超であったが、90年から日本の入超となり96年には186億ドルと単一の国・地域としては最大規模となった。対中輸入の商品構成も原材料中心であったのが、96年には製品比率が78%となった。品目別にみると現在、繊維がトップを占めているが、いずれは電気・電子製品がこれにとって代わるだろう。

      2. かつては、日本の対中直接投資が慎重すぎると言われた。しかし、94年までは実施金額ベースで香港、台湾、米国に次ぐ第4位だったのが、96年には香港に次いで第2位になった。これに対応して「日本企業は、意思決定に時間がかかるが、経営姿勢は堅実である」などと評価が高まっている。

      3. 豪州の政府系シンクタンクの分析によると、30年後、日中貿易の規模は日米貿易を上回る。80年代からの推移を見ると、その可能性はある。また、中国のWTO加盟は、中国製品に対して特恵関税を適用し輸入制限措置をとらない日本にとってメリットとなる可能性は高い。外資優遇措置の見直しが直接投資に影響を及ぼしているが、それでも中国市場をターゲットにする企業にとっては魅力的なはずである。

    3. 対韓経済関係
      1. 中韓両国は、79年より香港を通じて間接貿易を開始したが、92年8月の中韓国交樹立以来、対韓経済関係は急速に発展した。

      2. 両国の貿易規模をみると90年は12.6億ドルであったが、96年には200億ドルとなり16倍の拡大となった(同期間の中国貿易規模の拡大は全体で2.5倍)。中国の貿易全体に占める韓国の割合は、90年の1.1%から96年の6.9%に拡大した。その結果、94年にはドイツを超えて、第5の貿易相手国に、96年には台湾を超えて第4位に躍進した。他方、韓国にとって中国は93年以降、米国、日本に次ぐ第3位の貿易相手国である。中国の予測では、中韓貿易は2000年に320億ドル、2010年には1,000億ドルを超える。

      3. 韓国企業の対中投資は、91年の中国駐在事務所の設立以来、急速に拡大し中国側の統計で92年の対中投資は650件、契約金額4.2億ドル、実施金額1.2億ドルとなった。これが96年にはそれぞれ1,895件、42.4億ドル、13.6億ドルに拡大した。96年までの累計では、認可件数8,409件、契約金額111.8億ドル、実施金額36.7億ドルである。韓国は、香港、日本、台湾、米国、シンガポールに次いで第6位の対中投資国である。

      4. 韓国のもつ中クラスの技術は、ハイテクよりむしろ中国のニーズに合致している。外資優遇政策の見直しにより労働集約型の中小企業が大きな影響を受けているが、大企業には新たなチャンスとなりうる。今後は中韓両国が相互に市場開放を進める必要がある。また、韓国企業が、中国の国情に合致した企業経営をいかに進めるかが今後の課題である。

  2. 質疑応答
  3. 経団連側:
    日韓両国の経済界がそろって中国に行くことについて、中国側はどうみるか。
    馬主席研究員:
    日本が韓国と組んで中国に進出するケースは少ない。うまくいけば北東アジア経済圏の形成に寄与することになろう。ただ、日中合弁事業と韓中合弁事業とでは各々直面している問題が違うので、一緒に行くと中国側は神経を使うだろう。

    経団連側:
    従来、青島、大連ではそれぞれ韓国、日本が強いといわれたが、最近ではそうではなさそうだ。
    馬主席研究員:
    大連は日本企業にとって仕事がしやすいところだが、中国の国内市場をターゲットにする場合、後背地に恵まれた上海も非常に魅力的である。


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