経団連くりっぷ No.59 (1997年 7月10日)

21世紀政策研究所/6月17日

21世紀政策研究所設立記念シンポジウムを開催
―21世紀の経済社会と公共政策のあり方を考える―


21世紀政策研究所(会長:豊田章一郎氏、理事長:田中直毅氏)は設立を記念し、シンポジウムおよびパーティを開催した。シンポジウムでは、250名の参加者を得て、(財)日本国際交流センター理事長山本 正氏、大阪大学大学院国際公共政策研究科長林 敏彦氏が、田中直毅理事長、三好正也特別顧問とともに、公共政策研究の必要性と研究機関のあり方、当研究所の目指すべき方向などについて討議を行なった。

  1. 豊田会長挨拶
  2. わが国が健全で活力に満ちた経済を回復するためには、民間が政策研究に基づいたビジョン作りや具体的な政策の立案・遂行に主導的な役割を果たすことが必要である。21世紀政策研究所では、特に議員立法への支援という機能を充実させたい。

  3. パネルディスカッション
    1. 21世紀政策研究所の特徴
    2. 三好:
      21世紀政策研究所は次のような特徴を有している。
      1. 非営利組織として発足し、経団連の委員会活動とは切り離して、独立的な研究活動を行なうこと、
      2. 研究はテーマごとにタスクフォースを設け進めるが、テーマの選定などの重要事項は、「運営委員会」で審議決定すること、
      3. 実務者や経団連の委員会関係者、ジャーナリストなどからなる「研究諮問委員会」を設け、研究成果に対して厳正な評価を行なえる仕組みを設けること、
      4. 内外のシンクタンクとネットワークを形成すること、
      5. 研究成果を公共財として広く一般に公表し、経団連のみならず官公庁、政党など関係機関に活用されるよう努めること、
      などである。

    3. いまなぜ公共政策研究が必要とされるのか
    4. 林:
      公共政策を立案するためには、限られた専門分野では足らない。そのため、幅広い人材を集め、基礎的研究とともに具体的な政策課題に取り組むことが必要である。大阪大学でも大学院に国際公共政策研究科を設け、海外や国内の企業等からも幅広い人材を集め、成果を上げつつある。

      田中:
      理由は2つある。第1には、1967年のポンド危機以来の国際相場の変動や1989年の冷戦構造の崩壊による国際環境の変化に対応していくことが必要となっているということ、第2に、日本のキャッチアップ過程が終焉し、青写真ひとつで経済社会運営を進めることができる時代は終わったことである。
      試行錯誤の中、新しい時代に必要なインフラが何かということを考えていかなければならない。

    5. 公共政策研究機関はいかにあるべきか
    6. 山本:
      シンクタンクは多元化社会の申し子で、それぞれの持ち味やバックグランドにより、そのあり方も多様である。その機能には、
      1. 政策提言、
      2. 政策論議への貢献、
      3. 国民への啓蒙的活動、
      4. ブレーンストーミングへの貢献、
      などがある。また、研究成果を分厚い報告書で詳細に出す方法もあるが、薄くてもタイムリーにポイントをついて提言していく方法もある。21世紀政策研究所も状況に応じて選んでいけばよい。
      国際情勢が複雑化している現在、日本の存在感が希薄になっていることに危機感を感じている。その理由を考える真の意味で独立した研究機関がないことは問題である。その意味でキーは主体性であろう。

      林:
      運営面では利害関係抜きに主体的に研究できる仕組みが重要であると考える。
      加えて、研究機関が知恵や政策を出し、国民がそれを選ぶような形にしていくことが重要である。そのためには、インターネットなどを活用し、国民とのコミュニケーションの機会を双方向性を保ちながら増やしていくことが必要となろう。

    7. 公共政策研究機関はいかなる領域を研究対象とすべきか
    8. 林:
      21世紀政策研究所には、骨太な主張を展開するよう期待したい。今までわれわれは「日本はどういう国になるべきか」というしんどい課題から逃避し、経済活動に逃げてきた。今こそ日本のスタンスについて理想を語るべきである。多様性に富んだアジアの時代が到来する中で、異文化を理解しつつ日本が他の国々に何ができるのかを考えるべきである。

      山本:
      具体的なテーマとしては、非軍事面の安全保障や企業や社会のガバナンス、外国人労働者の受入問題などがあろうが、cutting edge issues、すなわち、これから出てくるであろう問題をいかに的確に捉えていくかが重要である。
      また、市民のサポートを得ると同時に、政策エリートの中での政策論議を深めていくことも必要である。

      田中:
      21世紀政策研究所が目指すべきものとして、P.F.ドラッカーの「Invisible Revolution」やダニエル・ベルの「脱工業社会の到来」が理想だと考えている。時代の大きな流れを捉え、20年経っても通用する問題の解決策を提起できるような報告書を世に問うことを目指していきたい。
      研究対象とすべきテーマとしては、冷戦構造崩壊後の社会における秩序形成のあり方がまず考えられよう。冷戦下では、米ソによる情報コントロールの秩序が機能していたが、これからは分散型の情報収集・情報処理のシステムにより、多元化した市民社会が形成されていくものと思われる。したがって、それぞれの主体がガバナンスの効いた単位として成立するために必要なインフラを整備していかなければならない。

    9. 総括
    10. 田中:
      この1年の日本社会の変化には非常に大きなものがあった。長年の課題であったストック・オプションの導入や純粋持株会社の解禁が一気に実現した。
      国際社会は、日本のこの1年の急速な変化を見て、21世紀には、日本もこれまでより切れ味のよい社会になるであろうという認識を持ち始めている。その中で、日本における知的資源が益々増えていくよう、21世紀政策研究所も貢献していきたい。

    11. 会場参加者からの発言
    12. 創造的な研究が立法に結びつくよう期待する。独立性を保ちつつ日本の将来像を考えるような研究機関に育ってほしい。


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