経団連くりっぷ No.71 (1998年1月22日)

経団連会長挨拶

日本経済に対する内外の「信頼」確立を

豊田 章一郎


豊田会長

  1. 改革への重要な一歩が踏み出された97年
  2. 97年は、わが国の経済社会システムの抜本改革にむけて重要な一歩が踏み出された年と言える。経団連では97年を「構造改革元年」と位置付け、改革の実現にむけさまざまな活動を展開してきた。
    橋本総理も自ら提唱された6大改革を陣頭指揮をとって推進され、11月には財政構造改革法が成立し、来年度予算において、歳出構造の抜本的な見直しが行なわれることになった。さらに私も委員として参画している行政改革会議の最終報告では、中央省庁の大括り再編や官邸・内閣機能の強化など、21世紀の新しい国づくりに向けて、改革の具体的な方向が示され、98年はいよいよ実行の段階に入る。
    金融システム改革についても、2001年に向けて競争原理の導入が進み、わが国金融市場は効率化、活性化にむけて正念場を迎える。
    規制緩和については、98年3月に期限が切れる現行の規制緩和推進計画において、経団連の要望が大幅に盛り込まれる等、成果があがっている。引き続き、新たな規制緩和推進3カ年計画が策定されることになったほか、政府の行政改革推進本部の下に、「規制緩和委員会」が設置されることも決まり、さらなる規制緩和推進への道筋がつけられた。
    経団連としても、規制緩和は経済活性化の基本であるとの観点から、行政改革と並んで今後とも最優先の課題として取り組んでいくとともに、規制緩和施策の推進・監視を行なう恒久的な第三者機関を、法律により速やかに設置するよう要望している。
    一方、97年はいわば改革の“産みの苦しみ”に耐えなければならなかった年でもあった。
    消費税の引上げなどにより、個人消費の回復が予想外に遅れたほか、アジア経済の混乱などの要因もあり、秋口以降、景気の減速感が強まった。また、金融ビッグバンを控え、市場の厳しい選択により、銀行、証券会社の破綻が相次ぎ、国民の間に日本経済の先行きに対する不安感が広がった。

  3. 経済構造改革実現に向けた経団連の活動
  4. そこで経団連では、こうした経済の現状を厳しく受け止め、当面の景気対策に加え、経済構造の改革を実現する観点から、規制緩和、法人税改革、土地流動化対策、そして金融システム安定化対策の実行を、橋本総理はじめ政府・与党に訴えてきた。
    その結果、11月に政府より発表された緊急経済対策において、土地、住宅分野の規制緩和を中心とする景気対策が講じられたほか、来年度の税制改正において、法人税の軽減、地価税の停止、有価証券取引税の軽減など、8,500億円にのぼる減税が実現した。
    とくに法人税について、実効税率が3.6%引下げられたことは、われわれが求める実効税率40%への引下げに向けた確かな一歩であり、経団連としては、引き続き、国際水準である40%への引下げを、早期に実現するよう訴えていきたい。また、橋本総理がリーダーシップを発揮され、所得税減税の実施を決断されたことを歓迎している。
    金融システム安定化についても、経団連が求めてきた預金保険機構への財政資金の導入が決定され、市場に対し、政治のメッセージがはっきりと伝えられた点も高く評価される。金融機関におかれては、わが国の金融システムに対する内外の不安感を払拭すべく、より一層のディスクロージャーと経営の合理化を進め、不良債権問題にできる限り速やかに対応されることを期待したい。

  5. 新年における経済界の課題
    1. 痛みを乗り越え改革成果の活用を
    2. 新しい年における経済界の最大の課題は、政府が打ち出したこれらの政策を活用し、経済の活性化に自らが積極的に取り組むことである。企業の積極果敢な事業活動こそが、わが国経済の活力の源泉である、との気概と自信をもって企業経営に当り、改革に伴う痛みを自らの努力で乗り越えれば、必ずや日本経済の明るい将来が開けるものと確信している。

    3. 経済社会改革は国際的責務
    4. 97年は米国や南米、セントラル・ヨーロッパ、オーストラリア、そして中国や韓国など、多くの国々を訪問し、各国の政府ならびに経済界の要人と意見を交換する機会を得たが、直接投資の拡大等わが国に対する期待は高い。とくにアジアの通貨の安定に貢献するためにも日本自身が一刻も早く活力を取り戻さなければならないと痛感している。

    5. 企業への「信頼」確立を
    6. 97年は総会屋への利益供与など企業の不祥事が相次ぎ、これが景気にも暗い影を投げかけたことは、誠に遺憾と言わざるをえない。
      企業活動の基本は、消費者のニーズにあった、社会にとって有用な製品、サービスを提供することであるが、法律や各種ルールを遵守し、国民から「信頼」を得ることがその大前提である。
      経団連では、さる11月7日、緊急理事会・評議員会を開催して、会員各位に、総会屋等との絶縁に不退転の決意で取り組んでいただくようお願いをした。こうした要請に対し、すでに実質上すべての団体会員が、総会屋等への具体的な対応策をとっていただくなど大変心強く感じている。
      総会屋等との絶縁を実現できるか否かは、経営者のリーダーシップにかかっている。総会屋等による利益の要求行為自体を犯罪とする「利益供与要求罪」が、商法改正に新しく盛り込まれたこともあり、経営トップの皆様には、総会屋等との絶縁のために万全の対策を確立、実施されるようお願いしたい。

  6. 「活力あるグローバル国家」実現に向けて
  7. 98年こそ、景気の本格的な回復を図るとともに、改革を加速化し、自由、透明、公正で活力ある経済社会システムを実現することに加え、企業倫理の徹底により日本経済に対する内外の「信頼」を確立していかなければならない。
    このために、経団連としては、会員各位からのご意見をもとに、21世紀政策研究所の提言機能をも活用して、政府・与党に対し、適切な政策の実現を訴え、昨年発表したビジョン「魅力ある日本の創造」で掲げた「活力あるグローバル国家」の実現に向けて、引き続き全力を傾注していきたい。


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