経団連くりっぷ No.75 (1998年3月26日)

貿易投資委員会(司会 熊谷副会長)/3月2日

50周年を迎えたWTOの現状と課題


本年5月、ジュネーヴにおいて第2回WTO閣僚会議が開催され、今後のWTOの作業計画などが討議される。そこで、貿易投資委員会では、横田淳外務省経済局審議官よりWTOの現状と課題および第2回閣僚会議の見通しについて説明を聞くとともに、意見交換を行なった。また、引き続きWTOスタディ・グループが取りまとめた意見書(案)「WTOの更なる強化を望む〜国際ルールに則った多角的貿易体制の一層の推進に向けて〜」についての審議を行なった。以下は、横田審議官の説明概要である。

  1. WTOをめぐる現状
  2. WTO発足後、基本電気通信、金融サービス、ITA(情報技術協定)等の分野別自由化が実現した。また、紛争解決手続が強化されたことにより、加盟国による紛争解決手続の利用が急増している。こうしたことが、WTOに対する評価に繋がっている。
    日本は、酒税格差問題(被提訴)、フィルム問題(被提訴)、インドネシアの自動車問題(提訴)、リンゴ検疫問題(被提訴)の4つのパネル案件で紛争当事国になっている。

  3. さらなる自由化
  4. WTO協定には、
    1. 農業については2000年頃に、サービスについては2000年1月1日までに自由化交渉を開始すること、
    2. 紛争処理手続やTRIPS(貿易関連知的財産権)協定等をレビューすること、
    などが定められているが、鉱工業製品の次期関税引下げについては明記されていない。
    2000年以降の自由化交渉のあり方については、包括的交渉を行なうか、分野別交渉を行なうかをめぐり主要国の意見が分かれている。EUは農業の自由化問題を抱えているため、EU加盟国の利害調整が可能な包括的交渉を支持している。これに対して米国は、ラウンドではなく、ITAのような分野別交渉で自由化を勝ち取っていきたいとの見解を持っているため、包括的交渉には消極的である。
    包括的交渉を行なう場合は、鉱工業製品の関税交渉に加えて、どのような分野での交渉を行なうかが論点になる。

  5. 新しい課題への対応
    1. 貿易と投資
      「貿易と投資に関する作業部会」では、包括的な多国間の投資ルール策定を睨みつつ、当面は貿易と投資の関係や既存の投資関連協定などについて検討していく。
      OECDにおけるMAI(多国間投資協定)の交渉が今後の作業に大きな影響を与えると思われる。米国は、投資先の75%がOECD諸国であることから、OECD加盟国で基準の高いルールを作成し、非加盟国とは、二国間の交渉を進める方針である。

    2. 貿易と競争政策
      貿易と競争に関する作業部会では、各国の競争政策が貿易に及ぼす影響やアンチ・ダンピングなどの貿易措置が競争を歪める問題について話し合うことになっている。
      EUは各国の競争政策の均一化および取締り当局間の連携、さらには国際的な取締り機関の設立をも念頭に置いている。

    3. 政府調達協定
      現在の政府調達協定は、複数国間協定で参加国数が少ない。そのため、途上国も参加できるような緩やかな規律を策定することを念頭に、政府調達手続の透明性確保に関する議論が行なわれている。

    4. 貿易と環境
      MEAs(多国間環境協定)上の貿易措置とWTO協定の調整に関して議論が行なわれているが、MEAsを重視すべきと主張する先進国とWTO協定に基づきウェーバーを取得すべきと主張する途上国間の隔たりが大きく、実質的成果は得られていない。

    5. 貿易と労働基準
      基本的労働基準については、WTOではなくILOで取り上げることが第1回閣僚会議において決まったが、これまでのところ実質的成果が得られていない。このため、再度、WTOにおける取組みを要求する声が欧米からあがる可能性が高い。

  6. WTO加盟交渉
  7. 加盟国はWTO発足時の76カ国・地域から、132カ国・地域に増加した。現在、中国、ロシア、ベトナム、台湾、サウジアラビアなど32カ国・地域が加盟申請している。
    中国は、加盟申請からすでに12年が経過したが、中国の自由化オファーに対する欧米の評価が厳しいため、いつ加盟が実現するかわからない。日本は他国に先駆けて昨年9月にモノの自由化に関する二国間交渉の合意を実現した。現在、サービスの自由化に関する交渉を行なっている。
    ロシアの加盟交渉は開始されたばかりで、手続的には中国よりも大幅に作業が遅れているが、
    1. 欧米に近い法律を有している、
    2. WTO体制に合致した政策を打ち出している、
    ことから、欧米が前向きな姿勢を示している。

  8. 第2回閣僚会議の焦点
  9. 本年5月に第2回閣僚会議ならびに50周年記念会合がジュネーヴにて開催される。
    本閣僚会議の焦点は、
    1. 多角的貿易体制を積極的に評価し、今後もさらに促進していくとの姿勢を示すこと、
    2. アジアの経済危機を契機として国際社会に保護主義的傾向が蔓延することを抑えるべきとの警鐘を発すること、
    であると考えられる。
    2000年以降の自由化のあり方については、現段階では分野別交渉を取るか、包括的交渉を取るか各国の見解に開きがあることから、次回閣僚会議において包括的ラウンド交渉を打ち出すことは不可能と思われる。99年後半に予定されている第3回閣僚会議に向け、WTO一般理事会に作業を進めさせるなどの手続的な決定を行なうに止まる可能性が高い。次回閣僚会議以降は、第3回閣僚会議に向けて各国の主張を収斂させていくことになるだろう。


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