経団連くりっぷ No.76 (1998年4月9日)

経団連提言/3月17日

「WTOの更なる強化を望む〜国際ルールに則った多角的貿易体制の一層の推進に向けて〜」をとりまとめ


貿易投資委員会(委員長:北岡 隆氏)では、今後のWTOのあり方に関するわが国経済界の意見を「WTOの更なる強化を望む〜国際ルールに則った多角的貿易体制の一層の推進に向けて〜」と題する提言として取りまとめ、3月17日に日本政府に建議した。以下は提言の概要である。

  1. 基本的考え
    1. 1948年1月のGATT(関税及び貿易に関する一般協定)の発効以来50年間、GATT・WTO体制は、自由で多角的な貿易体制の構築を通じ、戦後の世界経済の健全な発展や平和の構築に大きく貢献してきた。
      21世紀に向け、引き続き二国間至上主義や保護主義を排し、フリー、フェア、グローバルという基本理念の下、国際ルールに則った多角的貿易体制のさらなる推進が求められる。その担い手としてWTOが中心的役割を果たしていくことをわれわれ産業界は強く期待し、これに向けたWTOの機能、体制、組織の強化を強く支持する。

    2. 他方、GATTからWTO体制に移行してから3年が経過したが、一部の加盟国において依然としてWTO協定あるいは理念に反すると思われる保護主義的貿易措置がみられる。
      例えば、わが国企業は、国際的な事業活動を行なっていくうえで、
      1. アンチ・ダンピング措置の濫用や原産地規則の不透明な運用、
      2. 地域貿易協定による域外国企業への差別的な扱い、
      3. 国際ルールに基づかない一方的措置の利用、
      4. 途上国の頻繁な政策変更、
      などの問題に直面している。
      これを放置すればWTOに対する信頼は失墜し、多角的貿易体制の根幹を揺るがしかねない。加盟国はUR(ウルグアイ・ラウンド)合意などの各合意を確実に実施し、また、WTO協定を誠実に遵守すべきである。

    3. 加盟国による協定や各合意の遵守を確実なものとするため、WTOの紛争処理および監視体制の一層の強化が求められる。併せて、新アンチ・ダンピング協定や原産地規則協定などについては、加盟国による保護主義的な適用を防止するため、一層の明確化、規律の強化が必要である。さらに、中国等の非加盟国の貿易制度を国際ルールに整合的なものにするため、WTOへの早期加盟を促進すべきである。
      こうした努力に加え、急速なグローバル化が進展するなか、WTOは環境、投資、競争政策といった新たな課題に対する国際的合意の形成に向け積極的に取り組むとともに、モノやサービスに関わる貿易のさらなる自由化に向けた動きを加速する必要がある。

  2. WTO体制の強化の方策
    1. 加盟国によるWTO協定の遵守の確保
      1. 地域貿易協定とWTO協定との整合性の確保
        地域貿易協定はWTOと整合的・相互補完的でなければならない。地域貿易協定に関するGATT第24条の解釈の明確化、地域貿易協定に対する監視体制の強化が早急に図られるべきである。

      2. アンチ・ダンピング(AD)措置に対する規律強化
        ADの濫訴防止や被提訴側の負担の軽減を図るための規律強化および各国のAD措置に対するWTOによる監視強化が必要である。さらに、迂回防止措置の濫用を防止するための規定も必要である。

      3. 政府調達協定の締約国の拡大と適用除外の削減
        新政府調達協定の見直し作業において、締約国の拡大が図られることを期待する。また、相互主義に基づく適用除外範囲の削減に向け、締約国間で話し合いが進められることを期待する。

      4. 知的財産保護の強化
        特許制度のハーモナイゼーションの観点から、すべての国における先願主義の導入、特許出願の早期公開制度等が検討されるべきである。

      5. 原産地規則の調和作業の推進
        非特恵原産地規則の調和作業が、国際的規範として、恣意的な解釈の余地のない、客観的で拘束力を持った原産地規則の実現に繋がることを強く求める。今後は特恵原産地規則についても調和作業が開始されるべきである。

      6. 途上国の国内産業保護を目的とした政策・措置への対応
        途上国による、国内産業保護を目的とした貿易措置等がUR合意等に整合的なものであるか否か、WTOによる審査が望まれる。

    2. WTOの機能強化
      1. 紛争解決手続の更なる強化
        1〜2年を要する紛争処理期間のさらなる短縮化など紛争解決手続の一層の強化を希望する。また、上級委員の拡充、パネルの抜本的改革(パネリストの常勤化等)などを図るべきである。

      2. 加盟国に対する監視体制の強化
        現在のWTOによる加盟国の貿易政策の検討制度(TPRM)の強化、あるいは有識者で構成される権威ある監視委員会(オンブズマン)の新たな設置などにより、WTOが加盟国の通商政策や地域貿易協定に対する監視体制を強化し、紛争の発生を未然に防いでいくことが望まれる。

    3. 中国等の非加盟国の早期加盟の必要性
    4. WTO非加盟国の多くは、関税政策、知的財産権保護、外資政策などの面で、多くの問題を抱えており、こうした国々のWTOへの加盟促進が重要である。

    5. 新たな課題への取組みの強化
      1. 貿易と環境問題への精力的取組み
        多国間環境協定上の貿易措置とWTO協定の調整など、WTOにおける貿易と環境に関する議論が進展することを望む。

      2. 投資の自由化に向けた交渉の開始
        投資に関する包括的なルール策定に向けた交渉を開始することが望まれる。

      3. 貿易と競争問題への取組み
        ダンピング防止措置の濫用などの競争条件を歪める貿易措置について活発な議論が行なわれることを希望する。また、国内の産業や輸出の保護のために競争政策を濫用すべきでない。

    6. さらなる貿易自由化の推進
    7. 鉱工業製品について2000年以降の早い時期に包括的関税引下げ交渉を開始すべきである。

    8. WTOと民間企業の関係強化
    9. WTOは、各交渉や作業部会の議論の内容の積極的開示を行なうとともに、必要に応じ民間企業との直接対話を行なうなど、民間企業の声を活動に反映させるような機会を提供していくことが望まれる。

  3. 終りに 〜日本政府への期待〜
  4. わが国政府が強いリーダーシップを発揮し、WTOの強化に向け今後の議論や交渉をリードしていくことを強く期待する。その前提として、わが国政府は、対日市場アクセスの一層の改善に自ら積極的に取り組むべきである。
    また、わが国は、WTO事務局に対する人的貢献を強化していく必要がある。

以 上


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