経団連くりっぷ No.80 (1998年6月11日)

地方振興部会(部会長 金谷邦男氏)/5月25日

新しい全総計画と今後の地域戦略


経団連では96年に「国土づくりは地域が主役」を訴える『新しい全国総合開発計画に関する提言』を発表し、国土・住宅政策委員会地方振興部会を中心にフォローアップに取り組んできた。本年3月31日に新しい全総計画『21世紀の国土のグランドデザイン』が発表されたのを受け、同部会では計画策定に携わった国土庁の藤野公孝審議官を招き、懇談した。

  1. 藤野審議官説明
    1. 新しい全総計画策定の経緯と国土軸
    2. かつて全総計画は、「開発は善である」という考え方の下に策定されていた。1969年の第2次の全総計画は、大規模プロジェクト構想の展開、新幹線・高速道路ネットワークの整備により、国土の有効利用、経済成長を達成し、国民の所得を向上するという考え方で貫かれている。1987年に策定された四全総も高速道路ネットワークにより地域間格差の是正を目指したが、国土構造の一極一軸への集中化はますます進んでしまった。そこで四全総の考え方を転換し、50年先の国土のあり方を描いたのが、本年3月に閣議決定された新しい全総計画『21世紀の国土のグランドデザイン』である。
      今回の全総計画では、4つの国土軸で構成される多軸型の国土構造を構想している。
      「国土軸」とは自然的、地理的、文化的な共通性を持つ、いわばひとつの自立した経済文化圏とも考えられるものであり、それぞれの軸において、人々が地域に誇りの持てる生活を築くことを目標としている。

    3. 新しい全総計画の5つの課題
    4. 50年後、こうした多軸型の国土構造を実現するための基礎固めとして2015年頃までになすべき課題は、

      1. 地域の自立、
      2. 安全な国土づくり、
      3. 自然の享受と継承、
      4. 活力ある経済社会の構築、
      5. 世界に開かれた国土の形成、
      である。
      5つの課題とは別に、首都機能移転については、一極一軸構造の是正、政治・経済・文化の機能分担、防災性の向上の観点から積極的に検討すべきであると記している。また沖縄振興について、沖縄が東南アジア各国との結節点であり、新しい国土軸の出発点でもあるという観点から振興を図ることをうたっている。

    5. 課題達成に向けた4つの戦略
    6. これらの課題を達成するために行なうべき施策について、全総計画は、4つの戦略を設定した。
      第1に多自然居住地域の創造である。豊富な自然を活かしながら、若者も集まる都市機能、情報通信基盤の整備を進め、都市的サービスとゆとりある居住環境を併せて享受できるようにする。
      第2に大都市のリノベーションである。高度成長期に投資された施設等は更新の時期を迎えており、これを機会に再開発を行ない、災害に強い、高齢社会に対応したうるおいのある都市づくりが求められる。
      第3は地域連携軸の展開である。国土を横断する地域高規格幹線道路などを利用した地域連携軸は、道州制のような制度論によらず、実を取ろうとするものであり、大都市に依存しない広域的な連携を作り、地域を活性化するものとして支援していく。
      第4は広域国際交流圏の形成である。これまで限られた都市でしか行なわれてこなかった国際交流を、これからは全国各地域が各ブロックの中心都市を拠点に進められるよう、環境を整備していくべきである。
      この4つの戦略により地域の主体的な取組みが進むよう、国は、

      1. 地域が自立するための国土基盤投資を計画的、効率的に推進する、
      2. 地域作りに役立つ情報を提供する、
      3. 地域づくりに不可欠な人材を育てる、
      4. 規制緩和を推進する、
      5. 地方分権を徹底的に行なう、
      施策を展開すべきである。

    7. 交通・情報基盤の整備
    8. 交通、情報基盤の整備は、これまでの全総計画で相当注力されてきた分野である。
      しかし、四全総でうたった14,000kmの高規格幹線道路の整備は、10年経過した今でも7,000kmまでしか進捗しておらず、今後もさらなる整備が進められるとともに、今回の計画では新たに6,000〜8,000kmの地域高規格道路の整備が加わった。また四全総の際には、「全国一日交通圏」構想が掲げられたが、この言葉は東京中心の幹線的イメージがあり、今回の全総計画では、地域の中で完結する物流・人流体系を目指す「地域半日交通圏」を掲げることとした。
      国際的には、「東アジア一日圏」構想を掲げている。地域の主要空港から自治体ネットワークを活用して東アジア各国に到達でき、その日のうちに仕事ができるようなインフラ整備が必要である。
      情報基盤については、光ファイバーネットワークの全国展開をうたっている。地方が都市機能を持ち、雇用力を持つためには情報基盤の整備は不可欠である。

    9. 全総計画の今後
    10. 今回の全総計画は、全総計画としては最後のものになるであろう。幸い地価が落ち着き、土地利用のあり方を冷静に議論できる環境になってきた。今後、国土の管理、整備というコンセプトのあり方を議論し、さらに現在の国土総合開発法、国土利用計画法のあり方を見直して、新たな国土計画法ともいうべきものが作られれば、次なる利用計画がつくられる素地はできよう。

  2. 地方経済団体との意見交換
  3. 北海道経済連合会からは「明治の開拓時代のフロンティア精神で、自立した地域づくりに取り組む」、東北経済連合会からは「21世紀のフロント地域東北づくりに向けブロック計画策定に取り組む」、北陸経済連合会からは「広域連携に必要なインフラ整備の推進を求める」、中国経済連合会からは「多様な主体による広域連携を進める」、九州・山口経済連合会からは「東アジア1日圏、地域半日交通圏の具体化を進めるべきである」等の発言があった。
    藤野審議官からは「(1)これから三大都市圏や地方圏でブロック計画を順次策定していく。(2)今後、全総計画の戦略の具体化に向けて調査をする」とのコメントがあった。
    前田国土・住宅政策委員長代行は「地域は自らのブロックの問題を自ら考えるが、国には50年後のエネルギー政策など、ブロック計画では描き切れない、国として描くべきビジョンを描いてほしい」と指摘した。


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