経団連くりっぷ No.82 (1998年7月9日)

なびげーたー

地球環境問題へのもうひとつの自主的取組み

地球環境本部長 角脇 通正


経団連では、今般、経団連版PRTR(環境汚染物質排出・移動登録)調査結果を公表した。これは、昨年発表した経団連環境自主行動計画に続く、化学物質管理面での産業界の自主的取組みを示す成果である。

地球環境問題が大きくクローズアップされるようになったきっかけは、92年にブラジルのリオデジャネイロで開催された地球サミットである。同サミットにおいて、持続可能な発展を実現するための行動計画として「アジェンダ21」が採択され、極めて広範な環境問題が21世紀へ向けての課題として取り上げられた。経団連は、その中でも、地球温暖化防止、廃棄物対策を中心とする循環型社会の構築、生物多様性の保全、および化学物質の適切な管理を、特に主要な課題と認識し、取り組んでいる。

すなわち、96年7月に発表した「経団連環境アピール」の中で、地球温暖化防止と循環型社会の構築を、産業界が自主的に取り組む重要課題として取り上げ、翌年6月にはこの二つの問題について具体的目標と対策を盛り込んだ「経団連環境自主行動計画」を公表、目下その着実な実施に努めている。また、生物多様性の保全についても、92年に設立した自然保護基金を通じ、発展途上国におけるさまざまな自然保護プロジェクトを支援している。

残された課題の一つである化学物質の管理については、96年2月に、OECDが加盟国に対して、PRTR制度の導入を求める理事会勧告を出しているが、経団連でもこれを受けて、96年11月より、制度導入についての検討を開始した。そして、産業界として自主的にPRTR制度を構築する方針を固めて準備を進め、97年12月より45業界団体の協力を得て調査を実施、今般その結果を公表したところである。

今回の調査は、オール産業界といってもよいほど多くの業界が参加した自主的なPRTRとしては世界で初めての試みであり、また、対象とした174の化学物質について、全国規模での排出・移動量のオーダーが初めて把握できたという点で大きな意義があると考えている。

一方、環境庁、通産省等政府サイドにおいても、このPRTR制度を法制化しようという動きがある。しかしながら、そもそも、製造・使用されているものだけで、5万から10万種あると言われている化学物質を、全て行政が管理しようというのは非現実的であり、化学物質の管理はやはり事業者の自主管理を基本とすべきだと考える。行政が化学物質の排出・移動量について、報告の制度をつくることは世界的な傾向だが、特に公表の方法等、制度の中味については、化学物質の製造・使用の主体である事業者の自主性を尊重すべきであろう。今後とも、PRTR法制化の議論に対しては、産業界として慎重に対応していく必要がある。


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