経団連くりっぷ No.89 (1998年11月12日)

評議員懇談会(座長 川勝堅二評議員会副議長)/10月26日

「当面の経済情勢と景気回復策」ならびに
「産業の活性化と国際競争力の強化」について懇談


評議員80余名の出席を得て、評議員懇談会を開催した。当日は、川勝評議員会副議長、今井会長から挨拶があった後、2つの分科会に分かれて、「当面の経済情勢と景気回復策」、「産業の活性化と国際競争力の強化」について懇談した。
なお、関本評議員会議長の退任に伴い、筆頭副議長である川勝評議員会副議長が、当分の間、評議員会議長の職務を代行することになった。

  1. 全体会議
    1. 川勝副議長挨拶
    2. 現在の危機を乗り越えられるかどうかは、一に適切な政策がスピーディに実行されるか否かにかかっている。景気を一刻も早く回復軌道に乗せるべく、経団連として引き続き尽力しなければならない。他方、抜本的な構造改革も不可欠である。明確なビジョンに基づいた改革が迅速かつ着実に実行されるよう働きかけを強める必要がある。さらに、高コスト構造の是正や技術力の強化によって、より盤石な産業基盤を築くことも不可欠である。経済界には、魅力ある新製品やサービスを提供するなど自ら難局を打開していくことが求められている。

    3. 今井会長挨拶
      1. 一刻も早く経済を立て直し、世界経済の安定と発展に貢献していくことが日本の国際的な責務となっている。アジア諸国の日本に対する期待も非常に高く、アジア経済の再生にとって日本の景気回復は不可欠である。
        そこで、小渕内閣発足後直ちに「新内閣に望む」と題する要望を取りまとめたほか、各種提言を行ない、その早期実現を訴えてきた。特に、金融システムの問題については、システム安定のための法整備に与野党が全力を挙げて取り組むことを要望するとともに、関連法案の早期成立や破綻前の資本注入の必要性を強く訴えた。その結果、金融再生・不良債権処理のための枠組みができたことは評価するが、問題は、いかに収縮を防ぎ、わが国金融システムを効率かつ信頼のおける形に再編するかである。このためには、金融機関に対する大規模な公的資金注入が一括して行なわれることが望ましく、各金融機関においては、公共的見地から積極的に資本注入を申請し、経営の健全化と健全な借り手に対する融資の継続に努めてほしい。その際、あまりにも厳格に経営責任を追及することで過度の金融収縮をもたらさぬよう配慮が必要である。また、金融当局が金融機関の財務状況を厳しくチェックするとともに、各金融機関も自主的に不良債権の償却や引当ての状況について公表し、市場の信頼確保に努めることが重要である。

      2. 本格的な景気回復には、大胆な内需拡大策を講ずるとともに、国民の将来に対する不安を払拭するため、経済社会システムを抜本的に改革していく必要がある。
        経団連では、10月12日に「緊急経済対策要望」を取りまとめ、公共投資の拡大や税制改革による経済の活性化等を要望した。さらに、現在、具体的なプロジェクトについて経団連としての提案を取りまとめている。これに加え、税制改革の前倒し実施や減税額の上積み等を求めていきたい。また、規制の撤廃・緩和により高コスト構造を是正し、新産業・新事業を起こすことによって経済を活性化していくことも重要である。さらに、戦略分野において産官学が一体となって技術振興に取り組み、技術立国としての日本を確立していかなければならない。豊かで活力ある社会を実現するためには、社会保障制度を国民が信頼できる、透明で持続可能な制度に改革することも必要である。

      3. 経団連としては、わが国経済社会の一層の活性化のため、「自立、自助、自己責任」を活動の基本に据え、直面する重要課題に全力を傾注して取り組んでいく。

  2. 分科会
    1. 第1分科会「当面の経済情勢と景気回復策」(座長:川勝副議長)
      1. 片田評議員会副議長説明要旨
        「緊急経済対策要望」では、緊急に着手、実行すべき柱として、

        1. 金融システムのさらなる安定化、
        2. 証券市場の活性化、
        3. 為替安定化のための国際的枠組みの早期構築、
        4. 税制改革、
        5. 公共投資、
        6. 産業基盤の整備、
        7. 企業年金改革、
        8. 労働市場改革、
        の8つを掲げ、それぞれ具体策を提案した。

      2. 懇談要旨

        1. 金融機関への公的資金の注入にあたっては、経営責任の追及を急がず、結果責任を問うこととし、まずは金融システムの早期安定化を目指すべきである、
        2. 証券市場の活性化には、自己株式の消却を進めるとともに、配当性向を高め個人株主を市場に引きつける必要がある、
        3. 公共投資の無駄を排除し、効率的かつ早期に実行する必要がある。また、波及効果が高まるような予算上の工夫が必要である、
        4. 市場のニーズを汲み上げ、魅力ある商品・サービスを提供することが不可欠である、
        等の意見が出された。

    2. 第2分科会「21世紀に向けた産業の活性化と国際競争力の強化」(座長:北岡貿易投資委員長)
      1. 瀬谷産業問題委員長説明要旨
        製造業の国際競争力を強化するには、海外の製造業との競争条件をイコールフッティングにしていくことが重要である。産業問題委員会では、わが国の高コスト構造の是正こそ製造業の国際競争力強化の出発点と位置づけ、検討を進めている。また、戦略的な産業振興や雇用・労働の確保・流動化等の問題についても検討する予定である。一方、産業技術委員会では、戦略的な産業技術政策の確立に向けた提言の取りまとめを進めている。

      2. 懇談要旨

        1. 製造業の自助努力を無意味にしてしまうような為替レートの急激な変動への対応策が必要である、
        2. 業界によって影響は異なるものの、エネルギー、物流、労働等の分野のコストが高い、
        3. 中核的な技術の強化が必要である、
        4. 若手経営者の育成が必要である、
        5. 産業活性化のための戦略を検討する場が必要である、
        等の意見が出された。


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