経団連くりっぷ No.98 (1999年3月25日)

なびげーたー

「ビジョン」その後

専務理事 和田龍幸


経団連の21世紀ビジョン「魅力ある日本」の公表(96年1月)後の急激な変化の中で、気になっている点がいろいろある。

不況の深度

「ビジョン」の作業は95年春から始まった。95年度実質GNP3.1%成長に示されるように、バブル不況脱出が確認されたかの感が強かった。96年度4.7%のあと97年度マイナス0.3%への転落は、消費税率引き上げなど、政策的責任というのが一般の認識だ。しかし、今考えると、それなくしても、バブル期の過剰投資、超過供給能力の科が露呈して経済不振は不可避だっただろう。
ここに分析が至らなかったのは不明と言わざるを得ない。マクロ分析力の強化が課題である。

三つの不良資産

「ビジョン」作業の当時、金融システム全体がこれほど痛んでいるとの認識には至らなかった。本文では、金融機関への検査監督の厳正化、情報公開の徹底、セーフティネットの充実などを提言しているが、現時点でみれば微温的との指摘を受けても止むを得ないことである。
銀行の不良債権の相対が民間企業の不良資産である。大胆な設備能力調整の進行度合が、景気回復、経済体質改善の鍵である。
残る不良債権は国債、地方債など公的な負債である。ここ3年度続いた大量の国債発行によって、財政健全化への試算の前提が崩れた。3種の不良債権問題処理スケジュールの再構築作業を急ぐ必要がある。

国民負担率と成長率、消費税率

「ビジョン」では2020年までの国民負担率(税+社会保障費)を50%以内に抑える試算を行なった。ここでは、2010年度までの実質成長率を3%、消費税率を2005年度までに10%へ引き上げるケースと、12%まで引き上げるケースを取り上げている。
この試算での問題点は、各変数が成長率へどう影響していくかという関係をフォローしていないことである。長期の連立モデルでの試算は余りに多くの仮定を必要とするので、省略したのである。しかし、財政赤字の拡大、低金利に伴う年金制度の改訂など条件が大きく変わってきたので、少なくとも5年程度の中期について精密なシュミレーションをやってみる必要がある。

民の自立・役割

規制の撤廃・緩和が進めば、それに代わって民間が自主的に秩序維持に努めなければならない。環境問題への取組みはその例である。また、米国では司法試験も民間団体(バーアソシエーション)が行なっている。権威ある民間組織が社会システムの中で重要な役割を果たしている。
NPOも行政と協力関係を保ちながら広い範囲をカバーしている。米国でのNPO就業者は労働力人口の7%強である。日本にこの率を適用すると300万人の失業者救済は難しくない。
官から民への流れの中で、経済団体等の助産婦的役割が大きくなる。ビジョンの理念「真に豊かな活力ある市民社会」実現への民間分担表を描いてみてはどうか。


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