経団連くりっぷ No.103 (1999年6月10日)

首都機能移転推進委員会 新東京圏創造のためのワーキンググループ(座長 國信重幸氏)/5月17日

世界都市東京の構築に向けて

−本格的再開発を考える


新東京圏創造のためのワーキンググループでは、1997年4月の発足以来、首都機能移転後を見据えた21世紀の東京圏のあり方について検討を行ない、昨年4月には、首都機能移転推進委員会での審議を経て、報告書「新東京圏の創造−安心・ゆとり、魅力、活力を兼ね備えた都市づくりに向けた提案−」を取りまとめた。当ワーキンググループでは、報告書に掲げた提案の実現方に向けて、国際都市東京の競争力を高め、魅力ある東京圏をいかに構築するか等について、検討を重ねるため、都市開発プロデューサーである梅澤忠雄氏を招き、世界都市東京の本格的再開発の方策について説明を聞き、意見交換を行なった。

  1. 梅澤氏説明要旨
    1. 公共事業費1/2の時代へ
    2. 地方から大都市圏への公共投資の重点のシフトとともに、21世紀のわが国は、公共による事業が半減し、今までの公共投資のかなりの部分を民間が担う時代に突入する。
      民間側は、

      1. 新規プロジェクトの企画・開発力、
      2. プロジェクトの説明力、
      3. 公共投資の経済効果分析手法の確立、
      4. 資金調達の多様化、
      5. 官民の新たな連携体制、
      6. プロジェクトの迅速性の確立、
      が求められる。欧米諸国では一般的に、「都市開発→雇用創出→サービス等各種産業への波及効果→税収」等の一連のフローについて、会計コンサルティング会社が報告書を作成し、議会で高い信頼を得ている。英国では、PFI(民間資本を活用した社会インフラ整備)方式等が確立しており、こうした事例は参考になるであろう。

    3. ビッグバンに見るロンドン活性化方策
    4. 長期的な視点を備えていたサッチャー元英国首相は、強力なリーダーシップの下、金融をはじめ、医療、農業、教育等の領域で、ビッグバン・プロジェクトを決行した。ロンドン市の強い抵抗にもかかわらず、ドックランドの都市計画権を同市から取り上げ、エンタープライズゾーンを設け、ロンドンの代表的な金融街であるシティーとは別に、フィナンシャル・センターをつくった。ゾーン内では時限措置として、事業税を10年間無税としたため、新センターには世界中から証券会社、銀行が殺到し、ロンドンは国際金融センターとして再生を遂げた。
      ニューヨークのウォール街同様、若いビジネスエリートに人気の高級住宅を大量供給することにより、高額所得者の納税に加え、ショッピングや外食等の諸サービス業にも波及効果をもたらし、ロンドン金融街付近は活況を取り戻した。
      大都市中心部の夜間人口について見ると、ニューヨークのマンハッタンが150万人を数えるのに対して、東京都心4区はわずか50万人に過ぎず、経済的な損失は大きい。日本開発銀行の報告によれば、対日直接投資はあるべき規模の10分の1にとどまっており、最大の障害は、明らかに、都心型高密住宅地区の不在である。東京圏の劣悪な通勤事情のため、オフィスワーカーが長距離通勤を強いられ、日本から香港やシンガポールに企業が逃避する一因となっている。都心部の住宅再開発を大規模に促進する必要がある。

      ロンドンのキャナリー・ワーフの開発は、建設中のキャナリー・リバーサイド計画(手前)で最終章を迎えようとしている。右手奥に見えるのは建設中のミレニアムドーム。

    5. 英国の再生から学ぶもの
    6. 英国のあるシンクタンクは6つの新たな国家アイデンティティを示し、反響を呼んだ。それが、ブレア首相による「ニュー・ブリテン」構想である。
      6つのアイデンティティとは、

      1. 情報、教育、観光、金融等、多方面にわたって世界をリードするセンター、
      2. 科学技術や医学等における創造力の島、
      3. 人種が融合した統合国家、
      4. ビジネスにオープンな国、
      5. 世界の先頭に立って様々な改革を実践してきた静かな革命の国、
      6. 弱者に対して温かいフェアプレーの国、
      というものであり、英国が国際競争力を強化する上での明確な理念を表わしている。
      わが国も、戦略的でダイナミックな都市計画を展開するためには、国家アイデンティティを明確にした上で、英国のドックランドで実践されたエンタープライズのような経験を積極的に取り入れていくことが必要であろう。いかなる投資家から見ても分かり易い国際プロジェクトの創出・推進により、世界中の資金を都市再生に直結させていくべきである。

  2. 意見交換
  3. 経団連側:
    バブル後遺症に悩む東京には、土地利用が滞っている総面積が6,000haにも及ぶ。
    東京復興の鍵は、
    1. 都市プロデューサーがグランドデザインを掲げること、
    2. 都市再開発において資金を投入する方法を開発すること、
    3. 虫食い地の整備、
    の3点にある。
    梅澤氏:
    例えば、コミュニティ・スポーツ振興は健康保険や医療費の支出削減に資するとの観点から、コミュニティのスポーツ施設を虫食い地に先行的に建設・整備することが考えられる。
    また、競売物件は、様々な人がオープンに参加できるオークションでの販売を行なうこととすべきである。

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