経団連くりっぷ No.104 (1999年6月24日)

情報通信委員会 通信・放送政策部会(部会長 倉地 正)/5月20日

成長を続ける電波ビジネス

−郵政省電気通信局田中電波部長より聞く


携帯電話や衛星放送など、電波に対する需要が高まりつつある。産業界においても、電波の有効活用により、新しいビジネス展開を図る動きも出てきている。そこで情報通信委員会通信・放送政策部会では、郵政省の田中征治電波部長より、電波行政の課題と今後の運営のあり方について、説明を聞くとともに、種々懇談した。
また、当日は、当部会の報告書「デジタル時代における衛星放送産業の発展に向けて」概要は経団連クリップNo.103を参照)について審議し、了承を得た。

田中電波部長説明概要

  1. 電波利用の現状
  2. 電波発見から100年が経過した今日では、携帯電話などの通信・放送分野から、電子レンジなどのエネルギー分野まで、電波利用の範囲は広がっている。無線局の開設数は、約4600万局(1998年)であり、その内約90%(約4150万局)が携帯・自動車電話が占めている。行政としては、いかに移動通信事業の発展の方向を適切につかみ、対応していくかが課題となっている。

  3. 成長を続ける電波ビジネス
  4. 電波ビジネスの市場規模
    1. 市場規模
      97年度における情報通信産業(通信・放送事業、ソフト制作業、情報通信・放送機器製造業)全体の市場約36.8兆円の内、電波ビジネス(無線通信事業、放送事業、コンテンツ制作業、無線通信・放送機器製造業)は、約14兆円、約38%のシェアを占め、自動車業(約18兆円)、鉄鋼業(約15.9兆円)と肩を並べるまでに成長した(図参照)。これは、移動通信事業が高度に成長したことが大きい。

    2. 設備投資
      電波ビジネス分野における設備投資は、携帯電話のデジタル化・ネットワーク化、PHS事業の開始などの理由から、大きく伸びてきたが、最近は、投資が一段落したことから、伸びは落ちている。ただし、次世代携帯電話に向けた取組みが開始されていることを考えると、今後も積極的な投資がなされることとなろう。

    3. 成長要因
      電波ビジネスが成長してきた要因は、

      1. NTTの民営化、競争政策の導入などの85年の第1次情報通信改革、
      2. 携帯端末の売り切り制度導入、
      3. PHSサービスの開始、
      4. 包括免許制度の導入、
      5. 技術基準適合証明制度の導入、
      などがあげられる。制度改革は、ビジネスの発展に貢献すると考えている。

    4. 成長予測
      97年6月の「情報通信21世紀ビジョン」では、2010年頃の情報通信産業全体の市場規模を約125兆円と予測している。電波ビジネスのシェアが35〜40%で推移すると単純に予測すれば、2010年には40〜50兆円規模の市場へと成長する可能性がある。

  5. 21世紀に向けた電波ビジネスの展開
    1. 次世代携帯電話(IMT−2000)
      最大2Mbps(メガビット)の伝送が可能で、かつ世界各国で使用できる移動通信サービスに向けたプロジェクトであり、各国が注目している。
      本年6月に北京で開催される国際電気通信連合(ITU)の専門家会合では、標準化について大筋の合意がなされるのではないか。郵政省では、本年末までに、事業化・免許方針を公表し、2001年のサービス開始に備えたい。

    2. マルチメディア移動アクセス(MMAC)
      IMT‐2000がより一層発展し、携帯でテレビ電話が使えるようなサービスをイメージしたものである。2010年頃に、156Mbpsの超高速通信が、高速移動中の自動車や列車でも可能となるような開発に取り組んでいる。

    3. 成層圏プラットフォーム
      全長200〜300mの飛行船を成層圏に浮かべ、新しい電波帯の利用して、超高速のインターネットサービスなどを行なう計画である。飛行船の安定的な係留、エネルギーの確保など、基本的な技術開発が必要とされており、科技庁とも連携して、積極的に進めていきたい。

    4. 高度道路交通システム(ITS)
      安全運転支援システム、自動料金収受システムなど、道路交通に関する総合的な情報通信システムであり、運輸省など5省庁連携のプロジェクトとして推進している。ITSの効用としては、

      1. 快適なカーライフの追求、
      2. 交通事故、交通渋滞等の道路交通問題の緩和、
      3. 物流の効率化、
      4. 地球環境問題、エネルギー問題の緩和、
      5. 自動車、情報通信機器等の関連市場の活性化による景気浮揚、
      があげられる。電気通信技術審議会では、ITS情報通信関連分野の市場は、2015年までの累計が約60兆円で、約107万人の雇用創出効果があると予測している。

  6. 今後の電波行政における制度的課題
  7. 電波法制定から50年が経過した。社会の変化に応じて、電波法を改正してきたが、今後は、新たな時代に向けて、周波数の有効利用の促進、公正有効競争のための環境を整備する観点から、

    1. 迅速かつ公平な周波数移行のあり方、
    2. 競願手続きのあり方、
    3. 周波数の国際調整のあり方、
    4. 事業譲渡の伴う無線局免許のあり方、
    5. 技術基準認証制度のあり方、
    について検討し、時代に適応する法体系を整備していきたい。


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