経団連くりっぷ No.107 (1999年8月12日)

産業競争力の強化に関する報告会/7月19日

産業競争力の強化に向けた経団連の取組み


経団連では、総理主宰により本年3月から開催されている「産業競争力会議」において、緊急に措置すべき各種の施策を提言してきた。そこで、7月19日、これまでの経団連の取組みについて、全会員を対象に報告会を開催した。

  1. 開会挨拶:今井会長
    1. わが国が更なる発展を遂げ、豊かな社会を維持していくためには、産業競争力の強化が不可欠である。本年1月、与謝野通産大臣との懇談会で、産業競争力の強化に関して官民合同の会議を設置することで意見が一致し、それが「産業競争力会議」の設置につながった。

    2. 「産業競争力会議」が取り組むべきテーマは大きく分けて次の3点である。第1は、供給構造の改革、高コスト構造の是正などを通じた既存産業の活性化、第2は、ベンチャー化の推進等による新産業・新事業の創出、第3は、産業技術力の強化を通じたリーディング・インダストリーの育成、である。

    3. 産業競争力を強化するためには、企業が自立・自助・自己責任の精神で主体的に取り組む一方、政府はそのための環境整備を行なうなど、官民が相互に連携をとりながら取り組んでいくことが重要である。そのような観点から、経団連としては、「産業競争力会議」において、現在のわが国経済にとって緊急に措置すべき施策を中心に具体的な提言を行なってきた。今後、「会議」では、高コスト構造の是正、産業技術力の強化によるリーディング・インダストリーの育成、人材の育成、円の国際化など、多岐にわたる課題が取りあげられる予定であるが、会員各位の意見を踏まえながら、さらに検討を深め、提言していく所存である。

  2. 来賓挨拶:渡辺通商産業事務次官
    1. 政府としては、(1)金融システムの安定化、(2)需給ギャップの解消、に必要な対策を講じた後、(3)サプライサイドの改革に取り組み、平成13年度から経済を民需主導の安定成長軌道に乗せるという再生の道筋を描いている。(3)については、経済構造改革の一環として取り組んできたが、経済実態の動きの速さに各種施策が追いついていないのが現状である。この構造改革を加速化するために設けたのが「産業競争力会議」である。会合の度に総理から数多くの指示が出され、従来の行政システムでは考えられないスピードで意思決定が行なわれている。7月21日には、「産業活力再生特別措置法案」が閣議決定される予定であり、今国会で成立を図る。

    2. 同法案は、(1)事業再構築の円滑化、(2)創業および中小企業による新事業開拓の支援、(3)研究活動の活性化など、これまでの「産業競争力会議」の議論を踏まえた内容となっている。また、6月11日に決定した「緊急雇用対策及び産業競争力強化対策」には、国家産業技術戦略の策定、未来産業創出のための官民共同プロジェクトの推進など21世紀前半につながる計画が盛り込まれている。

    3. 一方、上記「対策」では、民主体で労働移動を円滑化するとの新しい考え方に基づき各種施策を打ち出しており、民間企業の取り組みに期待するところが大きい。政府としては、労働移動に対して中立的な制度を整備していく。

    4. 経済再生の主役は企業であり、この機会を捉えて、生産性の向上と更なる発展のために全力をつくしていただきたい。

  3. 経団連の取組み
    1. 前田副会長説明要旨
      1. わが国は少資源国であり、加工貿易によって経済発展を遂げてきた。したがって、貿易財産業が健全でなければ、国の安定成長は望めない。近年、貿易財産業の基盤が急速に弱まっており、早急にこれに歯止めをかける必要がある。以上のような考えに基づき、経団連では、「産業競争力会議」の設置を提言し、将来に向けて国策として必要な産業政策のあり方を官民一体で議論することを提案した。

      2. 第1回から第3回の「産業競争力会議」では、緊急の課題として、「供給構造の改革」と「雇用対策」が取りあげられた。経団連としては、さる5月18日に、これらの課題に対応した「わが国産業の競争力強化に向けた第1次提言」を取りまとめ、第3回「会議」(5月20日)に提出した。提言は、

        1. 産業競争力強化に向けた供給構造改革のための措置、
        2. 雇用のミスマッチ解消・新規雇用の創出のための対策、
        3. 遊休不動産の有効活用と流動化促進、
        の3本柱から成る。政府は、これに対応する形で、6月11日に「緊急雇用対策及び産業競争力強化対策」を閣議決定した。これには、経団連提言の大部分が何らかの形で盛り込まれており、「会議」の最初の成果として評価できる。この対策の中で、緊急に対応すべき措置については、「産業活力再生特別措置法」として、今国会で成立を目指す運びとなっている。なお、上記の経団連の提言や政府の対策は、製造業に限らず、全産業に係る環境整備を目指した内容となっている。

      3. 「産業競争力会議」では、6月以降、第4回(6月3日)「技術開発の推進とインフラ整備のあり方」、第5回(7月5日)「中小企業の活性化、ベンチャー企業の育成など新産業・新事業創出」が討議された。
        今後、「会議」が取りあげるテーマには、高コスト構造の是正、将来のリーディング・インダストリーの育成、為替の安定化などの重要課題が残されており、これらをきちんと最後まで討議しつくしていくことが重要であると考えている。

    2. 金井副会長説明要旨
      1. 第4回(6月3日)の「産業競争力会議」で、産業技術力の強化に関して、私から、

        1. 民間企業の更なる自助努力、
        2. 産官学の連携強化の重要性ならびに産官学一体となった産業技術戦略の策定とそれらの科学技術基本計画への反映、
        3. 未来市場を開拓する重要分野における総理のリーダーシップによる共同プロジェクトの実施、
        4. 政府の役割として、複数年度にわたる予算の重点化と省庁横断的な取り組み、国有特許の民間開放や知的財産政策の積極的展開、
        5. 大学の研究・教育システムの改革と技術移転機関の活用などによる大学の研究開発成果の民間利用の促進、
        を指摘した。また、情報化の推進についても、情報インフラ整備の重要性、公的分野の情報化の一層の推進、情報リテラシー向上の重要性等を主張した。
        その結果、6月11日に決定された政府の「緊急雇用対策及び産業競争力強化対策」には、
        1. 国家産業技術戦略の策定と科学技術基本計画への反映、
        2. 未来産業創出のための官民共同プロジェクトの推進、
        3. 米国のバイドール法を参考にした国の委託研究開発成果の民間移転、
        などが盛り込まれた。

      2. このうち2.について、6月3日に開催された「産業競争力会議」の席上、総理から、具体的な提案を民間から出してほしいとの要請があった。そこで、経団連では、さる7月6日に、

        1. 産学官共同プロジェクト構想の推進、
        2. 生産性向上、競争力強化を促進する交通・物流インフラの重点的整備、
        の2本柱から成る「第2次提言」を取りまとめた。産学官共同プロジェクト構想については、情報化対応として、知識社会の構築を目指した「デジタル・ニューディール構想」、高齢化対応として、活力ある長寿社会の実現を目指した「ヘルシー&セーフ ソサイエティ構想」、環境対応として、経済と環境を両立させる社会の実現を目指した「エコ・ハーモニー構想」の3つを掲げている。これら構想の具体化のためには、省庁横断的に、かつ複数年度にわたり計画的に推進することが重要であり、そのような観点から、来年度予算編成にあたり、総理のリーダーシップにより、3つの構想を推進するための予算が優先的に配分される仕組みをつくることなどを訴えた。
        なお、第5回「産業競争力会議」(7月5日)では、総理から、「経団連の提案を基本として、いわば『ミレニアムプロジェクト』とも呼び得るように、官民挙げて求心力をもって取り組めるようなプロジェクトとし、その実現に向けて検討を進めていきたい」旨の発言があった。

  4. 懇談(要旨)
    1. 産業競争力会議メンバーの発言
      1. 瀬谷 旭硝子会長(経団連産業問題委員会共同委員長)から、高コスト構造是正、雇用問題などに関する産業問題委員会の取組みについて、
      2. 濱中 日本通運会長(経団連輸送委員会共同委員長)から、交通・物流インフラの整備など輸送委員会の活動について、
      3. 前田 前田建設工業会長から、品質向上の重要性について、
      4. 江頭 味の素社長から、官民一体となった取組みの重要性について、
      5. 高原 ユニ・チャーム社長(経団連新産業・新事業委員会共同委員長)から、新産業・新事業の創出に向けた国民の意識改革、人づくり等の重要性について、
      それぞれ発言があった。

    2. フロア発言
    3. 晝間 浜松ホトニクス社長から、「人類として未知未踏の分野を発掘・開拓し、わが国独自の産業を創出することが重要」との発言があった。


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