経団連くりっぷ No.110 (1999年10月14日)

産業問題委員会 第4回会合(共同委員長 瀬谷博道氏・西村正雄氏)/9月16日

産業競争力強化に向けた提言(案)を審議

−国民の豊かさを実現する雇用・労働分野の改革


産業問題委員会では、本年4月以降、産業競争力強化の観点から、中長期的課題として雇用・労働分野の改革問題を取り上げ、企業、政府、個人が取り組むべき課題について検討を進めてきたが、今般、提言(案)を巡り審議を行なった。なお当日は、提言(案)の審議に先立ち、小渕総理が主宰する産業競争力会議の活動と経団連の取組みについて報告を行なった。

  1. 産業競争力会議の活動と経団連の取組み
  2. 産業競争力会議は、生産性の向上による産業の競争力強化を目指し、官民が協力して、それぞれの役割分担に応じた総合的な検討を行ない、具体的な法制度改正等に結び付けるという特色をもつ。
    同会議は、本年3月以降、既に7回開催された。第1回会合では取り上げるべきテーマの選定が行われ、第2回は事業再構築及びこれに伴う雇用問題について、第3回は経団連の第1次提言などについて、第4回は技術開発とインフラ整備について、第5回は中小企業の活性化、ベンチャー企業の育成など新産業・新事業創出について、第6回は流通・サービス業の活性化、新産業・新事業の育成について、第7回は中小企業、ベンチャー、技術について議論が行なわれた。その結果、先の通常国会で成立した「産業活力再生特別措置法」や高齢化、情報化、環境の3つの課題に対応した、いわゆるミレミアム・プロジェクトの推進などが実現するとともに、秋の臨時国会に向け中小企業、ベンチャー振興施策のとりまとめを急ぐことが決定された。
    今後同会議では、高コスト構造の是正、将来のリーディング産業の育成、人材の育成、為替の安定化等が取り上げられる予定である。

  3. 提言(案)の概要
    1. 基本的認識
    2. 将来における国民の豊かさ・経済成長を確保するためには、産業競争力強化の観点から、雇用・労働分野の改革を進める必要がある。経済・産業構造の転換、国民の価値観の多様化、少子・高齢化の進展など内外の環境変化のなかで、これまで日本の強みとされてきた雇用・労働システムにも問題が顕在化しており、その再構築が迫られる状況になっている。具体的には、

      1. 労働市場の機能強化を通じた人材の適材適所の実現、
      2. 個人の職業能力の向上、
      3. 女性、高年齢層などに対する雇用機会の拡大、
      4. 個人・企業のニーズ・意向を適切に踏まえた行政の実現、
      の4点が重要であり、企業、個人、政府がそれぞれの役割を踏まえ、これらの課題の解決に向けて主体的に取り組んでいく必要がある。

    3. 具体的な提言
      1. 労働市場の機能強化を通じた人材の適材適所の実現を図る上では、まず第1に、職業紹介システムを再構築すべきである。民間事業者による労働市場の需給調整機能を最大限活用するため、有料職業紹介事業の取扱職業の拡大や求職者からの料金徴収に関する規制の見直しを行なう必要がある。第2に、人材移動の円滑化を図る観点から、企業年金制度に確定拠出型年金を導入することにより、転職時におけるポータビリティーを確保することが必要である。第3に、有期労働契約の対象範囲や裁量労働制の適用職種を大幅に拡大することによって、働き方の選択肢を広げるべきである。第4に、今後派遣形態での就労は、労働力供給の重要な役割を果たすことから、派遣形態に関する適用対象業務のネガティブリストを最小化するとともに、派遣期間の制限の運用緩和を行なうべきである。第5に、労働市場の機能を健全な形で強化していくためには、セーフティネットの中核的な役割を果たす雇用保険制度を再整備する必要がある。具体的には、求職者給付を就職支援の緊要度に応じて重点化すべきである。また、雇用調整助成金制度についても、産業構造の転換に対応した制度に見直す必要がある。

      2. 個人の職業能力の向上については、基本的に、個人の自助努力にかかっているが、今後の雇用形態、企業における能力開発、個人の職業意識等の変化を見据え、従来のように企業内のOJT、Off-JTだけでなく、個人の自己啓発を支援するような社会的システムを整備することも重要である。そのために、第1に、企業においてフレックスタイム制や長期休暇制度の普及を図るなど勤務時間面での配慮を行なう必要がある。第2に、助成金制度、奨学金制度、税制上の配慮、あるいはバウチャー制の導入等を行なうことにより、費用負担の軽減を図る必要がある。第3に、職業能力の評価・分析システムの開発・定着等を図る必要がある。第4に、産業のニーズに合致した教育サービスを提供するために、競争原理の導入により、大学等高等教育機関の教育サービスの質を向上させるべきである。

      3. 女性、高年齢層などに対する雇用機会の拡大に関しては、まず女性について、所得税の配偶者控除、公的年金制度における基礎年金部分の財源、企業の配偶者手当、家族手当等のあり方を検討すべきである。高年齢層については、派遣形態など多様な就労形態の選択肢を提供すべきである。また外国人の取り扱いに関しては、年金、教育、医療制度の改革等により、国際的な人材移動を促進するための環境整備を進めるとともに、外国人研修制度の運用緩和などを図る必要がある。

      4. 以上のような個人・企業のニーズ・意向を適切に踏まえ、行政サイドは、今後の雇用・労働政策をプログラム化し、速やかに実施するとともに、情勢の変化に伴って機動的な見直しを行なっていく必要がある。

    なお、本提言(案)は、10月の会長副会長会議、および理事会に諮ることになる。


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