経団連くりっぷ No.122 (2000年4月13日)

「次期WTO交渉の課題〜サービス貿易自由化交渉を中心に〜」を建議


昨年12月のWTOシアトル閣僚会議の交渉決裂により、新ラウンド交渉の立ち上げに向けた議論の行方は不透明な状況が続いている。他方、サービス貿易の自由化交渉については、ウルグアイ・ラウンド交渉時の合意に従い、本年2月から開始され、今後次第に本格化していくことが予想される。そこで、包括的な新ラウンド交渉の早期開始の必要性を訴えるとともに、サービス交渉に対する具体的な要望をわが国政府に伝えるべく、貿易投資委員会(委員長:槙原 稔氏)では標記提言をとりまとめ、政府・与党等関係方面に建議した。以下はその概要である。

  1. 新ラウンド交渉の早期実現を求める
  2. 昨年のシアトル閣僚会議において、日本の産業界が強く期待していた包括的な新ラウンド交渉が実現しなかったことは残念である。しかし、各国内の保護貿易主義の圧力に屈し、自由化へのモメンタムを失うべきではない。政府、産業界は新ラウンド交渉の早期実現に向けて強力なイニシアティブを発揮する必要がある。

  3. 途上国のWTO体制への信頼確保を
  4. 新ラウンド交渉を推進していくうえで、発展途上国のWTO体制への信頼確保が不可欠である。そこで、

    1. 後発開発途上国産品に対する無関税化等を通じた先進国市場の開放、
    2. 多くの途上国が求めているアンチダンピング協定の見直し、
    3. 労働基準を口実とする輸入制限の排除、
    といった対途上国配慮が必要である。他方、シアトル閣僚会議で議論が中断されている貿易関連投資措置(TRIMs)協定等の途上国に対する経過措置期間については、安易な延長を認めるのではなく、個別の審査に委ねるべきである。
    シアトル閣僚会議を受けて検討課題となっているWTOの意思決定方式の改革については、効率性と透明性の観点からの見直しは必要であるが、抜本的改革に時間を費やし、新ラウンド交渉の立ち上げを遅らせるべきではない。

  5. サービス交渉は新ラウンドの一環に
  6. わが国産業界は、サービス交渉の開始を歓迎する。サービス交渉を前進させるためにも、早期に新ラウンドを立ち上げ、サービス交渉をこの中に包含していく必要がある。次期WTO交渉がサービス交渉等の合意済み課題のみに限定されることには反対する。
    サービス交渉を通じ、外国企業に対する差別的な規制(外資出資比率の制限、役員等の居住要件、国外への送金規制、技術移転等のパフォーマンス要求、資材・サービスの国内調達義務等)が取り除かれること、加盟国のサービス関連諸制度の透明性が向上することを強く希望する。
    さらに、サービス交渉では、

    1. 各国が電子商取引の促進を目指し、積極的な自由化約束を行なうこと、
    2. 多くの国が行なっている最恵国待遇(MFN)義務の免除を撤廃していくこと、
    などが必要である。
    サービスに関する国内規制に対する規律の強化も重要課題である。各国における規制導入時等の事前申し立て手続(いわゆるパブリック・コメント制度)の整備、法制度・手続に関する不公正な取扱いに関する苦情窓口の設置、わが国の行政手続き法的なルール導入の奨励等が考えられる。

  7. サービス業種別の要望
  8. 通  信
    1997年の基本電気通信合意の結果、多くの国で自由化の原則が確立したことを評価する。残された課題として、同合意への参加国の拡大や、約束内容の明確化等が必要である。

    オーディオ・ビジュアル
    社会的・文化的問題に配慮しながらも、自由な国際取引が阻害されることのないように自由化を進めることが重要である。

    建  設
    海外での拠点設置上の障害や地元企業優先政策の改善が必要である。

    流  通
    途上国における外資参入制限の撤廃や欧米での国や地方政府による商業調整的な出店規制等の緩和が必要である。

    金融 (銀行・損害保険・生命保険・証券)
    海外市場における、(1)規制の透明性向上、(2)免許基準の改善、(3)外資出資比率の制限、支店・子会社設立制限等の制度上の制限の縮小などの進展を期待する。

    海上運送
    現在、サービス協定の対象外となっているが、WTO交渉の対象とし、自由化を進めるべきである。

    航空運送
    「航空運送に関する附属書」の見直しを先ず行なう必要がある。

    エネルギー
    未だ確定していないエネルギー・サービスの定義を先ず明確化したうえで、公益的課題を考慮しつつ交渉項目を検討する必要がある。

  9. わが国市場にも規制改革の実現が必要
  10. サービス交渉は、わが国サービス市場の自由化を促す好機でもある。特に、環境、医療、流通の各分野について新規参入を促すような規制改革が実現される必要がある。


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