経団連くりっぷ No.123 (2000年4月27日)

経団連意見書/4月18日

「自立自助を基本とした地方財政の実現に向けて」を建議


地方公共団体の財政は、歳出ベースで国の約1.5倍の規模に及ぶが、近年の税収の落ち込みにもかかわらず、歳出抑制が進んでいないことから、その収支が悪化しており、地方の借入残高は、2000年度末で187兆円に上ることが見込まれている。財政制度委員会(委員長 伊藤助成氏)では、これまで公共事業、社会保障等の分野毎の検討を行なってきたが、こうした地方財政の現状を踏まえ、あるべき地方財政の姿について検討を行ない、標記意見書を4月18日の理事会の承認を得て、政府・与党等関係方面に建議した。以下はその概要である。

  1. 地方財政の抱える問題
    1. 地方公共団体の財政収支の悪化
    2. 地方税収は低迷しているが、歳出は景気対策として公共事業が拡大されたこと等もあって拡大を続けている。この結果、2000年度の地方債発行額は11兆円、2000年度末の地方借入金残高は187兆円に達する。

    3. 国の財政による負担の拡大
    4. 2000年度末には38兆円に達する交付税特別会計の借入金の償還の一部は国が負担し、地方債償還の相当部分も国が地方交付税交付金で負担せざるをえず、国の歳出の一層の硬直化は避け難い。

    5. 負担と給付の地域格差
    6. 負担と給付の関係の地域格差も深刻であり、地方税収に対する歳出の比率は、都道府県レベルでは、最大と最小の間で約6倍の差が見られる。

  2. 問題発生の構造的要因
    1. 経済社会の実態から乖離した地方行政体制
    2. 地方公共団体が細分化されているため、歳出について効率化・合理化が進まず、歳入も不安定となる傾向が指摘されてきた。また、経済社会の実態と地方行政体制の乖離が住民の帰属意識を一層希薄にし、住民によるチェックとコントロールを弱体化させている。

    3. 国から地方公共団体への財政配分
    4. 国から地方公共団体に対し行なわれている財政配分が、地方公共団体における受益と負担の対応関係を不明確にし、歳出の膨張を招いている。

    5. 財源調整
    6. 国から地方への財政配分の過程で、財源の地域偏在の是正が行われているが、これが、一部の地方公共団体について負担と受益の対応関係をさらに不明確にし、財政規律を一層弛緩させている。地方交付税は、いわば差額補填的な補助金であるため、地方公共団体の財源涵養意欲を減殺している。

  3. 地方分権改革の動きとその問題点
    1. 地方分権改革の動き
    2. 地方分権改革は、地方公共団体の事務を法定受託事務と自治事務に区分しており、行政責任の所在を明確にするものとして評価できる。しかし、以下の問題点がある。

    3. 地方分権改革の問題点
      1. 受皿論の検討の回避
        地方公共団体の再編成については、検討されていない。

      2. 国と地方を通じた行政改革という視点の欠如
        国と地方を通じた行政事務総体は縮減されていない。

      3. 国と地方を通じた財政構造改革という視点の欠如
        地方分権改革も国と地方を通じた財政構造改革と表裏一体のものとして推進していく必要があるが、この点についてのコンセンサスは未だ形成されていない。

  4. 地方財政改革の目標と基本的考え方
  5. 地方財政改革は、以下の基本的考え方に立って改革を推進すべきである。

    1. 住民によるチェックとコントロールを強化し、歳出の効率化・合理化を推進するとともに、歳入の安定化を図り、さらに人材を確保する観点から、地方公共団体を経済社会の実態に即して大括りに再編する。

    2. 国と地方の役割分担を徹底する観点から、国と地方との事務区分に対応した国と地方との経費負担の区分を確立する(現在の事務区分は、再見直し)。

    3. 自治事務の経費は、地方公共団体が負担するものとし、財源については、普遍性・安定性を有し、住民個々人が主たる担税者である税を基本とする。
      法定受託事務の経費は、新たな国庫委託金により国が負担するものとし、地方交付税交付金等は廃止する。

    4. 財源調整を最小限とし、負担と受益の対応関係の一層の明確化を図るとともに、地方公共団体が、税財政上の措置や地方分権を活用した規制緩和等を通じ、定住人口の拡大、企業誘致、観光資源の涵養等をめぐって競争できる環境を整備する。

  6. 地方財政改革の方向
    1. 地方公共団体の再編
      1. 現行の合併特例法・市町村合併推進補助金等に替わる新たな立法措置により、地方公共団体の再編を強力に推進する。
      2. 併せて、基礎的自治体の連合体としての道州制の導入について検討を進める。

    2. 財政制度改革
      1. 会計システム改革とこれを通じた歳出構造改革

        1. 国と地方との事務区分に対応し、地方公共団体の会計においてもそれぞれの歳入・歳出を別の勘定に分計する。
        2. 両勘定間の相互内部補助は原則として禁止する。
        3. 政策評価システムの充実を図るとともに、財政状況等について、住民に対する情報開示を徹底する。
        4. 地方経営指標・財政健全化目標等を開発・活用する。
        5. 財政状態が極端に悪化し、今後も改善が見込めない地方公共団体について、国が早期に財政健全化を促す仕組みを確立する。

      2. 歳入構造改革

        1. 自治事務の経費

          1. 地方公共団体が負担する。
          2. 税源は、個人住民税、居住用資産に係る固定資産税を基本とする。個人住民税については、国と地方を通じた財政構造改革の中で、充実を検討する。
          3. 地方税収の安定化の観点から、税体系の抜本改革の一環として、地方消費税の拡充を行う。
          4. 地方法人課税については簡素化を図るとともに、制限税率の引下げを検討する。
          5. 地方債については、自主財源による元利償還計画の作成、減債資金の積立、市場条件での発行を条件に、許可制を見直す。

        2. 法定受託事務の経費

          1. 新たな国庫委託金により国が負担する。
          2. 地方交付税交付金及び現行の国庫支出金等は廃止する。

    3. 財源調整の縮減
    4. 極端に税源に乏しい地方公共団体に限定し、新たな国庫支出金により財源調整を実施する。道州制導入の場合は、当該道州域内の基礎的自治体の共同税により実施する。

  7. 地方財政改革実現に向けた当面の課題
  8. 地方財政改革のあり方についてコンセンサスの形成を急ぐとともに、地方財政改革の道筋・スケジュールを明確化するため、国と地方を通じた財政構造改革のプログラムを企画・立案し、その実施状況を監視する推進機関のあり方についても検討する必要がある。
    当面は、以下のような施策の実施を急ぐべきである。

    1. 規制緩和、事務事業の廃止・縮小統合・簡素化、民間委託の推進、定員・給与の適正化等の地方行政改革の徹底
    2. 経営感覚に優れた民間の人材の職員への登用促進
    3. 公共事業の効率化・重点化の推進
    4. 地方単独補助金の廃止・整理合理化、資産売却等の財政健全化努力の推進
    5. 会計システム改革関連
      1. 地方自治体の決算の迅速化
      2. 企業会計的手法の導入と情報開示の徹底
      3. 事業毎の政策コスト分析・政策評価システム等の導入
      4. 地方経営指標・財政健全化目標等の開発・活用
      5. 外部監査制度の活用
    6. 地方交付税交付金の算定基準の見直し、国庫支出金等の縮減・廃止
    7. 法人事業税の法人住民税への一本化。既存の外形課税(法人住民税均等割、事業用土地・建物・償却資産に対する固定資産税、都市計画税、事業所税等)を含む応益課税の見直し


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