[経団連] [意見書]

自立自助を基本とした地方財政の実現に向けて

2000年4月18日
(社)経済団体連合会

  1. 地方財政の抱える問題
    1. 地方公共団体の財政収支の悪化
    2. 地方公共団体の財政収支の悪化は著しい。地方税収は経済の長期停滞により低迷しているが、歳出は景気対策として公共事業が拡大されたこと等もあって拡大を続けている。93年度の水準を100とすると、2000年度の地方税収は101にとどまっているのに対し、歳出は116にまで膨張している。この結果、2000年度の地方債発行額は11兆円、2000年度末の地方借入金残高は187兆円に達する。
      しかも、過去に発行した地方債の償還や高齢化の進行により、歳出圧力は今後も増大する見通しである。

    3. 国の財政による負担の拡大
    4. 地方財政収支の悪化は、国の財政に深刻な影響を及ぼしている。2000年度末には38兆円に達する交付税特別会計の借入金の償還の一部は、国が負担する。地方債償還の相当部分も、国が地方交付税交付金で負担せざるをえず、国の歳出の一層の硬直化は避け難い。
      国と地方の長期債務残高合計は、2000年度末で645兆円、対GDP比129.3%となっており、わが国財政は危機的状況にある。

    5. 負担と給付の地域格差
    6. 負担と給付の地域格差も深刻である。住民一人当たりの地方税収は大都市圏が地方圏を大きく上回っているが、一人当たりの歳出は大都市圏が地方圏を下回っている。地方税収に対する歳出の比率は、都道府県レベルでは、最大と最小の間で約6倍の差が見られる。

  2. 問題発生の構造的要因
    1. 経済社会の実態から乖離した地方行政体制
    2. これらの問題が発生する構造的要因の一つとして、地方行政体制の規模の問題が挙げられる。
      予ねてより、地方公共団体が細分化されているため、歳出について規模の経済性が図れず、効率化・合理化が進まないだけでなく、歳入も不安定となる傾向が指摘されてきた。
      物流・人流の範囲拡大や近年の情報化・ネットワーク化の飛躍的な進展に伴い、社会生活・経済活動が広域化しているにもかかわらず、地方公共団体の合併は進捗せず、経済社会の実態と地方行政体制の乖離が拡大してきている。そもそも住民自治意識が根づいていると言い難い風土の中で、両者の乖離の進行は、住民の地方公共団体への帰属意識を一層希薄にし、住民による地方公共団体に対するチェックとコントロールを弱体化させている。

    3. 国から地方公共団体への財政配分
    4. 国と地方公共団体との財政的関係も、地方財政収支の悪化の一因である。国と地方公共団体の歳出の比率は2対3であるのに対し、税収は3対2であり、国から地方公共団体へ、地方交付税交付金、国庫支出金等として財政配分が行なわれている。このことが、地方公共団体における受益と負担の対応関係を不明確とし、歳出の構造的な膨張を招いている。

    5. 財源調整
    6. 国から地方への財政配分の過程で、地方交付税交付金により、財源の地域偏在の是正が行われている。国庫支出金等も同様の効果をもたらしている。財源調整は、一部の地方公共団体について負担と受益の対応関係をさらに不明確とし、財政規律を一層弛緩させている。
      また、地方交付税は、いわば差額補填的な補助金であるため、地方公共団体の地域振興等を通じた財源涵養意欲を減殺している。

  3. 地方分権改革の動きとその問題点
    1. 地方分権改革の動き
    2. こうした中、地方分権推進法・地方分権一括法の制定、2次にわたる地方分権推進計画の決定等、地方分権に向けた取り組みが加速化している。
      地方分権改革は、地方公共団体の事務を、国の委託により地方公共団体が処理する法定受託事務(国政選挙、旅券の交付、国道の管理等)とそれ以外の自治事務(都市計画の決定、飲食店営業の許可、病院・薬局の開設許可等)に区分し、行政責任の所在を明確にするものとして評価できる。

    3. 地方分権改革の問題点
    4. しかし、地方分権改革について、以下のような問題点も指摘せざるをえない。

      1. 受皿論の検討の回避
        経済社会の変化に対応した、自立可能かつ効率的な組織実現に向けた、地方公共団体の再編成については、検討されていない。

      2. 国と地方を通じた行政改革という視点の欠如
        今回の改革においては、経費負担についての検討を先送りしたため、国と地方公共団体との間の事務権限の帰属をめぐる争いに終始した。この結果、国と地方を通じた行政事務総体は縮減されていない。

      3. 国と地方を通じた財政構造改革という視点の欠如
        国から地方への権限委譲を進める以上、地方公共団体の税財源の拡充が必要との議論が先行している。しかし、わが国財政は危機的状況にあり、地方分権改革も国と地方を通じた財政構造改革と表裏一体のものとして推進していく必要がある。したがって、住民のチェックとコントロールを最大限活用して、歳出・歳入両面の構造改革を図ることが強く求められているにもかかわらず、この点についてのコンセンサスは未だ形成されていない。

  4. 地方財政改革の目標と基本的考え方
  5. 地方財政改革の目標は、

    1. 財政構造改革の推進を基本とした国と地方の財政的関係の見直し、
    2. 歳出の効率化・合理化と安定的な歳入確保を可能とする財政的枠組みの確立、
    3. 住民の選択と自発的な負担によって、特色ある地域づくり、地方振興等を図れる自由度の確保、
    である。これらの目標を達成するため、以下の基本的考え方に立って改革を推進すべきである。

    1. 住民によるチェックとコントロールを強化し、歳出の効率化・合理化を推進するとともに、歳入の安定化を図り、さらに人材を確保する観点から、地方公共団体を経済社会の実態に即して大括りに再編する。
    2. 国と地方の役割分担を徹底する観点から、国と地方との事務区分に対応した国と地方との経費負担の区分を確立する。
      現在の事務区分は、経費負担のあり方の検討を先送りしたまま行われており、地方公共団体の再編、経費負担の区分確立等に伴い、再見直しは不可欠である。
    3. 自治事務の経費は、地方公共団体が負担するものとし、自治事務の負担と受益について、住民による選択を可能とする。財源については、普遍性・安定性を有し、住民個々人が主たる担税者である税を基本とする。
      法定受託事務の経費は、新たな国庫委託金により国が負担するものとし、構造的な歳出膨張の誘因となっている地方交付税交付金等は廃止する。
    4. 財源調整を最小限とし、負担と受益の対応関係の一層の明確化を図るとともに、地方公共団体が、税財政上の措置や地方分権を活用した規制緩和等を通じ、定住人口の拡大、企業誘致、観光資源の涵養等をめぐって競争できる環境を整備する。

  6. 地方財政改革の方向
    1. 地方公共団体の再編
      1. 基礎的自治体が地方行政を担うこととし、基礎的自治体を大括りに再編する。そのため、現行の合併特例法・市町村合併推進補助金等に替わる新たな立法措置により、地方公共団体の再編を強力に推進する。
      2. 併せて、基礎的自治体の連合体としての道州制の導入について検討を進める。

    2. 財政制度改革
      1. 会計システム改革とこれを通じた歳出構造改革

        1. 国と地方との事務区分に対応し、地方公共団体の会計においてもそれぞれの歳入・歳出を別の勘定に分計する。
        2. 両勘定間の相互内部補助は原則として禁止する。
        3. 政策評価システムの充実を図るとともに、財政状況、収支見通しについて、住民に対する情報開示を徹底する。
        4. 上記を前提とした地方経営指標・財政健全化目標等を開発・活用する。
        5. 財政状態が極端に悪化し、今後も改善が見込めない地方公共団体について、国が早期に財政健全化を促す仕組みを確立する。

      2. 歳入構造改革

        1. 自治事務の経費
          1. 地方公共団体が負担する。
          2. 税源は、個人住民税、居住用資産に係る固定資産税を基本とする。個人住民税については、国と地方を通じた財政構造改革の中で、充実を検討する。
          3. 地方税収の安定化の観点から、税体系の抜本改革の一環として、地方消費税の拡充を行う。
          4. 地方法人課税については簡素化を図るとともに、制限税率の引下げを検討する。
          5. 地方債については、自主財源による元利償還計画の作成、減債資金の積立、市場条件での発行を条件に、許可制を見直す。

        2. 法定受託事務の経費
          1. 新たな国庫委託金により国が負担する。
          2. 地方交付税交付金及び現行の国庫支出金等は廃止する。

    3. 財源調整の縮減
    4. 財源調整については、極端に税源に乏しい地方公共団体に限定し、新たな国庫支出金により実施する。道州制導入の場合は、当該道州域内の基礎的自治体の共同税により実施する。

  7. 地方財政改革実現に向けた当面の課題
  8. 以上述べてきたことは、あるべき姿の一つである。
    国と地方を通じた財政構造改革を推進する観点から、この提言も踏まえ、地方財政改革のあり方についてコンセンサスの形成を急ぐとともに、既に交付税特別会計に発生している巨額の借入金の処理や既発の地方債の償還も含め、地方財政改革の道筋・スケジュールを明確化することが強く望まれる。そのため、国と地方を通じた財政構造改革のプログラムを企画・立案し、その実施状況を監視する推進機関のあり方についても検討する必要がある。
    当面は、以下のような施策の実施を急ぐべきである。

    1. 規制緩和をはじめ事務事業の廃止・縮小・統合・簡素化、民間委託の推進、定員・給与の適正化等の地方行政改革の徹底
    2. 経営感覚に優れた民間の人材の地方公共団体職員への登用促進
    3. 公共事業の効率化・重点化の推進
      (詳細は経団連意見書「豊かさと活力を生むための社会資本整備を」98年1月を参照)
    4. 地方単独補助金の廃止・整理合理化、資産売却等の財政健全化努力の推進
    5. 会計システム改革関連
      1. 地方自治体の決算の迅速化
      2. 公営企業等との連結財務諸表作成も含めた企業会計的手法の導入と情報開示の徹底
      3. 将来の人件費・減価償却費等も視野に入れた事業毎の政策コスト分析・政策評価システム等の導入
      4. 地方経営指標・財政健全化目標等の開発・活用
      5. 外部監査制度の活用
    6. 新たな国庫委託金実現と地方交付税交付金廃止に向けた、地方交付税交付金の算定基準の見直し、国庫支出金等の縮減・廃止
    7. 法人事業税の法人住民税への一本化。地方法人課税全体の改革の一環として、既存の外形課税(法人住民税均等割、事業用土地・建物・償却資産に対する固定資産税、都市計画税、事業所税等)を含む応益課税の見直し

以 上

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