経団連くりっぷ No.125 (2000年5月25日)

産業問題委員会(共同委員長 瀬谷博道氏・西村正雄氏)/5月10日

今後の経済−産業の課題をめぐり討議


産業競争力の強化に向け活動を行なっている産業問題委員会では、5月10日会合を開催し、東京大学大学院経済学研究科の西村清彦教授より、「日本経済−産業の課題」というテーマで説明をきくとともに、「需要と供給の新しい好循環に向けた提言−21世紀型リーディング産業・分野の創出−」(案)を審議した。

  1. 西村教授説明要旨
    1. 傾向的な生産性の低迷
    2. 戦後、日本の産業は、費用を削減しつつ、品質を向上させるという「プロセスの最適化」により成功をおさめた。こうした産業・企業の活動は、全般的に資源は不足しているが、安価で資質の高い人的資源を豊富に有するという特徴を持つ日本の市場環境に適していた。しかし、日本の産業は、自らの成功により高賃金化を招くなど、産業を成功に導いた環境を崩してしまった。これには、冷戦の終結による旧共産主義国の市場参入も少なからぬ影響を及ぼした。このため、日本の労働生産性は、製造業、非製造業を問わず、1970年代以降、低下した。
      こうした中、日本企業は間接部門の合理化などによる高コスト構造に対処しつつ、「組み合わせの最適化」へ軸足を移すことに取り組んだ。その進展の度合いは緩慢ではあるが、着実なものといえる。

    3. インターネット経済の曲がり角
    4. ITの発展とネットワーク化は、日本の産業に大きなインパクトを及ぼすものとみている。しかし、インターネット経済化も、今後は質的な変化を余儀なくされるであろう。それは、インターネット経済が、製品の日用品化を進め、企業が付加価値を高めることを困難にさせるからである。適切な利潤を確保できない経済では、技術革新が停滞する惧れがある。インターネット経済が今後発展するためには、乗り越えなければならない壁がいくつか存在する。例えば、インターネットは匿名であるために、警察権力が及びにくいという問題がある。携帯電話や自動車のように、端末などに背番号を付ければ、そうした問題を克服することが可能となろう。

    5. 「モノ−アナログ」の復権
    6. ヴァーチャルな世界には限界がある。人間の頭脳・神経はデジタルだが、感覚はアナログであり、最終的には「モノ」が生産され、消費されなければならない。単なる日用品ではない「モノ」を創出することが大事である。したがって、インターネット経済においては、「モノ」復権が、日本の産業活動の活性化の重要な鍵を握ることになる。

  2. 「需要と供給の新しい好循環に向けた提言」(案)を審議
  3. ワーキンググループ(座長:雨宮肇旭硝子常務取締役)がとりまとめた「需要と供給の新しい好循環に向けた提言」(案)について審議を行ない、了承を得た。(5月16日の理事会の承認を得て公表した。)


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