経団連くりっぷ No.125 (2000年5月25日)

経済政策委員会(委員長 櫻井孝頴氏)/5月12日

日本経済の展望と課題

−堺屋経済企画庁長官よりきく


経済政策委員会では、経済企画庁の堺屋太一長官を招き、今後の日本経済の展望と課題について説明をきいた。併せて、意見書「少子高齢化に対応した新たな成長戦略の確立に向けて」(案)の審議を行なった(提言概要は6ページ参照)。

○ 堺屋長官説明要旨

  1. 私が1998年に経企庁長官に就任した時点で、日本経済は「三重の不況」に陥っていた。第1は短期的な循環要因、第2はバブルの後遺症、そして第3は1980年代に完成した規格大量生産社会が実態になじまなくなったこと、いわば「パラダイム・チェンジ不況」であった。こうしたなかで小渕政権は、まずデフレスパイラルを食い止めることに尽力した。当時、1999年度のプラス成長を予想した人は皆無に等しかったが、各種の政策努力もあって、現実は政府見通し(プラス0.6%)に近い姿になったとみられる。

  2. この間、政府は景気回復への取り組みに加えて、金融改革、中小企業基本法の抜本改正、消費者契約法の制定などの構造改革を着実に進めてきた。
    また財政面では、1999年度までは即効性最重視の予算編成を行なったが、2000年度予算は未来志向としており、その一環でミレニアム・プロジェクトも推進している。

  3. 今後の課題としては、第1にIT革命の推進が挙げられる。現在IT分野では米国に遅れをとっているが、日本は移動性機器の分野に優位性を持っており、日米再逆転の可能性は十分にある。その際に重要となるのはコンテンツ(情報の中身)である。2001年に開催するインターネット博覧会は、コンテンツ開発を促進するものと考える。

  4. 第2の課題は、少子高齢化への対応である。今後は「高齢者」の概念を変えて、70歳まで働くことを選択できる社会を作り、労働力比率を一定に保っていかねばならない。外国人の活用も考える必要がある。

  5. 第3の課題は、環境問題への対応である。廃棄→再生→利用を促進する静脈産業を商業ベースに乗せ、循環型社会を完成させる必要がある。

  6. 地域のあり方も変える必要がある。現在は住宅地と商・工業用地が都市計画で区分されているケースが多いが、こうした都市設計は社会主義的発想に基づくものである。現在、ミレニアム・プロジェクトの1つとして「歩いて暮らせる街づくり構想」を推進している。

  7. 国・地方合計で約645兆円の長期債務を抱えているが、経済が良くならなければ財政再建はありえず、経済健全化を優先させるべきだ。経済が立ち直れば、必ず財政再建は達成できる。米国が財政黒字に転換するとは10年前は誰も予想しなかったが、経済健全化によって黒字転換を達成できた。
    現在は、経済の安定飛行に向けてエンジンを開いている状態であり、安定状態に入った段階で、これまでの規格大量生産社会からの脱却を図る必要がある。


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