宇宙開発利用推進会議(会長 谷口一郎氏)/6月16日
宇宙開発利用推進会議では、科学技術庁の池田要研究開発局長を招き、昨年のH−IIロケット8号機の打上げ失敗を受け、失敗の再発防止のための改革方策を検討するために設置された宇宙開発委員会の「特別会合」が今般とりまとめた報告書の概要と、今後の対応等について説明をきくとともに懇談した。当日は、併せて意見書「経団連宇宙政策ビジョン/わが国宇宙開発・利用体制の改革と宇宙利用フロンティアの拡大」(案)の審議を行なった。(提言概要は6頁参照)
宇宙開発委員会では、1994年の技術試験衛星「きく6号」以降の一連の宇宙開発事業の事故・トラブルに対して、具体的な対策を検討してきた。その中で、昨年11月、H−IIロケットの打上げに失敗したことから、宇宙開発委員会では、事故原因の技術面での調査と並行して、昨年12月、「特別会合」を設置し、宇宙開発の信頼性向上とわが国宇宙開発体制の建て直しに向けた検討を行なってきた。特別会合では、5月16日に最終取りまとめ、同18日に宇宙開発委員会への報告を行なった。
技術評価部会の調査によれば、H−IIロケット8号機の第1段エンジンが、打上げ後に本来約6分燃焼すべきところ、4分で急停止している。この原因について、3,000メートルの海底から回収した第1段エンジンの分解調査により、液体水素燃料をエンジンに送るターボポンプの羽根車が疲労破壊したことが判明した。
この疲労破壊を引き起こした原因は、単独では事故原因となり得ない複数の要因が重なり異常な共振が発生したことで、羽根車に大きな力が加わったことにあり、予測することができなかった。したがって、個々の部品を組み合わせた時のインターフェイス調整技術に問題があった。
この問題点は、打上げに成功してきた従来機も内包していたのだが、このような問題点を見極める体制があれば、失敗に至らなかった可能性があった。
このような問題の背景には、宇宙開発事業団とメーカーの役割分担のあり方が指摘できる。
従来、事業団が複数のメーカーに製造させた部品を取りまとめてきたが、事業の高度化・大規模化・複雑化に伴い、事業団がメーカー間のインターフェース調整を行なう役割を十分果たせない傾向にあった。他方、企業は技術力を向上させてきた。
報告書は、改革方策の第1として、事業団とメーカーの役割・責任関係について、プライム契約を促進し、メーカー責任の明確化を図る必要があるとしている。
第2の改革方策は、製造現場における品質保証責任の明確化である。実際には、設計から施工まで、メーカーの役割が大きい。したがって、メーカーに品質保証に責任ある体制を求めるとともに、事業団の審査・検査体制を強化すべきとしている。
また、作業者の技能に関わらない製造安定化のための高度情報化、自動化等の促進、試験機打上げ後の信頼性向上活動の継続・強化等の必要性を指摘している。
第3に、宇宙開発事業団の改革として、(1)航空宇宙技術研究所、宇宙科学研究所等の研究機関、研究者等との連携・協力強化により、エンジン技術の中核研究開発体制を整備、(2)品質保証部門の機能強化と品質保証活動の強化、(3)技術基盤の確立と確実な開発のための体制強化、(4)情報技術を活用した開発手法とそれを支える情報インフラの整備等による高度情報化の推進、等を挙げている。
第4に、宇宙開発委員会については、宇宙開発プログラムの重点化、戦略化の検討および事前の技術評価等の活動を強化すべきとしている。省庁再編後の宇宙開発委員会については、事業団の仕事を第三者的にチェックする機能を期待している。
今年2月、宇宙科学研究所のM−Vロケットの打上げも失敗した。宇宙輸送系の開発について、宇宙関係機関が一体的な運用を行える体制が必要であることから、2月、宇宙開発事業団、宇宙科学研究所および航空宇宙技術研究所の3機関の長、科学技術庁および文部省の担当局長が参加した5者の協議会を発足し、3機関の連携・協力の強化策について検討している。
特別会合の報告書取りまとめにより、宇宙開発体制の建て直し作業は終え、今後、中長期的な宇宙開発の基本戦略について検討するため、宇宙開発委員会に「基本戦略部会」を設置する予定である。6月20日に第1回会合を開催し、年内を目途に基本的な方向性について取りまとめたい。国と産業界の役割分担等も重要な論点であり、同会合に産業界の積極的なご協力を願いたい。
今後のH−IIAロケットの打上げ計画としては、本年度は、来年2月、試験機1号機を打上げ予定である。同機には、欧州が1,000億円をかけた先端型データ中継技術衛星(ARTEMIS)を搭載予定であり、しっかりと打ち上げたい。また、2001年度は、試験機2号機をミッション実証衛星を搭載して打ち上げ、秋にも環境観測技術衛星(ADEOS−II)を打ち上げる。2002年度は、陸域観測技術衛星(ALOS)、データ中継技術衛星等他、情報収集衛星をそれぞれ打ち上げ、以降、各年度、3機以上を打ち上げる体制となる。