経団連くりっぷ No.148 (2001年5月24日)

経団連意見書/5月22日

「地域における産業集積戦略のあり方」をとりまとめ


経団連では、4月25日、産業問題委員会(共同委員長:瀬谷博道氏・西村正雄氏)を開催し、堀場製作所の堀場雅夫会長より「21世紀地域活性化戦略」と題して説明を受けるとともに懇談した。さらに本講演等を踏まえ、地域において産業をいかに集積させ、雇用創出に結びつけていくかという観点から、標記提言をとりまとめ、5月22日の理事会における議を経て、政府、与党、地方自治体、大学関係者等に建議した。以下は提言の概要である。

  1. 総 論
  2. 今日、国内各地域においては、三つの不足、すなわち、立地競争力の不足、人材の不足、コーディネート機能の不足が顕在化している。それらを是正するためには、これまでの公共事業を中心としたハードウエア中心の施策からソフトウエア、ヒューマンウエア中心の施策への転換、地域の企業が市場に接近しニーズをとらえ製品化する力を伸ばす戦略・施策策定・実施への転換、そして地方自治体、大学関係者、企業経営者のマインドの転換という三つの転換が必要である。そうしたなかで地方自治体は、自ら立案した戦略・施策をもとに、持てる資源を集中的に投入し、地域の特性を活かした産業集積メカニズムを作り上げることが求められる。さらに、国は、これまでの全国一律的な産業立地政策を改め、地域間競争の激化を踏まえ地域経済産業政策の再構築を図りつつ、世界に通用する企業の育成とその集積、それらを通じた雇用の創出等のための施策を実施することが求められる。

  3. 各 論
    1. 国の地域経済産業政策の見直しと地域による戦略・施策の策定
      1. 国は、地域経済産業政策の再構築を図り、施策を重点的・集中的に実施すべきである。
      2. 地方自治体は、市町村合併等を通じて広域行政化を図るべきである。
      3. 地方自治体は、地域特性に応じた戦略・施策の策定・推進とその裏付けとなる条例の制定を積極的に行うべきである。また、企業の立地、事業に関わる諸手続きを1カ所で対応、処理するワンストップサービスの体制を整備すべきである。

    2. 創業、新規設備投資・事業創出の促進
      1. 地方自治体は、産業創出、企業誘致に資する魅力ある独自の税制を確立すべきである。国も、先進的でかつ新規雇用の増加や技術集積の効果が期待できる地域プロジェクトに関連する民間の設備投資を対象に、投資税額控除、投資助成策を実施すべきである。
      2. 国は、産業振興・支援を目的としたNPOの設立が行えるようにすべきである。
      3. 国は、公益法人の企業に対する出資、寄附を認めるとともに、日本版SBIR制度(中小企業技術革新制度)の拡充を図るべきである。

    3. 地域に密着した産業・分野の創出・集積
      1. 地域において需要が満たされる新たな産業集積モデルの1つとして、医療関連産業を位置付け、医療機関が行う情報化投資のコストを反映できる仕組みを導入すべきである。また、特定機能病院については、症例集中を行い、先進的な医療技術の開発・提供や人材の育成を行う使命を明確にすべきである。
      2. 環境関連産業も地域において、今後成長が見込まれる分野であり、世界をリードする先進的な再資源化技術の開発を行うとともに、地方自治体の広域連携による資源循環ネットワークの構築を通じて、効率的な資源循環メカニズムを構築することが必要である。
      3. 地方自治体は、世界レベルの高速大容量の通信環境などを整備すべきである。

    4. 地域における大学等の研究開発機能の活性化
      1. 大学の自主性、大学間の競争を促進する方向で見直し、地域に開かれた大学運営が行われるようにする。とりわけ、地域経済・産業の発展に貢献しているかを評価の基準として、外部による研究評価を行うべきである。また、国立大学については、独立行政法人化に際し、産業界との共同研究業績、特許取得に応じた給与制度や非公務員型教職員の採用を大学が選択できる制度を導入する必要がある。
      2. 国は、大学で研究者が発明した特許を大学帰属とし、大学及びTLOの活動資金として活用できる制度に見直すべきである。さらに産学共同研究センターについて、リエゾン機能、法務契約機能、TLO機能、インキュベーター機能などを併せ持つようにすべきである。
      3. 地域の経済・産業のために行う研究プロジェクトや関連する施設整備に対し、地方自治体が寄附できるよう、寄附にかかる制限を緩和すべきである。
      4. 工場(業)等制限法の見直し等により、生産拠点と大学等の研究開発拠点の空洞化を防止する必要がある。

    5. 地域を担う人材の育成・集積
      1. 地方自治体幹部として、地域の実状に精通し、ビジネス感覚に優れた民間人を任用すべきである。
      2. 技術、法務、資金調達などの面でアドバイスを行う人材を招聘すべきである。
      3. 産学官にわたる幅広い人的ネットワークを形成しつつ、それを活用すべきである。
      4. 地方自治体は、起業家や既存事業の事業再構築に取り組む人材を招聘するため、定住促進に資する魅力ある地域づくり、税制面での優遇などに取り組むべきである。
      5. 大学は、学外の協力も得つつ、技術シーズの産業化につながる実践的なカリキュラムの設定と人材育成に取り組むべきである。

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