産業問題委員会(共同委員長 瀬谷博道氏・西村正雄氏)/3月28日
産業問題委員会では、その下部組織である企画部会のメンバーを中心として調査団を組織し、2月25日〜3月1日の日程で、「台湾における産業空洞化実態調査」を行った。訪問先は、台湾政府関係機関(行政院経済建設委員会、経済部投資業務處、労工委員会)、交流協会、台湾系企業(電機、電子部品、金属部品、合金鋳物など)、ならびに日系企業(シンクタンク、家電、食品)、学識経験者である。以下は報告書の概要である。
わが国企業は現在、生産要素のコストや立地関連コストの安さなどを背景に、近隣アジア諸国に生産拠点を移転させている。
台湾においては、1990年代以降、伝統産業から付加価値の高い産業に至るまで、製造業企業が生産拠点の大陸移転を行ってきた。そして昨年は戦後初のマイナス成長を記録、失業率は5%を超えた。
そこで、台湾経済の悪化が産業の空洞化によるものなのか、産業高度化に向けて政府や企業がどのように対応を行っているかなどについて、台湾経済の実態と課題について調査することとした。
台湾の製造業は、従来、世界市場における組立加工工場として、国際分業に組み込まれる形で水平展開的に発展してきた。したがって、世界市場の中で台湾が最適生産拠点となる製品分野が見つけられる限り、労働集約度の高い製品の海外への生産移転は、空洞化を引き起こすのではなく、むしろ産業高度化の原動力となる。
しかし、1990年代における台湾経済の成長を支えてきたデジタル・エレクトロニクス製品においては、モジュール化が進展し、標準的な部品の寄せ集めによりハイテク製品も簡単に組み立てられるようになった。
この結果、組立加工の付加価値が縮小し、キーデバイスや新材料、さらには開発・設計、ソフトウェア、ロジスティクス、ブランドの付加価値が拡大した(右図参照)。また、中国がいわゆる雁行形態型の産業発展モデルを超え、1990年代後半からエレクトロニクス産業を急成長させた。これは、外資による活発な中国投資による資本制約の低下とモジューラー型プロセスの登場による製造工程の技術制約の低下がその背景にあるものと考えられる。
台湾の企業は、世界市場の中で成長する製品分野を発掘し、いち早くその生産拠点となって競争力を失った製品分野を入れ換えることを企業戦略の中核としてきた。したがって、投資懐妊期間の長い技術開発や周辺産業は外部にアウトソースする戦略が一般的であった。さらに、「技術は買ってくるもので自ら開発するものではない」との認識も根強く残っていた。
また、企業の資金調達がオーナー経営者を含む個人投資家に依存していることは、投資収益や企業価値の早期実現を促す要因となっている。しかし昨今では、製品付加価値に占める組立加工のウエイトが低下しているため、日米欧の企業はキーデバイスと新素材の開発に巨額の投資資金を投じつつある。台湾企業もOEM主体の企業戦略だけでは立ち行かなくなってきていることがうかがえる。
今回の調査を通じて、多くの台湾企業が、企業戦略の中核として、国内においてR&Dやグローバルロジスティクス(IPO)等の機能拡充を図るとともに、高度な加工を要する部品生産も国内に維持するといった企業戦略をとっていることがわかった。
2001年8月24日〜26日の3日間、台湾版産業競争力会議とも言うべき経済発展諮詢委員会が開催され、経済産業政策に関し、322項目にのぼる合意がなされた。2002 年1月末現在、必要とされる法的措置670件のうち419件が完了している。産業政策については、政府が台湾の製造業の将来像を示し、以下のように、競争力強化に関する政策を集中しているという点が注目される。