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経営タイムス No.2704 (2004年1月1日)

「経営労働政策委員会報告」日本経団連が発表

−「一律的ベアは論外、ベースダウンも」主張
−高付加価値経営実現へ/「多様性人材立国」を強調


日本経団連(奥田碩会長)は12月16日、春季労使交渉における経営側の基本方針を示す「経営労働政策委員会報告」の2004年版を発表し同日、同委員会委員長の柴田昌治副会長が記者会見した。2004年版の題名は「高付加価値経営と多様性人材立国への道」。企業が適正な利益を確保する高付加価値経営の実現に向け、多様な人材を活用する重要性を打ち出している。さらに、労使の最重要の課題は企業の存続と雇用の維持であり、「一律的なベースアップは論外。定昇の廃止・縮小、さらにはベースダウンも労使の話し合いの対象になりうる」との主張を展開。記者会見で柴田副会長は、2004年の労使交渉について、自社のおかれた状況を個別労使が共有し、「短期のみならず、中期的な観点に立った話し合いの出発点としたい」と語った。2004年版の同報告の概要は次のとおり。

序 文

世界が大きく急速に変化するなか、何より求められるのは守りの改革から攻めの改革へのシフト、つまり新たな需要、産業、雇用を創出する取り組みを強化することである。
特に今後わが国がめざすべきは、「交易立国」である。日本発の技術や資本を海外に投入し、世界中で生産することで世界各国の富の創造に貢献し、そこで得られた利益を国内にも還元、さらなるイノベーションを生むための資金とすることである。そのためには、多様な価値観や考え方をもつ異質な高度人材が集まって協働し、独創的な発想が生まれるようにすることが求められる。交易立国とは、つまり「多様性人材立国」である。

第1部 企業経営の動向と課題

デフレ下では、企業の売上高や利益は名目価格で低下するため、一段の売上増や利益率改善、生産性の向上などがなければ、企業は雇用人員の削減や賃金水準の引き下げなど厳しい選択を迫られる。すべての産業・企業で付加価値を高める努力が必要である。
経済活動のグローバル化のなかで日本が存立していくためには、内外のヒト、モノ、カネ、情報の活用によって国内を活性化させ、世界に通用する産業や企業を育成していくこと、つまり「内なる国際化」の推進が重要である。
わが国経済の活性化には中小企業の活躍が不可欠である。中小企業の経営上の重要課題は資金と人材の確保であり、そうした観点から経営革新を促すための各種の支援や相談ができる仕組みの一層の充実が求められる。

第2部 雇用・人材育成・労使関係

1.雇用問題
雇用不安解消のためには、新産業育成を通じた雇用創出が重要である。今後、わが国産業において、雇用の維持・拡大が期待される領域は、対個人・事業所などのサービス関連分野である。当該分野における規制改革が進めば、一層の雇用創出が期待できる。
21世紀における企業の人事管理の主目標は、「多様性をもった適応力の高い組織の形成」。雇用・就業形態の多様化は、雇用機会の創出・拡大、人件費管理の効率化の観点だけはでなく、創造性溢れる組織風土を構築するためにも重要である。

2.デフレ下の賃金決定
デフレ下でも決定的に重要なのは、売り上げが落ちても付加価値が減らない経営である。労使の努力により付加価値を維持・向上できなければ、人件費も減らさざるを得ない。
グローバルな競争激化のなかで、生産性や業績の裏付けがないまま人件費を増大させることは、企業の競争力低下、業績悪化につながる。雇用と人件費は不可分の関係にあり、労使にとっては、何よりも雇用の維持・確保が重要な課題である。そのためにも、人件費水準を適正に管理することが求められる。

3.人材育成・教育
企業人にはこれまで以上に広い視野に立った高度な判断力と課題解決能力が求められる。特に、次代を担う人材には、創造性・革新性を早期から鍛錬する場を提供していかなければならない。

4.社会保障制度
税制・財政構造の抜本的改革を視野に入れて、社会保障制度全体をパッケージで改革するグランドデザインの構築が必要である。

5.労使関係のあり方
今次労使交渉・協議の課題は、企業の存続と雇用の維持を最重点に労使で論議することである。
具体的には、第1に自社の付加価値生産性に応じた総額人件費管理を徹底すること、第2に賃金水準の適正化と年功型賃金からの脱却をはかること、第3に仕事や役割に応じた複線的な賃金管理へ転換することである。
特に賃金制度は、年齢・勤続年数などの属人要素による弊害を排除し、能力・成果・貢献度に応じた制度に切り替えていくべきである。したがって、一律的なベースアップは論外であり、賃金制度の見直しによる属人的賃金項目の排除や定期昇給制度の廃止・縮小、さらにはベースダウンも労使の話し合いの対象となりうる。

「現場力」の復活を提起

第3部 今後の経営者のあり方

特にここ1年、現場の第一線で大きな事故やトラブルが相次いでいる。この問題を単なる規律の問題としてでなく、「現場力」、すなわち現場の人材力低下の反映であると、経営幹部は危機感をもって認識する必要がある。
また、企業における不祥事も続いており、従来以上に企業倫理、経営の透明性が社会的に強く問われている。経営者は常に社会の活力を向上させようとする「高い志」と使命感をもって企業経営にあたらなければならない。それが、国益や社会の利益を増進し、ひいては活力と魅力溢れる日本をつくり上げていく道へつながる。


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