日本経団連タイムス No.2768 (2005年5月26日)

「若手社員の育成」で提言

−「企業理念」を明確化/長期的視点で職場主体に育成


日本経団連(奥田碩会長)は17日、「若手社員の育成に関する提言〜企業は今こそ人材育成の原点に立ち返ろう〜」と題する提言を公表した。同提言は、成果主義人事が過度に喧伝される現状に警鐘を鳴らすことをねらいのひとつとしており、企業は将来を担う人材を、長期的視点で、仕事や職場を通じてじっくり育てるという『人材育成の原点』に立ち返るべきであると主張している。同提言のポイントは次のとおり。

「人材育成の原点」への立ち返り主張、4項目の具体策を提案
―若年者の中途採用も

1.若年者雇用の現状と課題

少子化の進行などにより若年労働力人口の減少は避けられない。しかし、雇用情勢が改善傾向にある中で、若年者層の失業率は高止まりしている。また、雇用・就労形態の多様化に伴って、有期雇用者が増加し、人材育成の方法や、技能・技術の継承など、新たに考えなければならない問題が生じている。一方で、若年者の価値観や職業観が多様化し、受け入れる企業側にも柔軟な対応が求められている。
このような状況の下で、企業の競争力を維持・強化していくためには、将来を担う若手社員を育成し、人材の質的水準をより向上させていくことが喫緊の課題となる。

2.これからの若手社員の育成のあり方

入社から10年ぐらいまでの若手社員の育成のあり方として、経営者・人事部門・管理者がいかなる取り組みを行うべきか、具体的提言として次の4項目を提案する。
提言1は、「経営者は人材育成にもつながる企業理念を明確に打ち出す」ことである。これにより、企業の進む方向と社員の意識のベクトルが合い、企業の発展や競争力強化の原動力になるとともに、求められる人材像が自ずと明確になる。
提言2は、「将来を担う人材を長期的視点で育成する」ことである。現在、成果主義人事制度が浸透しつつある中で、ややもすると短期的な成果が求められがちだが、特に若手社員については、本人の将来性や可能性を重視し、長期的な視点で「人材育成」と「成果主義」の両立を図るべきである。また、管理者が自身の成果を求められるあまり、部下の育成がおろそかになるという問題が生じていることから、人材育成は管理者の本来業務であることを徹底し、管理者自らが若手社員に対して範を示すことが必要である。
提言3は、「個々に合わせた成長の機会と環境を提供する」ことである。企業は若手社員にチャレンジングな仕事を与え、「職場」主体で育成することが基本である。経営者は、若手社員がチャレンジできるような仕事をつくり出すことが必要であり、職場の上司には、若手社員一人ひとりの能力に合わせて仕事を通した成長のチャンスを与え、きめ細かく支援することが求められる。これに加えて、若手社員の自主的なキャリア形成を支援するために、企業が多様なキャリアプランを提供することも重要である。
提言4は「新卒者以外の若年者へも採用の門戸を広げる」ことである。中途採用では「即戦力」が重視される傾向にあるが、将来性や潜在能力を重視し、中途採用の若年者を中期的観点から育成することも検討されるべきである。

3.国や教育界への要望

企業が長期ビジョンを持って若手社員育成に取り組むには、それが可能となる環境づくりが必要であることから、国や教育界へ5点を要望する。
国に対しては、(1)多様な人材を安定して採用・育成するために、労働関係法令の規制改革などの環境整備を行うこと (2)各関係省庁が密接に連携して政策の実施にあたり、その効果の検証を行うこと、同時に民間活力も積極的に活用すること (3)わが国の技能・技術を継承できる人材の養成のため、早期から特定分野での専門家をめざすキャリア選択の仕組みづくりや、職業訓練、MOT(技術経営)教育の充実を図ること――を要望する。
また、教育界に対しては、(4)社会人としての素養・基礎能力を養い、「働くことの意義」など職業観を培う教育の強化を行うこと5)教師がビジネスや社会情勢、仕事をする上で必要な能力・素養を学生に伝えられるように、社会経験を持つ教師の採用・養成を行うこと――を要望する。

【国民生活本部国民生活担当】
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