日本経団連タイムス No.2778 (2005年8月4日)

日本経団連・第4回東富士夏季フォーラム <第2日> 第4セッション

国際貢献の現実―イラクで感じた日本への期待と課題

−第1次イラク復興支援群長 番匠 幸一郎氏


今回の自衛隊のイラク派遣は、冷戦が終わってから十数年間にわたり、自衛隊が積み重ねてきた国際貢献の上に立つものである。派遣前に、「国旗を立てる」「後に続く部隊のために復興支援の基盤を作る」「全員無事に日本に帰る」の3つを合い言葉に決め、現地に赴いた。

イラクの気候は寒暖差が大きく、3月までは氷点下が続く一方、4月を過ぎると日中の最高気温が50度を超えることもある。またベビーパウダーのような細かい砂嵐によって、機械類や体調に影響がないよう対策を講じるとともに、日常生活の中で昆虫やさそり、毒蜘蛛にも注意を払った。

中東地域では、陸・海・空あわせて1000人以上の自衛官が活動している。陸上自衛隊は、町から数キロ離れた郊外にある砂漠の真中に活動拠点を作った。サマーワでは外務省職員やシビリアンの職員も一体となり復興支援にあたっている。主な活動は、(1)医療支援 (2)給水 (3)公共施設の復旧整備――である。80年代に日本のODAで作られた病院の掃除や医療器械の修理から始めて、その後医療サービスを展開。現在は200カ所近くで医療サービスを支援している。また、地元からの陳情で一番切実だったのは安全な水を十分確保してほしいということと、戦乱で壊れ使用できない施設を修復してほしいということだった。現地では、雇用へのニーズが大きく、失業対策も重要だったので、現地の人々と調整しながら修復にあたった。多くの場所で作業ができた上、日々1000人、トータルで30万人の雇用を生んだ。

イラクの人々は、驚くほど日本に対し好意的で、自衛隊の車列に手を振ってくれる。これに対し、私たちも車から身を乗り出して笑顔で手を振りあいさつしたほか、子供たちに夢を持ってもらおうと学校を回りコンサートを開いたり、ユーフラテス川に鯉のぼりをあげた。翌日には支援デモが起きるほど、喜んでもらった。現地の世論調査では、昨年11月時点で自衛隊駐留賛成が84%、今年1月には78%が派遣延長を支持。7月には陸上自衛隊の活動継続を88%が支持している。日本への期待が大きいことは数字の上にも表れている。

私は600名の隊員に対し、(1)戦争ではなく、人道支援に行くのであり、日本人らしく誠実に対応すること (2)古来の防人(さきもり)、武士、軍人の伝統を引き継いだ「武人」としての行動をとること (3)部隊編成の特性から1つの家族としてまとまること (4)安全・健康に留意すること――の誠実、規律、団結、安全・健康の4つを伝え、統率に努めた。イラクの人たちに対しては義理人情を大事にした。さらに、当たり前のことを、ボーっとしないで、ちゃんとやる、できるだけ笑顔でという「ABC+DE」の精神を大事にした。現地では基本が何よりも重要である。

今回の派遣で、日本が安全で豊かですばらしい国であることを改めて感じるとともに、日本人の歴史、日本人の築き上げた実績に対し誇りを感じた。私たちが今やっていることはささやかだが、将来の日本人から後ろ指を指されることのないよう、この時代に生きる人間としての責任を果たしたいと思う。

(文責記者)
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