日本経団連タイムス No.2839 (2006年12月1日)

「実効ある温暖化対策の国際枠組の構築に向けて」を公表

−2013年以降の国際的枠組のあり方提起/エネルギー対策との連携など


日本経団連は11月21日、提言「実効ある温暖化対策の国際枠組の構築に向けて」を公表した。

地球温暖化問題に対応するための国際的な枠組としては、現在、気候変動枠組条約と京都議定書があり、これらの下で、各国が対策を進めている。京都議定書は、2008年から12年の5年間について先進国の削減目標を規定するものであることから、国連を中心に、13年以降の国際的な枠組のあり方について、議論が高まりつつある。
いわゆる「ポスト京都議定書」の枠組は、内容によっては、わが国の経済成長や国際競争力に多大な影響を与える可能性があることから、日本経団連では、環境安全委員会(新美春之共同委員長、鮫島章男共同委員長)において、望ましい国際枠組のあり方について検討を行い、同提言を取りまとめた。
同提言では、京都議定書について、温暖化問題に対する各国の理解と関心を高め、具体的な対策を進める上での第一歩として評価する一方、一部の先進国が排出削減義務を負うにとどまっており、削減目標の設定に際して、先行して実施した省エネルギーの実績が反映されないなど、公平性が十分確保されていない等の問題点を指摘、実効ある排出削減を可能とする枠組の構築に向けて、特に次の5点を提起している。

1.エネルギー対策との連携

地球温暖化問題はエネルギー問題と表裏一体の関係にあり、エネルギー利用システムを変革し、経済社会の省エネルギー化、省CO2化を進めることは地球温暖化対策に直結する。エネルギーのクリーン化とともに、エネルギーセキュリティー強化につながる省エネルギーへの主体的な取り組みが、温暖化対策につながることが期待される。

2.温暖化対策の基本となる技術の普及・革新

持続可能な発展を確保しつつ確実に温暖化対策を進めるための鍵は技術である。エネルギー需要の急増が予想される国を中心に、効果が実証された既存技術の普及が急務である。同時に、大幅なCO2排出削減のためには、革新的技術の開発・普及が不可欠であり、官民連携や国際協力の促進も含め、長期的な取り組みを可能とする体制の整備が求められる。

3.多様で柔軟なアプローチの重要性

国連の下での対策と合わせて、多様かつ柔軟なアプローチの活用が必要である。「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ」(APP)をはじめ、国別の総量目標とは異なる排出削減策も積極的に推進すべきである。柔軟な目標期間の設定を可能とするとともに、エネルギー効率や温室効果ガス排出に関する原単位目標も積極的に活用すべきである。
特に、先行的取り組みの成果を生かし、参加国拡大と実効性確保を図るものとして、セクトラル・アプローチの活用が期待される。セクトラル・アプローチは、業種別の連携・協力の下、既存技術の普及や技術開発協力等を通じて温暖化対策の底上げや将来の対策強化を図るものであり、業種や協力対象国の特性を踏まえたきめ細かく柔軟な手法を講じることが可能である。

4.市場メカニズムの活用

市場メカニズムとは本来、競争原理に基づいて、企業が温暖化対策に有効な手法・製品・サービスを開発・提供し、その付加価値がユーザーや社会から評価・選択されることである。最近一部において「市場メカニズムの活用」が、排出権取引が行われる「カーボン・マーケットの活用」と同義で使用されているが、本来の市場メカニズムの活用こそ必要である。
排出削減クレジットの活用は、温暖化対策の選択肢の1つであり、その活用のあり方は、各国・地域や企業の判断に委ねるべきである。なお、キャップ&トレード型の排出権取引制度は、公平で技術的合理性があり、かつ急速に変化する経済情勢に対応できる排出枠の割り当てが困難であることをはじめ、国際枠組として位置付けるには問題が多い。温暖化対策では長期的なCO2排出削減の実効性に着目すべきであり、カーボン・マーケットに過度に期待すべきではない。

5.途上国の取り組みを促進する環境の整備

地球規模で温室効果ガス排出抑制を進めるためには、エネルギー需要・消費の増加が予想される途上国での対策推進・強化が重要である。新たな国際枠組においても、途上国の温暖化対策を先進国が支援する制度を拡充し、幅広い参加を促すべきである。
この点、世界トップレベルのエネルギー効率を実現している日本の産業界の取り組み事例等が参考になると考えられる。官民連携の下、省エネルギー、省CO2のための政策・制度形成支援とともに、手法・製品・サービスの積極的利用に向けて協力していく必要がある。
途上国の資金調達面での協力については、国際金融機関の各種制度や各国ODAの柔軟な活用、直接投資等、多様な支援策の展開が期待される。
また、途上国においても、特に民間企業の投資促進に向けて、知的財産権の保護をはじめとする投資環境の整備や、政策の不確実性の排除等への取り組みが不可欠である。

【産業第三本部環境担当】
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