日本経団連タイムス No.2848 (2007年2月22日)

「持続可能で国民の満足度の高い医療制度改革に向けて」公表


日本経団連(御手洗冨士夫会長)は20日、「持続可能で国民の満足度の高い医療制度改革に向けて」と題する意見書を公表し、政府・与党関係方面へ建議した。昨年成立した医療制度改革関連法が実施に移されつつあるものの、依然として現状の医療に対する国民の不安や不満は解消されていない。意見書はこのような現状を踏まえ、公的医療保険制度の持続可能性を確保しつつ、国民にとって満足度の高い医療を実現していくためのさらなる改革を求める内容となっている。

「かかりつけ医」制度化など

意見書では、現状の医療の不透明性、硬直性などにより、患者、医療提供者、保険料負担者それぞれが抱える不安や不満が蓄積していることに触れ、これらを解消し、かつ制度の持続可能性を確保することが重要であると指摘。その前提としてまず、国民1人ひとりが健康維持に努めることの重要性を訴えている。同時に、このような個人の健康維持への努力に対し、国、地方公共団体、企業、保険者、医療機関等の関係者がきめ細かな支援をしていくことを求めている。
公的医療保険制度については、健康を維持する努力を行ってもなお、病気にかかった際のセーフティネットと位置付けている。これを十全に機能させていくため、真に医療を必要とする人に給付を重点化し、効率的に医療を提供することで、早期の社会復帰を可能とすることが、患者本人にとっても望ましいとしている。

また、医療や健康維持への支出のための積み立てに対し、税制面の優遇措置を講じる「医療貯蓄口座」の導入についても検討すべきとしている。口座を繰り越し可能な制度とすることで、個々人が若年期から継続的に積み立てを行い、老齢期に備えることが可能となるなど、個人の自助努力の受け皿のひとつとして有望視している。併せて個人の取り組みを後押しするため、民間活力を活用し、健康関連の多様なサービスを提供していくことも重要であるとしている。
さらに、患者が最適な医療を選択する際の前提として、保険医資格の更新制の導入や客観的な基準に基づく専門医制度の確立、さらには保険外診療と保険診療の組み合わせを原則可能とすることなどにも言及している。
一方、医療提供体制の効率化の観点からは、診療報酬上の評価をベッド数を基準としたものから、医療プロセスの中で果たす機能に応じた評価へと改めることが必要であると指摘。これにより医療機関が得意分野に集中的に資源を投入し、相互に機能分担と連携を図ることをめざすとしている。

意見書では、患者の総合的な支援を行う「かかりつけ医」の制度化についても提言。患者の健康管理や初期的な診療への総合的な対応、適切な医療機関への紹介など、患者の効率的な制度利用を促すことを主な役割として位置付けている。
また、医療を患者にとってよりわかりやすいものとするため、ICT(情報通信技術)を活用し、医療機関ごとの診療行為のバラツキを収斂させ、支払い方式を現行の出来高方式から標準的な医療に基づく包括的な方式へと改めることも求めている。
医療におけるICT化は、透明性の向上、情報共有の円滑化、制度運営の効率化などを通じ、医療関係者すべてにメリットをもたらすとことから、早期に実現すべきと訴えている。

こうした改革を進めることで、関係者の努力が報われ、健康関連産業がわが国経済の牽引役として発展を遂げることが可能となるとしている。施策の着実な実施により、公的保険給付費の伸びを高齢化を加味した成長率の範囲にとどめ、結果として経済、財政との整合性をとることもめざしていくべきとしている。
また、政府に対しては、「歳出改革プログラム」の実現に向けた「高コスト構造是正プログラム」の策定に際して、今回の提言を踏まえ、改革の工程表を早期に示し、その実現に向けた幅広い議論を進めることを求めている。

【経済第三本部社会保障担当】
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