日本経団連タイムス No.2871 (2007年8月9日)

第6回東富士夏季フォーラム 第3セッション

「経済連携(EPA)の進め方」

経済連携推進委員会共同委員長  大橋 洋冶 氏


問題提起

通商立国である日本は、とりわけ2000年以降、EPAとWTOを車の両輪として位置付け、諸外国との経済関係を推進してきた。グローバル化と少子・高齢化が進行する中で、今後ともわが国経済が活力を維持し持続的成長を遂げるためには、成長著しいアジアのダイナミズムを取り込んでいくことが重要であり、EPAはそのための重要なツールである。資源・エネルギー、食料に対する需要が世界的に増大する中、これらの供給国との関係を緊密化し、円滑な取引関係を維持・強化することが喫緊の課題であり、EPAは、その有効な手段でもある。政府においても、精力的に交渉を進めてきた結果、ASEAN各国との二国間のEPAについてはおおむね形が整うなど、かなりの進展があった。今後は、それらを多国間の面的なものとし、さらにそれを東アジア中心にできるだけ拡大していく必要がある。

他方、わが国にとって重要な輸出先・投資先となっている、あるいは政治・安全保障上の配慮から関係の維持・強化が求められる国・地域などとも、EPAの締結を積極的に推進していく必要がある。去る6月に閣議決定された「経済財政改革の基本方針2007」では、米国、EUを含めた大市場国等とのEPAについては、可能な国・地域から準備を進めていくこととされているが、その具体的な工程は明確になっていない。また、先般交渉入りした豪州とのEPAは、今後のわが国EPAの試金石と位置付けられる。

4点の問題を指摘

以上のような現状認識に立って、4点、問題提起する。

第1に、経済のグローバル化が進展する中でわが国が直面している課題は何か、ということである。また、投資協定や租税条約などEPA以外の政策手段についても、議論していただきたい。

第2に、さまざまな政策手段と比較した場合のEPAの意義は何か、という点である。

第3に、EPAの今後の方向性をどのように考えるかである。日本としてアジアと今後どのように向き合っていくかという点についても考えておく必要がある。EPAの「拡大」に対して、「深化」の側面と言えよう。

第4は、以上のような対外経済戦略を推進する上での課題は何かである。

意見交換−わが国が直面する課題やEPAの意義などを討議

(1)経済のグローバル化が進展する中でわが国が直面している課題

参加者

重厚長大企業にとっても、EPAは大きな課題である。欧州規格をめぐって囲い込みが見られる中、EPAを推進するに当たっては、税制や法制のみならず、こうした囲い込みを突破することが重要である。

参加者

EUと米国がグローバル・スタンダードの構築に覇権を競っている。背景には、EUと米国の市場や経済の力がある。日本としても、国のパワーを発揮するために、各国との連携が必要である。日本の立ち位置とはアジアしかない。

参加者

日本経団連では日EU・EPA、日米EPAの交渉を推進すべきと主張している。特に日EU・EPAについては、EUとの対話や日本からの情報発信の場として活用できる。

参加者

トップ外交や経済界同士の連携等を通じて、多面的な関係を構築することが重要だ。ODAの活用などによって二国間関係を良好なものとし、レベルの高い関係を築いていくことが重要である。

参加者

エネルギーについて中東を無視しては何もできず、中東との関係強化を軽視すべきではない。

参加者

EPAを阻害するのは外部要因のみならず、国内要因もある。例えば、貿易・港湾手続きの簡素化が必要である。また、海外資源開発のような大型投資に当たって、移転価格税制が不透明な要素となっている。社会保障協定を締結して、社会保険料の二重払いを防止する必要がある。

(2)他の政策手段と比較した場合のEPAの意義

参加者

貿易投資立国として、自由貿易体制の堅持・強化は日本の生命線である。少子・高齢化やグローバル化が進行する中、国際競争は厳しさを増している。持続的成長を実現するためには、海外の活力を取り込む必要がある。その手段として、WTOとEPAを車の両輪とする必要がある。

参加者

アジア諸国に災害情報を提供すれば、大きな貢献になる。こうした科学技術は日本のEPAの推進にも寄与する。

(3)EPAの今後の方向性

参加者

日本を含め、東アジアは農業のグローバル化の脅威にさらされている。こうした中、自給率の維持・向上に協働して当たるべきである。日本としては、思い切った形でアジアでのEPA、FTAを推進し、経済格差を縮小するとともに、輸入関税を下げ、食料の安定供給を確保することが求められる。

参加者

イノベーティブな製品、サービスを展開する上で、EUとの連携が必要である。日EU間には、技術、知識、人材交流、資源問題、地球環境問題など、手を携えて検討していける事柄が多い。通商問題を越えて、広範で深みのあるEPAの先進モデルを確立することができる。

参加者

日本のEPAパートナーはこれまでのところ極めて少ない。パートナーが一つ加わるだけで、サプライチェーンが変わる。パートナーを増やすべく、大きく踏み出すべきである。

参加者

アジア諸国とのEPAやASEAN+3に加えて、APEC大のFTAを推進することが重要である。

参加者

ABACは唯一民間の立場から、APECに提言できる組織であり、その政策提言機能を強化すべきである。日本経団連の日本ABACへの支援をお願いしたい。

参加者

EPA拡大の必要性は論をまたないが、スピードが重要である。

参加者

EPAと規制改革のどちらが先かとなると難しいが、農業構造改革や外国人材受け入れなどの国内構造改革について、明確な政策を確立する必要がある。

(4)対外経済戦略を推進する上での課題

参加者

農業改革を進めていくべきである。農地の有効活用や海外市場の開拓など、まだ改革の余地はある。また、日本の安全な農作物に対する評価も高まっている。アジアでの食料争奪戦が激しくなる中、食料安全保障と農産物市場の開放を同時に進めていくことが重要である。外国人材に関する問題は、日本がどの分野の人材を必要としているかという点にある。教育やコミュニティー活動など受け入れ基盤の整備も重要である。家族受け入れの問題もある。EPAの観点だけでなく、少子・高齢化や人口減少の現状を踏まえた考え方を整理する必要がある。推進体制について、問題になるのは省庁の縦割りである。国益を総合的に判断する司令塔がない中、総理直轄の担当大臣、日本版USTR(通商代表部)が必要である。

参加者

EPAを進める必要があるから農業構造改革を進めるということではなく、農業を変えていくことによって日本の成長が期待できる。

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