日本経団連タイムス No.2891 (2008年1月31日)

第111回日本経団連労使フォーラム

−鼎談「これからの企業経営に何が求められるのか」


10、11の両日に行われた「第111回日本経団連労使フォーラム」1日目の鼎談では、草刈隆郎日本郵船会長(日本経団連副会長・経営労働政策委員長)、今野浩一郎学習院大学教授、中島厚志みずほ総合研究所専務執行役員が、「これからの企業経営に何が求められるのか」をテーマに話し合った。

環境激変で企業経営再構築が必要/中島氏

鼎談ではまず中島氏が、企業経営を取り巻く環境の激変を指摘。世界経済の構造的変化の具体的事象として、(1)中国などの新興国が先進国の投資を引き付けて、「世界の工場」となっている(2)新興国の需要増などにより、資源高、原油価格高が生じている(3)世界経済の牽引役が日米、EUなどといった先進国から、新興国、資源国に移っている――ことなどを挙げた。

一方、日本国内の状況としては、(1)輸出割合や海外での売り上げ割合の高い企業の業績が好調である(2)少子・高齢化の影響もあって所得が伸び悩み、マーケットが飽和し、消費が停滞している(3)そのため、国内市場にウエートのある企業業績はなかなか伸びない状況にある(4)環境に対する意識や企業の社会的責任についての意識が高まりを見せている――などと述べた。

その上で中島氏は「グローバル化と少子・高齢化の中で生き残るということ一つをとっても、ヒト、モノ、カネ、経営資源の中身をどのように活用できるのか再度見直して、それらの資源を総動員するという形での企業経営再構築が必要になってくる」「大きな構造変化が企業を襲っている状況の中で、長期雇用や年功賃金に代表される日本型雇用システムについても何がしかの見直しが要請されている」との問題提起を行った。

多様な人材活用できる環境を整備/草刈氏

これを受けて草刈氏は、少子・高齢化社会に対応するためには、性別、年齢、国籍などにかかわらず、多様な人材を活用できる環境を整えるため、柔軟な雇用システムを導入して労働市場の縮小を防ぐ必要があることを強調。さらには、働き方の効率を高めて、生産性を向上させていくことが肝要であるとの考えを示した。

多様な人材の活用について草刈氏は、女性の活用に言及、「女性の活用はまだ改善の余地があるし、近い将来、女性を大胆に活用した企業が勝ち残る」と述べ、女性の就業率が5%アップすると、300万人から400万人の新しい労働力が生まれると説明した。また女性の就業率向上を図るため、(1)出産、育児でいったん離職した女性に対して企業にカムバックを促す制度(2)ワーク・ライフ・バランスに考慮した柔軟な働き方(3)育児・保育支援制度――を提供することが必要だと指摘した。

また草刈氏は、近年、若年層の中には、長期にわたって一つの企業に縛られることや、正規社員となるのを必ずしも良しとせずに、多様な職業人生を求めるライフスタイルや価値観があると述べ、「派遣制度は、そうした考えに合致した雇用形態である」として、派遣制度をもっぱら否定的にとらえるのは誤りであり、もっと柔軟に活用できる制度に変えていくべきだとの考えを示した。

「役割と成果」に基づく人事管理へ/今野氏

経営環境の変化を人事管理にどう結び付けなければならないかについて今野氏は、人事管理改革の方向は、「変化する市場、経営、働き方」=需要側の変化と「変化する労働者の意識、働き方」=供給側の変化によって規定されると説明。前者については、競争のグローバル化を背景とした高付加価値化に対応するためには、事前に働き方の手順を決める従来のやり方でなく、仕事の手順などを働く人に一任する「働き方の組織内自営業主化」が進むので、それに対応する人事管理の構築が必要であるとの考えを示した。

一方、後者については、労働者が求める多様で柔軟な働き方に対応する「多元的人事管理」の構築が必要であること、「多元化」は世界の潮流であり、男性のみならず女性も活用する「二馬力」の体制に、従来の日本のような男性のみの「一馬力」体制では勝てないことを強調した。

新興国の企業などに打ち勝つために、人事管理面で、企業はどのような対応をすべきかという中島氏の問い掛けに対して今野氏は、終身雇用と年功制をベースにした伝統的人事管理は、市場の不確実性の増大、経営の高付加価値化、働き方の組織内自営業主化、労働の多様化に適応しないことを指摘。今後の人事管理の方向は、「役割と成果」に基づくべきで、例えば年功賃金、職能給制度などは、もはや現実に合わないと述べた。


一方で、日本的経営、日本型雇用システムの中にも残すべき良さもあるのではないか、新しいものと従来のものとのベストミックスを考えるべきではないかとの中島氏の問いに対して草刈氏は、日本型の経営手法のベースになるのは、企業に対する貢献、愛着、誇りといったものであり、特に中核をなす社員のモチベーションの高さが求められると指摘。企業によってはすべて「役割と成果」で評価して賃金を決めることが可能なところもあるが、やはり一般的には例えば生活給的な要素といったものを残す必要があり、新しい制度と従来の制度の程よい兼ね合いを労使が真剣に追求していくべきだとの考えを示した。

最後に草刈氏は、天然資源の少ない日本にとって一番大切なのは人材であるから、よい人材をどうやって集め、どうやってそのエネルギーを吸収するかが今後企業の活力を発揮するために極めて大切になると述べ、今野氏は、(1)日本の企業の人材育成の特徴は何か、今後そのどの部分を強化していけばよいのかを考えること(2)企業内で役割と成果に基づいて賃金決定を行うように変更したときに、外部労働市場の賃金決定の秩序をどういうふうに持っていくのかを考えること――が今後の課題であると語った。

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