日本経団連タイムス No.2891 (2008年1月31日)

第111回日本経団連労使フォーラム

−パネル討論「雇用多様化時代の人材戦略」


「第111回日本経団連労使フォーラム」2日目に行われたパネルディスカッションでは、HRラボ代表取締役の原井新介氏をコーディネーターに、パネリストを務めるキヤノンの浦元献吾人事本部副本部長、キリンホールディングスの小川洋人事総務部長が「雇用多様化時代の人材戦略」をテーマに討議を行った。

まず原井氏が、多様化が求められる環境変化と企業の人事課題について解説。続いてパネリストの浦元、小川両氏が、多様化に対応した人事システム、グローバル人材戦略に関する自社の取り組みについて発言した。

多様化は企業に不可欠要件/原井氏

原井氏は、(1)本格的な少子・高齢化の進行(2)ビジネス基盤そのものの変化(3)従業員構成の変化(4)グローバル化の進展(5)就業観の変化――の五つの環境変化を挙げ、企業にとって多様化は欠かせない要件であると強調した。その上で、企業の人員構成上、対応すべき人事課題として、(1)60歳以上の雇用の確保のための年齢にかかわりなく活性化した職場づくり(2)50歳代後半以降の社員のモチベーション向上(3)バブル期世代のマネジメント能力の向上(4)女性社員のマネジメント登用のためのワーク・ライフ・バランス向上策の導入(5)中途入社者が力を発揮できる風土の醸成(6)若年層に魅力ある職場づくり――を挙げた。

また、企業にとっては、今後グローバル企業としてどんな企業でありたいのかを明確に示していく時期になっていると指摘した上で、グローバル競争下の日本企業の人材マネジメントに関しては、多様性の中に多様なタレントがあり、それぞれのタレントを育成するという、タレントマネジメントとダイバーシティマネジメントを組み合わせた考え方(日本版タレントマネジメント)が望ましいと強調した。

最後に原井氏は、「めりはりをつけて働き、個人生活の時間を創出〜地域・家庭・社会などの多様な価値観に触れる〜多様な価値観を取り込んで仕事に生かす〜仕事の価値創造力・生産性を高める」という好循環をつくり出すことが重要であり、悪循環に陥ってしまった場合には、その連鎖をどこで断ち切るかが重要であると指摘。そのためにトップが責任をもって決断し、それを適切な人事戦略の中にキャッチアップして遂行していくことが重要であると述べた。

企業が求める人材像明確に/浦元氏

浦元氏は、キヤノンでは創業時から人事の哲学として、三自(自発・自治・自覚)の精神、人間尊重主義、実力主義をベースに、OJTやローテーションを通じた仕事の場が最善の自己成長の機会であると考えてきたと説明。三自の精神とは、自ら進んで仕事をする積極性を大いに歓迎するとともに、自分自身をきちんと管理する――自分の立場、役割、状況認識をした上で自発的に業務を遂行することであると説明した。その上で、めざす人材像としては、(1)グローバルな競争に打ち勝てる「自律した強い個人」(2)組織への貢献ができる人材(3)永続的企業革新を担う経営人材(これを持続させていくエネルギーは「緊張感」と「信頼感」である)(4)企業の安全保障に貢献できる人材――の四つを挙げた。

グローバル人材戦略に関しては、従業員数、日本からの出向者数ともアジアが大幅に増えている中、グローバル社員に対しては、三自の精神をはじめとする行動規範を示した「キヤノンVALUE」の共有化のため、各国の言語に翻訳し徹底を図っていると説明した。

次にグローバル研修体系に関して、まず次世代の経営者育成を目的とするキヤノン経営塾について紹介。同社では研究開発、生産、営業など機能をまたがる人事異動があまり多くないことから、広い視野で物事を見ることの必要性を認識、体得することを目的としていると説明した。そのほか一般社員から経営層までを対象に、スイスのビジネススクールでの集合研修を皮切りに、最終的に経営層の前でのプレゼンテーションまでを半年間かけて実施するグローバル研修について紹介した。

浦元氏は、「グローバルな時代だからこそ地に足のついた人材育成が必要。企業が求める人材像を明確にしていく必要がある」と指摘。次世代リーダーに求める要素として、(1)包容力、実行する勇気、人の話を聞きまとめる力である「人間的な要素」(2)目標設定ができる力、トップダウンで指示が出せる力である「戦略立案、実行力」――の二つを挙げた。

自律した個への成長を支援/小川氏

小川氏は冒頭、ビール業界を取り巻く状況について、従来の国内中心の事業展開から、少子・高齢化、グローバル化の波を受け対応を迫られていると指摘。その上で、01年の「新キリン宣言」に基づき、経営戦略と人事戦略のつながりを明確にするための人事改革を行ったと述べた。改革にあたっては、長期雇用重視の視点を堅持しつつ、(1)人材の登用・若手の抜擢の促進(2)管理職への資格制度と役割、職務の大きさ(職務グレード)の併用(3)人事考課のフィードバックと多面評価の導入――などを行ったと説明した。また、このほかにグローバル事業展開やM&Aへの対応、女性社員の能力の発揮という観点から多様性の促進施策を推進していると説明した。

人材戦略については、会社と個人がイコールパートナーとして、社員には自律した個に向けての成長を期待し、会社はそれを支援する機会を提供していくという人材育成の基本的考え方を説明。社員自らが会社の方針を踏まえて目標設定することがベースであるとの考えを示した。その上で、若手社員の育成にあたっては、子会社に出向し管理職として業務を担当させるなど、ひと回り大きな役割を担当することで、経営により近いところで実践体験を積むようにしていると言及。海外の場合はさらに、2ランクぐらい上の、現場のチームリーダーであれば、工場の現場責任者として、300人程度の部下の労務管理や現場の品質管理など、すべてを任せていると説明した。

グローバル人材の育成という観点からは、選抜型育成研修を充実し、その中から海外事業展開に対応できる人材の育成をめざすと説明。また、女性社員の活躍を支援するため、キリンウイメンズネットワークを設立、会社として本気で取り組んでいくという決意表明として昨年2月に決起集会を行ったと報告。活動を通じて多様な人材が生き生きと活躍する企業風土への足掛かりとなることへの期待を表明した。

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