日本経団連タイムス No.2909 (2008年6月19日)

第101回日本経団連労働法フォーラム

−総合テーマ「多様化する人材活用に関わる法的留意点と実務対応」


日本経団連主催、経営法曹会議協賛による「第101回日本経団連労働法フォーラム」が5、6の両日、都内のホテルで開催され、改正パートタイム労働法や労働契約法の施行を踏まえた対応を検討した。弁護士報告では、パート社員の労務管理における法的留意点や正社員との均衡待遇の考え方、さらに有期契約社員や派遣社員も含めた労務管理のあり方やトラブル防止策について検討を行った。また、佐藤博樹・東京大学教授による講演や厚生労働省担当官による改正パートタイム労働法の相談事例解説など、多角的な観点から企業の取り組み課題について探った(講演、相談事例解説は前号掲載)。

報告1 弁護士・男澤才樹氏
−「パート社員の労務管理における法的留意点と均衡待遇の考え方」

【改正内容の再確認】

労働力人口減少社会へ移行する中、労働力の有効活用や格差問題の解消などを目的にパートタイム労働法は改正された。その基本的な考え方は、(1)均衡(均等)待遇による公正な待遇の実現(2)意欲や能力を十分に発揮できるような就業環境の整備――の2つである。
改正のポイントは、(1)労働条件に関する文書の交付等(6条)(2)差別的取扱いの禁止(8条)(3)均衡待遇の確保(通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者を除く)(9〜11条)(4)通常の労働者への転換推進(12条)(5)待遇に関する説明義務(13条)(6)苦情の自主的解決・紛争の解決の援助(19、21、22〜24条)――である。

【就業規則整備・労働契約締結】

パートタイム労働者の独自の就業規則がない場合は、正社員就業規則が適用されるおそれがあるので注意が必要である。
労働契約締結時の留意事項として、文書交付等による明示義務、期間の定めのある労働契約の場合の更新の有無・判断基準の明示などがある。
また、パートタイム労働者に対して、13条に基づく説明をしても納得が得られない場合は、苦情の自主的解決の仕組みや都道府県労働局長の助言・指導・勧告などの紛争解決の援助の活用により解決を図ることが望まれる。

【均衡待遇】

今回の改正では、賃金、教育訓練、福利厚生において均衡待遇の確保を図るよう法整備が行われた。8条の差別的取扱いの禁止に該当するか否かは、通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者が、(1)職務の内容が同一(2)人材活用の仕組みや運用等が雇用関係終了までの全期間同一と見込まれる(3)期間の定めのない労働契約(同視することが社会通念上相当な有期契約を含む)――の3要件を満たす者であることをそれぞれの判断手順に従って確認していくことが必要である。職務内容の同一性については、(1)業務の種類が同一であるか、中核的な業務を抽出し、その業務の内容が実質的に同一か(2)責任の程度が著しく異なっていないか――を確認する。人材活用の仕組みや運用等については、(1)転勤の有無、範囲(2)職務の内容と配置の変更の有無、範囲――を確認していくことになる。
問題点として、パートタイム労働者の分類を行う要件としての明確性に欠けることが挙げられる。参議院厚生労働委員会附帯決議でも、「その範囲が明確となるよう、判断にあたって必要となる事項等を示すこと」としている。
今後の影響としていわゆるフルタイムパートの取扱いがあるが、指針において、フルタイムパートについても、パートタイム労働法の趣旨が考慮されるべきであるとしている。

【賃金体系変更】

パートタイム労働者と正社員を比較して賃金決定要素・体系を再検討する際には、正社員の労働条件が不利益変更とならないよう注意が必要である。指針においても「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する措置等を講ずるに際して、その雇用する通常の労働者その他の労働者の労働条件を合理的な理由なく一方的に不利益に変更することは法的に許されない」とされている。
また、事業主が高年齢者雇用確保措置を講じ、当該措置の対象として雇用する高年齢労働者が法2条に規定するパートタイム労働者に該当する場合は、法が適用されることとなるので、あわせて留意すべきである。

質疑・応答

【問】正社員とパートタイマーの職務の内容が同一かどうかは業務の内容と責任の程度の2点から判断するとされているが、責任の程度が「著しく異なる」といえるのはどのような場合か。

【答】業務の責任の程度については、(1)与えられている権限の範囲(2)業務の成果について求められている役割(3)トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応の程度(4)ノルマなどの成果への期待度――などを総合的に比較し「著しく異ならないか」を判断する。

報告2 弁護士・中野裕人氏
−「有期契約・派遣労働の期間満了・雇用継続に関わるトラブル防止策」

【反復更新と雇止め】

有期雇用の雇止めに係る紛争においてポイントとなる事項は、(1)労働者の従事する業務の客観的内容(2)労働者の契約上の地位の性格(3)当事者の主観的態様(4)更新の手続き・実態(5)他の労働者の更新状況――などである。こうした点を踏まえ、実務においては、(1)例えば「臨時工」という名称で雇入れた労働者を長期間雇用する等、名称に合っていない雇用実態を改める(2)採用時に不用意に継続雇用の期待を抱かせるような言動は行わない(3)正社員との採用、業務内容、処遇等の面における違い・区別を明確に維持し、正社員との混同意識を持たせない(4)更新手続き時には、複数名による面接やその面接記録を保存する等、厳格な更新手続きを実施する――などの点に留意する必要がある。
なお、労働契約の反復更新については、改正パート労働法8条2項により「期間の定めのない労働契約と同視」される場合のあることや、労働契約法17条2項により「必要以上に短い(労働契約)期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない」など、法律上の規定があることにも留意しなければならない。

【転換に関する留意点】

改正パート労働法12条で規定する「通常の労働者への転換」推進措置については、(1)いずれの転換措置を講じることとした場合であっても、公正な運用と周知をする必要があること(2)長期間にわたって転換実績がない場合は、転換措置を講じたとはいえないとされるおそれがあること(3)学生パートがいない会社で新規学卒者の募集を周知するなど、該当者がいないことが明らかな募集情報を周知するのみで、他の転換措置を講じない場合は、本条違反を問われるおそれがあること(4)正社員への転換資格を設ける場合、能力や経験とは異なり本人の意欲や努力等によって満たすことができない要件(例えば年齢の上限を設ける等)を設定すると、同法12条の措置を講じたとされないおそれがあること――などに留意し、対応すべきである。

【労働紛争を未然に防ぐ心得】

労働紛争は、未然に防ぐことが重要であり、そのためにも企業内の苦情処理制度等を充実させていく必要がある。具体的には、(1)苦情の相談窓口と処理機関の設置(2)人事担当者による相談受付(3)社内アンケート等による社員からの意見聴取(4)職場での労使協議や職場懇談会の実施――などが挙げられる。
また、派遣社員から団体交渉申入れを受けた場合、派遣先企業と派遣労働者とは、雇用契約関係にないため、派遣先企業は、派遣労働者の労働条件につき、団体交渉応諾義務を負わないのが原則であるが、労働紛争の未然防止という観点から、実務上においては、団体交渉ではなく「話し合い」というかたちで、誠意ある対応をとることが望ましい。

質疑・応答

【問】抵触日を迎える派遣社員を直接雇用に切り替えると、派遣社員の期間に積み上げた年次有給休暇がリセットされると思われるが、何も補償する必要はないのか。また、抵触日対応で雇用形態を切り替えるとき、労働者自身について、どのような問題が発生するだろうか。

【答】直接雇用に切り替えることにより、雇用主が派遣元企業から派遣先企業に変わる。転職したのと同じであるから年次有給休暇はリセットされて当然であり、補償も必要としない。
また、雇用形態を切り替えることにより、労働者自身の就業条件が変更される。特に、賃金・処遇体系の変更や転勤の有無等については、トラブルとなるケースが多いので、雇用主は派遣社員を直接雇用に切り替える際に、これらの点を十分に説明し、労働者の納得を得るよう努めた方がよい。

【労政第二本部労働基準担当】
Copyright © Nippon Keidanren