日本経団連タイムス No.2917 (2008年8月14日)

東富士夏季フォーラム 第1テーマ

「グローバルな課題解決に向けた日本産業界の取組み」


日本経団連は7月24、25の両日、静岡・小山町の経団連ゲストハウスで「第7回東富士夏季フォーラム」を開催した。同フォーラム、各テーマの課題提起、意見交換の概要は次のとおり。

〈前半〉「資源・エネルギー・食料問題等への取組み」

日本経団連評議員会副議長、資源・エネルギー対策委員会共同委員長  岡素之氏

課題提起

今日、世界経済は複合的なリスクに直面している。特に深刻なのは、原油と食料の価格の同時高騰である。その最も大きな要因は、グローバルな需給バランスが大きく変化したことにある。商品価格の高騰は金融的な要因でも増幅されている。

水問題も深刻化している。人口増加、経済発展などにより水需要は急速に高まっており、多くの国で水不足が発生し、水の汚染も広がっている。

食料問題についても、今後中期的に世界の食料需給の逼迫と、価格の高止まりが予想されている。短期的には、差し迫った状況にある人々に対する緊急食料支援や、緊急作付け支援など農業分野の援助が求められる。中長期的な対応としては、世界規模での食料増産と農業生産性の向上が最大の課題である。そのため遺伝子組み換え作物のさらなる活用に向けたリスク分析の促進や、輸送・貯蔵流通・品質管理といったインフラ面での改善が必要である。今後、世界の未利用地開拓により、食料供給力を高める動きも広がっていこう。特に日本のように自給力に限界がある国では、外国で生産し、日本向けの供給をコントロールするという意味での「他給力」が重要になる。バイオ燃料については、食料と競合しない原料へのシフトが期待される。

世界の食料需給の逼迫は、日本の農政にも少なからず影響を及ぼすとみられる。自給率の向上、食料安全保障の観点からも、耕作放棄地の増加に歯止めをかけ、農地の有効利用の促進や、減反政策の見直しなど、農業改革は避けて通れない課題である。安定的な輸入先を確保するという意味から、経済連携協定(EPA)などを通じた戦略的な食料の確保が、ますます重要になってくる。

今後は戦略的な資源・エネルギー外交の展開も不可欠である。自由貿易協定・EPAの推進、ODA等の活用により資源保有国との関係強化を図り、安定的供給体制を維持していく必要がある。

長期的なエネルギー需給バランスを実現するには、供給面としては、原子力エネルギーの計画的推進、化石エネルギーの有効利用、再生可能エネルギーの積極活用が重要である。一方、需要面では省エネ技術のさらなる向上と優れた省エネ製品・サービスの開発、普及を進めることが重要である。

また、日本の民間企業が保有する水処理技術を有効に活用することが世界の水問題解決の糸口になるであろう。

意見交換

参加者の意見要旨は次のとおり。


〈後半〉「低炭素社会実現への課題」

課題提起/日本経団連副会長  三村明夫氏

GDPを増やしつつCO2を減らすことが求められている。つまりエネルギー効率・エネルギーのクリーン度を高めるしかない。引き続きエネルギーのクリーン度、エネルギー効率を大幅に改善する技術開発を進めるべきである。

経済成長とCO2削減のベスト・バランスは国ごとに違うし、国の発展段階によっても違う。国際枠組みをつくるときにどう対応すればよいかについて、日本経団連としては、これまで、柔軟な枠組みを許容し、原単位による約束を認めるという自由度を与えるべきであると主張してきた。これは、各国の事情に応じたベスト・バランスを許容すべきだということを意味している。

地球温暖化問題は、先進国のみならず、途上国の積極的な参加がなければ解決できない。京都議定書の問題点は、先進国が削減義務を負ったことであり、これを見直すことが今後の課題である。

京都議定書の削減率は日本6%、米国7%、EU8%だが、原単位では日本94、米国242、EU175である。日本は圧倒的に大きなコストをかけなければ削減ができない。国別目標設定がフェアでないと国際競争力に重大な影響を与えるという問題を解決する唯一の手段はセクトラル・アプローチである。

低炭素社会の実現に向け、まず技術が重要であるということを認識し、技術の開発・普及を行うべきである。国内で技術開発の方針についてしっかりした合意を得、必要な費用は財政から支出すべきである。

課題提起/21世紀政策研究所研究主幹、東京大学先端科学技術研究センター教授  澤昭裕氏

洞爺湖サミットの評価については、EUが、日米とともに途上国の関与が必須という点で合意ができたことが最も重要だ。さらに、セクトラル・アプローチの有効性、技術革新の必要性についても確認された。

排出権取引制度が環境税と異なる点は、転嫁ができるかどうかである。消費者は、企業努力で負担分を企業が吸収できると思いがちであるが、最終的には消費者の負担になる。こんなに大きな負担になるとは知らなかったということになりかねない。また、所得の低い人や、ガソリン消費の多い地方在住者にとって大きな負担になりかねない。こうした点についても、政治家は国民に説明する必要がある。

永遠にトップランナーを維持することが求められる場合に、日本の産業界は限界コストの高い投資を強いられる可能性がある。国と産業界の合意を法律、契約、協約等どのような形式で行うか、省エネ法ではエネルギー転換までカバーできないので別の規制が必要になるのか等の議論はこれからである。国際交渉で公平な目標設定ができるかどうかは外交力次第であり、外交がうまくいかない場合に産業界へしわ寄せがこないように、セクトラル・アプローチで国際産業間の合意を急ぐべきである。政府に求められるのは、議定書に国際産業間の合意をどう統合するかのアイデアである。

意見交換

参加者の意見要旨は次のとおり。

【社会第二本部】
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